疑心暗鬼

 「……っ、うっ、う……っ、ひ……っ」

 嗚咽を漏らしながら、人気がない廊下をあてもなくひたすら走る愛華。

 今は授業中。当然、人の姿はない。

 ——それでも

 誰かに見られているんじゃないか

 面白がるように笑ってるんじゃないか

 優越感に浸ってるんじゃないか

 疑念と恐怖が込み上げてくる。

 (きっと今クラスでは、わたくしをさかなに盛り上がってるに違いありませんわ)

 そのくらいの傷で

 高校生になって

 泣き喚いて

 恥ずかしくないの?

 そんな風に思われている。

 そんな幻聴に共鳴して涙腺が緩む。

 そして——胸の中の黒い渦だけが残った。

 (ああ、何やってるんだろう、わたくしは……。星良さん、彩芽さんを傷つけ、あまつさえ、教室を飛び出すなんて……)

 頬を伝う冷たい涙が、温かい血液が混じり合う。そして、陽光に反射する血涙を残しながら。

 愛華は身を隠すように失踪した。

 

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