第34話:完治

神歴808年・公国歴72年12月27日ベーメン公国リューネブルク侯爵領に接する魔境の奥深くにあるダンジョン前の恒久陣地:アンネリーゼ視点


「侯爵閣下、アンネリーゼ様、新しい魔導書でございます」


 今回のダンジョンアタックを指揮していた騎士隊長が、恭しく魔導書を差してくれるので、こちらも威厳を正して受け取りたいのですが、駄目です。


 子供返りした侯爵が、体を屈めて私の身体に抱きついた状態では、威厳を見せる事など不可能です。


 体を屈めるどころか、膝をついて私の左横腹に頭をつけてスリスリする侯爵。

 この状態で魔導書を受け取るのは結構恥ずかしいです。


「よくやってくれました、どのような魔導書か確認します」


 ダンジョンの最奥で手に入れた魔導書は、中身を確認する事なく私の所に運ばれるようになりました。


 真偽のほどは分かりませんが、これまで私が直接手に入れた魔導書が、全て私の習得していない魔術だったからです。


 今回は持病の腹痛がいつもより酷く、初めて自分の手で取れなかったのですが、家臣たちの手で取るのはしかたないにしても、中身だけは確認しなかったのです。


 誰が確認するかしないかによって、中身が変わるかもしれないからです。

 私が習得していない魔術なら、何が出てもかなり高レベルの魔導書になります。

 いつもと違う手に入れ方がどう影響するのか、不安と期待で胸が高鳴ります。


「レベル5の状態異常快復魔導書です!」


「「「「「ウォオオオオ!」」」」」


 私たちはようやくやりました、ようやくレベル5を手に入れられました!

 問題は、これがまたエリア魔術かもしれない事です。

 エリアハイステータスリカバリーでなければいいのですが……


「やりました、スーパーステータスリカバリーです!」


「「「「「ウォオオオオ!」」」」」


 謁見用の建物にいる家臣たちが躍り上がってよろこんでいます。

 私もとてもうれしいです、これで侯爵を完治させられるかもしれません。

 問題は、私がこの魔術を習得できるかどうかです。

 

「待ちなさい、まだよろこぶのは早いです。

 私がスーパーステータスリカバリーが覚えられなかったら何にもなりません。 

 覚えられたとしても、侯爵閣下が治らなければ意味がありません。

 先ずは練習します、誰か練習台になってください」


「だめだ、誰も練習台になっちゃだめだ、僕が治ったらアンネリーゼがでていってしまう、だから僕を治すな!」


「そんな事を心配していたのですか?」


「だって、アンネリーゼはずっとここから出て行きたがっていたじゃないか!」


 侯爵の縋るような目が胸に応えます。

 ポロポロと流す真珠のような涙が、こんな出会いも良いかも思わせてくれます。


「もう大丈夫ですよ、私も侯爵閣下の側が良くなりました。

 侯爵が完治されても出ていきません、安心してください」


「やくそくだよ、絶対に出て行っちゃだめだからね!

 それに、家臣を練習台にしなくていい、最初から僕にかけてよ」


 周りの家臣たちに目をやると、全員が期待に満ちた目をしています。

 

「分かりました、練習も侯爵閣下にさせていただきます。

 我が魔力を集めて苦しむ者を快復させる力に変える、スーパーステータスリカバリー」


 何百何千何万と魔術を放ってきたお陰でしょうか、最適の魔力量が分かります。

 いえ、魔導書は才能さえあれば失敗する事なく魔術を放てるのでした。

 

 よかった、私には才能が有ったようです。

 初めての挑戦でスーパーステータスリカバリーが成功し、侯爵の身体が私の放った魔術に包まれて光り輝きます。


「約束だぞ、絶対に私の側から離さないからな!」


 男らしい言葉と共に強く優しく抱きしめられました。

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没落男爵令嬢ですが、父の借金で婚約破棄させられ、ガマガエル爺の妾にされる所を、宗家当主に助けられました。 克全 @dokatu

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