保健室

 保健室ってえろくな〜い?

 「あなたを絶対に幸せにしてみせます!」

 いつものように校門付近で、告白をする男子生徒の姿があった。

 確か、剣道部部長の剣崎という人だった気がする。

 愛華はため息を吐いた。

 「はぁー、毎朝毎朝鬱陶しいですわね」

 今日の愛華は機嫌が悪かったのか、蔑んだ目で言い放った。それだけでは終わらない。

 いつもならテキトーにあしらって「はい、さようなら」ではなく、吐き捨てるように再度ギロリと睨みつけた。

 そして、涼しげな顔で玄関へと向かった。

 確かに愛華の気持ちもわからなくもない。入学して一ヶ月以上経とうというのに、毎日誰かしら告白をして振られる。この繰り返しである。精神的にも疲れるだろう。

 中には、愛華への告白を遊び半分で行う者や、誰が愛華を落とせるかという賭け事の道具に使う者までいる。  

 それに加え、この告白イベントを見るため、早く登校してくる生徒ですらいる。

 駿のように。

 おかげで早寝早起きの習慣が身につき、遅刻ギリギリに来ることはなくなった。

 愛華に感謝したいくらいだ。

 駿が階段を登り教室をガラガラと開けるとそこには、窓際の席に姿勢正しく座る、愛華の姿があった。しかも難しそうな本を読んでいた。

 駿は自分の席に荷物を置くと、愛華に挨拶をした。

 「愛華、おはよ」

 言った途端、周囲から「てめ何コラ、愛華様に話しかけてんだぁ!」という視線か四方八方から注がれた。 

 愛華はため息を吐くき、視線を鋭くした。

 「気安くわたくしの名を呼ばないでいただけますか? わたくしの名前が汚れてしまいますわ。ただでさえ、隣に居るだけで鬱陶しいのですから」

 これまた嫌そうに罵倒してくる。毎回こんなやりとりをしていると、新しい扉が開けてきそうだった。

 駿は苦笑すると席に着いた。

 (じゃーなんで女子校に行かなかったんだよ⁉︎)

 心の中で叫んだ。

 ウチの学校は小中高大が一貫になっており、プラスして女子校が付属しているのだ。

 聖女学院高校

 長い歴史を誇る学校で、生粋のお嬢様校だである。中世ヨーロッパをイメージして造られた校舎はさながら、長い歴史を感じさせた。制服に至っては、煌びやかなドレスを思わせるデザインに仕上げられ、全国トップレベルの女子校だ。

 体育祭や文化祭のイベントごとを毎年合同で行い競い合うらしい。

 駿は思った。

 (こんなに女の子いっぱいの環境なら、百合っ子の愛華にとってぴったりなんじゃ……何か理由が……)

 駿が顎に手を当て考えを巡らしていると、二人の人影が近づいてくる。

 「お姉様、大丈夫ですか?」

 「お前! 毎朝姉さんに話しかけんじゃないよ!」

 星良と彩芽だ.

 星良は愛華を心配し眉を寄せ、彩芽は駿を睨んできた。

 二人の取り巻きに怒られる。これも毎朝の恒例行事だ。

 「お二人とも、心配してくださるのはありがたいのですが、少し落ち着きなさい。可愛いお顔が台無しでしてよ? それに——」

 愛華は立ち上がって二人の耳元で何かを囁いた。そして、流れるように星良の顎を持ち上げ、星良の赤い唇に人差し指を当てた。

 そして、

 「うふふっ、た•の•し•みにしてますわ」

 言って、柔らかそうな桜色の唇から、濡れた舌先を覗かせた。そのまま、先ほどまで星良の唇に当てていた人差し指を、ゆ〜っくりと時間をかけて、ペロ〜りとなめた。

 その隠避な仕草に全員が赤面した。

 次いて、星良同様に彩芽の顎を持ち上げられていたが……「今さっきのを……あーしにも⁉︎」とでも考えたのだろう。その時点で気絶していた。

 よく愛華を見てみたら、残念そうに眉を下げていた。その一瞬を見逃さない駿も駿で変態のように思えてくる。が、よしとしておこう。

 全員が顔を赤くしているとチャイムが鳴り響き、皆我に返り咲き席に着いた。

 ホームルームが始まったが、気絶した彩芽をそのままにしておくことはできない。愛華、星良は、彩芽を保健室へと連れて行った。

 そして、その後一時間は帰ってこないとは、誰も思わなかった。

       

       ◇


 愛華と星良は、気絶した彩芽を休ませるため、保健室を訪れていた。

 保健室内を見回すも、保険の教員は見当たらない。ただ、川の字でよ 横向きにベットが並べられていた。どうやら一つ一つカーテンで仕切れるタイプのようだ。

 どことなく愛華の目が猫のように輝いているような気がした。が、とりあえず彩芽をベットに寝かせることにした。

(これって……チャンスじゃないですかぁ⁉︎)

 愛華はベットに寄りながら、百合全開だった。

 ふかふかのベットに触れ、軽くシーツを整える。そして二人は息を合わせ、ベットに乗せた。

 だが勢い余ってか、彩芽のお腹がペロンとめくれてしまった。

 その時、愛華のブレーキがバキッと音を鳴らして折れてしまった。

 「えへへ〜いい体してますねぇ、彩芽さんこの引き締まった筋肉がなんとも——」

 「お姉様⁉︎」

 愛華が息を荒げながら、日に焼けた褐色の肌、六つに割れ始めていた腹筋を一つ一つなぞっていた。すると、後方から「ずるいです!」と言いたがな視線が愛華の背中に注がれる。

 愛華はそんなのお構いなしに、彩芽の制服をさらにめくり、端正な指ですお腹を撫で回す。見ているこっちがゾクゾクしてきるほどに。

 それだけでは終わらない。彩芽の制服からブラジャーが露出していた。紫色だった。そこまで彩芽をひん剥くと、お腹をぺろっとひと舐め。

 これには星良も見過ごすわけにわ行かなかったのだろう。目をぐるぐるさせながら、大股で愛華に詰め寄ってくる。

 「お姉様!彩芽ばっかり……わ、私もお姉様と……したい、です……」

 愛華は星良に目配せした。「いいんですわね?」というように。

 星良は了承するようにこくりと頷いた。

 そして、勢いよくベットに星良を押し倒す愛華。すかさず、カーテンをザッザとカーテンを閉めてきた。

 (もしかして⁉︎ すぐに返してもらえないタイプーーーー⁉︎)

 勢いで言っててしまった星良だが、こうもガッツリくるとは思わず、頬を赤くした。

 (こうなったら……もう、しっかり抱いてくださいよね! お姉様ー!)

 もう半分やけになっていた。

 ベットに押し倒した際に、アップでまとめられていた髪は解け、制服は乱れ、肌の露出が増えてしまっていた。普段は見られないあ〜んなところやこ〜んなところがこんにちはしていた。

 星良はさらに頬を赤くした。

 そんな星良を面白がるように、愛華は星良に覆い被さった。

 「星良さん、わたくしが囁いたこと覚えていますかぁ?」

 冷静さを欠かれていた星良は、一瞬にして意識を現実に引き戻した。

 「はい、もちろん覚えています」

 囁いたこと……それは——放課後三人で愛華の家でイチャコラすることだった。

 「ここで、しちゃいましょうか」

 「……え?」

 愛華が何を言っているのか理解が追いつかないという顔を作り、

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー⁉︎」

 絶叫した。 

 「では、やめちゃいますかぁー?」

 (そんな悪戯な笑みで言われたら……)

 断れるわけない。星良は愛華のやっすい挑発に乗ってしまった。

 ——意を決して

 「……お願い……します。星良を、可愛がってください」

 上目遣いになりながら、恥ずかしそうに両手を広げてくる。

 愛華は「これを待っていましたー」と言わんばかりに、妖艶な笑みをこぼした。

 「うふふ、ありがとうございますぅー。では——」

 彩芽同様躊躇う様子も見せずに、制服をツーっと捲り星良のお腹に指を這わせてくる。

 「んっ……はぁっ、ん、んんー……」

 指が近づくたび、可愛いらしい声が漏れ出していく。心臓はバクバクと高鳴り、興奮や緊張のためか体中が汗ばんできた。

 愛華はそんなの気にしない様子で、脇腹に伝う星良の汗をなめた。

 「おおお姉様⁉︎ いや……そんな、とこ……汚いですよ……」

 恥ずかしいそうにカァッと頬をさらに紅潮させ、嫌そうに止めようとするが……

 (キャぁー、お姉様の体に私の汗がー!)

 内心では滅茶苦茶喜んでいた。

 「星良さんのなら平気ですよぉ?むしろ塩分足りなかったので、丁度いいくらいです!」

 そうもきっぱり言われてしまうと照れてしまう。

 星良は体中がチリチリと熱くなっていくのを感じた。

 (ん? お姉様?)

 よく見たら愛華の耳の先が赤くなっていた

 (な〜んだ。お姉様も恥ずかしいんだ。)

 星良は自分だけでないことに安堵しつつ、勝ち誇った気になっていた。

 そして、その考えは浅はかだったと気づかされる。 

 (あらぁ〜、星良さん余裕そうですねぇ。まあ、今にその余裕そうなお顔を羞恥でいっぱいにしてあげますからねー)

 自分よりも平常心を保っている星良むっとした。そして、星良の上に馬乗りになる形で思考を巡らせた。すると、何か思いついたかのように不適な笑みを浮かべ、じりじりと星良に顔を近づけた。

 微かな香水と汗の匂いが星良の鼻腔をくすぐる。沸騰しそうになる頭をどうにか抑えながら、目をキュッと瞑り、顔を手で覆い隠した。

 「あぁん、ダメですよぉ。そんなことしたら、星良さんの可愛い可愛いお顔が見えなくなっちゃうじゃないですかー!」

 言いながら、星良の腕を強引に退けようとしてくる。数秒とただずに星良の顔は愛華の元に曝け出された。

 (……再びチャンス到来じゃないですかぁー⁉︎ 彩芽さんといい星良さんといい、神様って実在するんですね! もうこれ、あれですよね? ぶちゅーっと決めちゃっていいですよね! では、いただきますぅー) 

 恥じらうことなく、星良の唇に自分の唇を押し当てた。

 吸い寄せられるほど柔らかい口あたり、赤く分厚い湿った星良の唇に、ドキドキが止まらない。

 すると——

 「……⁉︎」

 愛華は驚きに目を見開いき、ビクッと身を震わせた。

 それもそのはず。愛華の口の中に——星良の舌が捩じ込まれたのだから。

 生物のように絡み合うと舌先。触れ合う粘膜。交換し合う唾液。お互いの吐息も呑み込もうとする。

 星良の一生懸命な思いに気圧される愛華。

 唇を離し、綺麗な唾液の架け橋が弧を描く。

 愛華は誤魔化すように咳払いをし、逆に羞恥に染められた表情を取り繕う。

 「……あらあらぁ〜? 今日はやけに積極的ですねぇ」

 頬をひくつかせ、声を引き攣られながら、星良を刺激する。明らかに自分の感情を隠そうとしていた。

 すると星良は、まっすぐな瞳で愛華を見つめてきた。

 そして、

 「私も好きですから、お姉様のこと」

 トドメの一撃をお見舞いした。効果は抜群だ。

 愛華は狼狽しながら

 「……嬉しいですねー。では、こちらはどうですかぁ?」

 言って、星良のジッパーに手をかける。

 「お姉様は、ずるいです。……そんなの、良いに決まっているじゃないですか!」

 涙ぐんだ声でそう言うと、愛華の胸の急所にぐさりと突き刺さった。  

 (このまま、負けるわけにわいきません!)

 いつから勝負になったのかは謎だが、ここからは愛華のターン。

 愛華は星良のジッパーをガッと下ろし、スカートを剥ぎ取った。そして、セーラー服をブラジャーが見えるまで捲り上げた。花柄で緑色のパステルカラーだった。

 「綺麗な下着ですねぇ。星良さんの髪色とお揃いで素敵ですぅ」

 愛華の率直な感想に、星良は視線を彷徨わせ微かに微笑んだ。

 「あ……っ、ありがとう、ございます。こ、これ……私の勝負下着なんです……」

 (きゃあーーー⁉︎ 言っちゃいました!どうしましょ⁉︎ 私この後、どうなってしまうんでしょう⁉︎ どんな顔をすれば……)

 心の中で絶叫を上げながら、ゴロゴロと床を転げ回る星羅。しかし、ここまできたならいくとこまで行こう。

 星良は愛華に向き直った。

 「お姉さ——」

 「もしかして、わたくしが今回誘うの知っていたんですかー?」

 星良の言葉を遮り、興奮をクライマックスまで引き上がていく愛華。その高ぶるテンションに気圧されながら、

 「……そろそろお姉様と……し、したいと思っていたので……」

 弱々しい……でも、確実な本心を告げた。

 「なんですなぁー⁉︎ その可愛いの! そんなメス猫ちゃんにはご褒美をあげなくちゃですね!」

 愛華は自分の心の獣が抑えきれない様子だった。

 そして——


 「本番はここからですぅ。では、心いくまで堪能させていただきます」

 

愛華は高らかに宣言をした。

 相変わらずすうすうと寝息を立てている彩芽を横目で確認しながら。

 星良は一筋の汗を垂らした。

  

 一限目の開始を知らせるチャイムはとっくに鳴っていた。

 愛華は星良を隅々まで堪能した。

 お互いの体中にキスをしながら。

 愛華はまず、星良の太ももへとキスをした。

 太ももへのキスは相手を支配したいという欲求。

 星良はその意味を知っていた。

 初めはなんのことだかさっぱりだったが、愛華とな戯れを経るうちに覚えてしまったのだ。最初こそは驚きもしたが、お姉様からの信頼がこそばゆく、嫌な気はしなかった。

 太もものキス後、交互に髪、鎖骨、鼻、喉、瞼、首や首筋、手首、そして手の甲、胸…… へとキスをした。

 髪へのキスは相手への親愛。

 鎖骨へのキスは性的欲求。 

 鼻へのキスは慈しみ。

 喉へのキスは支配欲。

 瞼へのキスは相手への憧れ。

 首や首筋へのキスは執着心。

 手首へのキスは相手への懇願。

 手の甲へのキスは敬愛、尊敬。

 胸へのキスは情欲。

 「お姉様、これ以上は……」

 星良は時計チラリと見て愛華を静止させた。保健室を訪れてからかなりの時間が経っていた。このままでは、誰か来てしまうかもしれない。こんなエッチな格好を愛華以外には見せたくなかったのだ。

 もう一つの理由として、愛華が星良の下着を脱がそうとしてきたからだ。

 ここは学校流石に全裸になるわけには……。

 つまり、愛華の家ならよかったのだ。学校では本気で楽しむことができない。まあ、スリルが良いスパイスになっている気もするが……。

 愛華の秘密を守るため、星良は心を鬼にした。

 「そうですねぇ。流石に下着まで脱がそうとしたのは良くありませんでしたね」

 愛華は星良を舐め回すように見ると、性的欲求がくすぐられたかのように、唇をを歪ました。

 「星良さん知っていますかー?人が汗をかく理由を」

 質問の意味はよくわからないが、星良は昔見たネットの記事を思い出した。

 「えっと……体を冷やすためですよね?」

 「そうですねぇ。でも、わたくしが訊きたかったのはそういうことじゃないです。フェロモンについてです。汗には、フェロモンが含まれていて、その匂い嗅いでしまうと——今のわたくしみたいになってしまいます!」

 愛華はニヤニヤが止まらない感じだった。確かに欲求が抑えられていなそうだった。目の前には獲物をとらえた鷹のようだ。

 星良はしどろもどろになりながら、ちらっと愛華を見上げた。

 「もしかして……」

 額に汗を滲ませ、「あ、これまずい?」という顔を作った。

 そして、本日三度目の星良の唇を奪った。

 そう。汗には好きな相手を誘惑する作用が含まれている上に、愛華との戯れが長期にわたっため、星良の体には玉のような汗をかいていた。

 そして、星良の汗……フェロモンに耐えきれなかったのだろう。

 その後一時間あまり戯れた。そして教室に帰ってきた星良は、なぜか体育着。それも長袖長ズボンのフル装備だった。愛華はお淑やかに帰ってきたが、こちらもなぜか、できるだけ肌の露出を減らしていた。

 


 


 

 


 

 

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