下着は着けているのに限る

 倉庫前で一人愚痴を漏らす駿の姿があった。そのポケットにはしっかりと彩芽のブラが入っていた。

 あの後ブラを返すため、女子更衣室に行ったのだが……鍵が掛かっていたので、仕方なく、仕方なくだよ? まだ彩芽のブラを触っていたいとかそんな下心はないよ? なので、彩芽を探すことにした。

 「彩芽さん……どこ、行ったんだろ?」

 錆び付いたロボットのような動きになりながら彩芽を探す駿。

 すぐに追い駆けようとしたが激痛で動けず、動作がままなるようになってからでは、彩芽は見つからなかった。

 どうしたもんかと困っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 「わたくしは校舎内を、星良さんは校舎周辺をお願いしますわ」

 「了解です」

 「彩芽さんを見つけたらサッカーゴール前で落ち合いましょう」

 「はい」

 愛華と星良だった。

 愛華が捜索場所を仕切り二人は担当する場所へと散って行った。

 「おーい、愛——」

 駿はそこまで言ったところで踏みとどまり、壁際に隠れた。いや、踏みとどまるしかなかった。

 なぜなら、何度も言うが駿は彩芽のブラをポケットに携えているのだ。こんな警察待ったなしの状況で愛華に声を掛けられるはずがない。

 駿は腹の底に冷たいものが広がるのを感じた。

 

 「ん?」

 「どうかなされましたか?」

 「いえ、ただ下賤な男の声がした気がするのですけど……」

 「そんな声しましたか?」

 「……空耳ですかね」

 「きっとそうですよ。私はお姉様の空耳になりたいですけど!」  

 「……出てきたらお教えいたしますわ……」

 「はい!」

 言って満足そうに校舎外の捜索に出向いた。

 

 数秒後。愛華と星良が居なくなると、駿は安堵の息を吐いた。

 「ハァ〜」

 我ながら間一髪だった。

 駿はホッと胸を撫で下ろした。

 「ん……?」

 不意に空を見上げた。

 突然ぽつんと首筋に冷たい雫が垂れてきたのだから。

 「……うわ」

 上手くように言って、顔をしかめる。

 駿が校内に向かうタイミングを見計らってか、バケツをひっくり返したような大雨が降り注いだ。

 慌てて、校内に戻るクラスメイト。駿は体育倉庫前だったので、一時的に雨宿りすることにした。

 倉庫前に避難すると中にはボール、マット、バット、三角コーン、ハードル、綱引きの縄などが所狭しに置いてあった。

 ——すると

 バシャバシャと水を跳ねさせ、両手で頭を押さえながら走ってくる少女が見受けられた。

 ——愛華だ

 雨の中を泳ぎようにこちらに近づいて来る。

 駿は身を隠そうとしたが——遅かった。

 「やっと、辿り着きましたわ……」

 ため息混じりな声を漏らした。どうやら暗がりのせいで、駿には気づいていないようだ。

 愛華は濡れた前髪をかきあげた。

 しっとりと濡れた白髪の毛先から滴る水滴。張り付いた雫はイルミネーションような輝きを発している。

 その幻想的なその光景に感嘆しそうになるほど、美しく、儚かった。

 (これが水も滴るいい女か)

 駿はその神秘的動作にニヤけていると、自然。愛華の双丘に目がニュ〜っと下がっていく。

 雨が降る=髪や体が濡れる=体育着が透ける=下着が見える

 濡れた体育着が愛華の体に張り付き、くっきりと体のラインが余すことなく曝け出される。その肉体ボディーが駿を漠然とさせた。そして、透けるピンク色のブラが駿を酩酊……度数の高い酒を飲んだような錯覚に襲われた。

 それと同時に

 (……やっぱりブラは着けている姿に限る)

 彩芽のブラが入ったポケットをパンパンと叩きながら思った。

 愛華は、ハンカチをポケット取り出し濡れた体を拭き始めた。そして、おもむろに視線を落とすと、体育着が透けていることに気づき、バッと両手で覆い隠しながらキョロキョロ仕出す。

 (ええぇぇぇぇ、うそ⁉︎ 透けている⁉︎ ど、どおしましょ⁉︎ 変えの体育着は更衣室ですし……わたくしここに来る前、何人かとすれ違ったような……)

 愛華はタコのように顔を紅潮させ、じっとして居られずうろちょろし出す。

 倉庫の入り口でぐるぐるしていると——

「「……ッ⁉︎」」

 コンとマットにつまづいた。

 そして、駿は愛華を庇うように両手を広げて飛び出した。

 それがいけなかった。

 「……⁉︎」

 愛華もこちらの意図を察してたのだろう。触れられないように身を捩る。

 それもいけなかった。

 二人が起こした偶然が重なり——愛華が駿に覆い被さる大勢で倒れ込んでしまったのだ。そして、愛華の不幸は続く。まるで一時間目に運を使い果たしたかの如く。

 ——駿の頬に愛華のチェリーのように赤い唇が当たっていたのだ。

 「……っ」

 愛華は顔面を蒼白し、息を詰まられた。

 そして、風を切り裂く勢いでバッシュっと起き上がった。

 駿はくるであろう憤怒の罵声に歯を食いしばる。

 が、いくら経っても何も起こらない。チラリと愛華を見ると、立ったまま気絶し、倒れてきたのである。

 駿は慌てて愛華をキャッチするとマットの上に寝かせてあげた。

 「おい! 愛華!愛華!」

 いくら声をかけても、

 「う、あ……、ううぅ……ッ」」

 聞こえてくるのは呻く声のみ。

 どうやらうなされているだけのようだ。大方先ほどの出来事がフラッシュバックしているのだろう。

 駿は愛華から身を離し、自分のジャージを掛けてやった。色々と目のやり場が困るからである。

 「ま、起きる前に外してやれば大丈夫だろ……」

 駿がジャージを掛けてやると、マットを掴み上げ、苦悶しながら身を捩っている。額には汗が発汗している。なんとも失礼な奴だ。

 駿はジャージを取ってやったが、あまり変化はなく、歯を食いしばっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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