義妹とロッカーはえろくなるのか?

 な、渚……ちょ、ちょぉー⁉︎

 「星良さんと彩芽さんは、どうしてわたくしの居場所がおわかりになられたのですか?」

 出入り口に向かう合間、歩きながら気安い調子で訊いてみた。 

 「……それのことですか」

 「ああ、それね〜」

 何気ない質問だというのに目を逸らす星良。彩芽はカラカラと笑っている。

 愛華は、「訊いてはいけませんでしたか?」と小首を傾げ、二人の顔を交互に見やった。

 星良頬がほんのりの赤みを帯び、チラチラこちらを二度三度と視線を送ってくる。

 彩芽は「ああ、まじ傑作だわぁぁ、傑作」と膝を叩いてバカみたいに笑っている。

 すると、彩芽が話したくて話したくて仕方ないというように、口を開く。

 「あーしたち姉さんを追いかけに行ったんだけど、途中で見失っちゃって。その時に星良が……プー……フフ……姉さんの、涙を……ブブッ……⁉︎」

 もはや堪えきれないように、失笑しながら説明をしてくる。これではおおよそしかわからないが、星良が何かやらかしたのはよくわかった。

 星良が頬を照れくさそうに染めていたし。

 愛華は星良の奇行……ではなく有志の全貌ぜんぼうが知りたくなり、立ち止まった。そして、二人のクビネックを掴んで歩みを止めさせた。

 ちなみに先ほどまで手を繋いでいたのだが、星良と彩芽が手汗を気にして離してしまったのである。気にしないと言ったのだが、「綺麗な手を汚すわけにはいきません!」と言われたので仕方なく。まあ、離す際に星良と彩芽の手を頬擦りさせてもらったのでよしとした。

 (……? お姉様が私のクビネックを掴んでいる……? はっ⁉︎ これが知る人ぞ知る猫ちゃんプレイというやつですか! まさか、こんなところでお誘いが来るなんて! よく勉強しておけばよかった……。私のばかバカバカー!)

 盛大な勘違いをした変態星羅

 (……? 姉さんがあーしの首を掴んでる? なんか用か? それなら直接……人に言えないことか! それなら、戯れのお誘い⁉︎ うわー、今日か……。今日の下着イマイチなんだよな……。でも夜なら)

 盛大な勘違いをした欲求不満者彩芽

 二人だって華の女子高生。お年頃なのだ。

 ((……よし))

 そして最適解を割り出し、第一声を決め同時にザッと振り向いた。

 「ニャーゴ」

 「夜なら空いてるぜ」

 「…………え?」

 独特かつ不明瞭な一言目に星良と彩芽、愛華はきょとんと目を合わせた。

 「……ええと……星良さん。なんで『ニャーゴ』ですの? それに『夜なら空いてる』とは……?」

 「……てっきり猫ちゃんプレイなのかと思いまして……」

 「あーしも戯れのお誘いかと……」

 二人は自重気味言うと、愛華は「あらあら」と口元をほころばせる。

 「そんなにわたくしが恋しくなったのですか」

 二人はコクリと頬を赤らめ頷いた。

 愛華は妖しげに笑う。

 「そうですわね。わたくしも、お二人にご迷惑をかけたことですし、今夜あたり、その猫ちゃんプレイ? とやらでよろしいですか」

 「は、はい、それはもう」

 「ドンと来いだ」

 妖艶ようえんに誘うと今から楽しみといように興奮しだす。

 「んじゃんじゃ、姉さん。その、ランジェリーショップで下着……選んでくれないか?」

 勢いに任せ、ウブな彩芽が自分から誘う。

 「ええ、もちろんですわ。わたくしが直々に選んで差し上げますわ」

 ノリノリで愛華も選ぶ気満々で、今から彩芽にどんなのが似合うか妄想が膨れる。

 「彩芽さんには、紐付きのなんていかがてしょう」

 「ひもつき?」

 彩芽は眉を寄せると、失敬して耳打ちをする。

 すると、彩芽は顔を真っ赤にする。

 「そ、そんなの無理だよ⁉︎ 絶対似合わないし!」

 「そんなことありません! わたくしの脳内では、ベストマッチしましたぁ!」

 「姉さんの脳内どうなってんだよ⁉︎」

 「お姉様! 彩芽さん! 二人の世界に入らないでくださいよ!」

 「ちょっと星良は黙ってて!」

 「それは、紐パンを履いて……姉さん……引っ張って……きゃぁぁぁぁ! 彩芽さんだめですぅー⁉︎」

 もう無茶苦茶だった。

 彩芽はひたすら叫んでるし。

 星良は頬をぷくぷくと膨らませるし。

 愛華は愛華でくねくねと両頬を押さえて下着姿の彩芽を語りだすし……百合モードに入るし。

 「ああ、もちろん星良さんのも選びますからね」

 「いいんですか⁉︎」

 「はい。むしろ選ばせてください!— —黒のスケスケキャミソールとガーターベルト」

 「なっ……⁉︎」

 それはいつぞや愛華の妄想で出てきた大人の星良だった。夢が叶う時が来るとは……。

 愛華は失った名誉より、手に入れた幸福の多さに感慨深く頷いた。

 「いやー、今日は収穫いっぱいですぅ」

 愛華は曇りのない晴れやかに微笑みんだ。

 星良と彩芽も自然と笑みが溢れた。

 「さあ、クラスのみなさんにも心配してることですし、戻りますかぁ」

 愛華は両手を腰に組んで振り返ると朗らかに微笑んだ。

 星良と彩芽は愛華を追いかけるように、出入口へと向かった。

 ちなみに星良と彩芽がここに辿り着けたのは、愛華の流した涙を辿ったからである。まあ、それを愛華のと判別するのに星良はぺろっと舐めていたけど……非常時だし仕方ないよね。

 

       

 

 愛華達がイチャコラしている間。

 駿と渚が掃除用具入れに飛び込んで数分が経過していた。

 二人の熱気と体温で中はサウナ状態だった。

 体からはじっとりとした汗が垂れ、呼吸はおのずと荒れ口呼吸になる。ムンムンとした暑さに、湿っぽい汗の臭いが鼻や喉をつんざく。

 「……」

 「……」

 二人は一言も話さない……のではない。言いたいことは山三つ分くらいある。

 まず、隠れる必要があったのかということだ。

 こちらに迫ってきていたとはいえ、十分距離も離れていたし、階段下ればよかったのだ。そこで偶然を装って、謝れば済む話だったのに。

 余計話をややこしくした気がしてならない。

 それと、

 「⁉︎ お兄ちゃん……頭にフンフンしてくるのやめてくれる? くすぐったい」

 「あ、わるい」

 駿と渚は向かい合う姿勢で潜んでいるので、頭に息が吹きかかるのは致し方ない。

 しかも、上に小さな戸棚がついてるため、駿は首を折らずにいられないのだ。そうして、呼吸する度に渚の頭に息が吹きかかる。

 「……もう、くすぐったいってー。私で発情でもしてるの?」

 と、笑いながら。しかし、上目遣いで言ってくる。

 「私に発情するのは構わないけど、こんなところで……はじめては……」

 ツインテールをいじいじ指に巻き付けながらチラチラと見てくる。暑さのためか恥ずかしいのからは定かではないが頬が赤くなっていた。

 駿は戸棚に頭をぶつけ、声を荒げる。

 「発情などしとらんわ! 変なこと言うなよ!」

 「……いいよ? 我慢しなくて。」

 「我慢なんかしとらん!」

 「渚が優しく……手解きするよ?」

 「せんでいい、せんで!」

身動きが取れないので顔で訴えるが効果はない。渚の猛攻は続く。

 「……お姉ちゃんに教えてもらったからできるよ? こうやって優しく包むように局部を……」

 「実演すな!」 

 小柄な渚が手を輪にすると上下にシュポシュポと動かす。

 駿はその仕草に男として反応しそうになるが、兄として超えてはいけない一線はわきまえているつもりだ。

 義姉貴あねきも純情な渚になんてことを。渚には一○年早い。なんなら一生知らなくていいことを。

 「まったく……姉貴は自分の妹に何吹き込んでんだよ……」

 「お兄ちゃんのとし方」

 「うぐっ……」

 さらっとすごい力言葉パワーハードに咳き込む駿。

 「渚。そういうのはな、好きな人にしかしちゃいけないんだぞ?」

 「……わかった」

 か細い声で、頷いてる。

 そして、

 「— —じゃーするね」

 「え?」

 渚はわずかに空いている駿との間をヒョイっと詰めると、駿の胸に自信の手を置き、寄りかかってくる。

 「渚⁉︎」

 駿は声を裏返らせた。話の道筋が見えない。今の流れで『じゃーするね」それは……つまり、駿のことを— —

 「……何やってる?」

 「う〜ん? お姉ちゃんはこうやって囁けば、男はそういう気分になるって言うから」

 「……台無しだよ」

 カチカチと駿のベルトを外そうとする渚にジト目で告げた。

 それに反してけろりとした表情でふにゅう? と小首を傾げて駿の顔を覗き込んでくる。

 そして、お姉ちゃんにしっかり教わっとこと心に決め、続行するのであった。

 

      

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る