第32話:レベル4状態異常快復魔術

神歴808年・公国歴72年9月27日ベーメン公国リューネブルク侯爵領に接する魔境の奥深くにあるダンジョン31階:アンネリーゼ視点


「さあ、宝物は目の前です、これまで通り誰一人欠ける事なく戦うのです!」


「「「「「おう!」」」」


 リューネブルク侯爵家の誇る忠勇無比の騎士団がモンスターに挑みます。


「我が魔力を集め百の炎剣へと変換する、ハンドゥレド・ファイア・ソード」


 騎士たちより先に、私の放った魔術がモンスターたちを斃していきます。

 この三カ月、九十日に及ぶ戦いが私たちを成長させてくれました。

 能力が上がったのかどうか分かりませんが、普通に魔術や剣術が上達しています。


 私が考えた新しいファイア・ソードが発現できるようになりました。

 これまで使われてきた詠唱と呪文を少しだけ変えてみたのです。


 最初は何度も失敗しましたが、使いたい魔術の呪文と、用意する魔力が正確に一致すると、私が考えた魔術が本当に発現したのです!


 狭いダンジョンの通路は、防御力の高い騎士が交代で壁を作りながら、徐々に前に進み攻略していきました。


 先に広場があると分かると、重装備の騎士や徒士で壁を作り、後方の魔術士が一斉に魔術を放ってモンスターを殲滅する戦術を使いました。


 誰一人死なないように、安全確実に一歩ずつ前に進む戦術が良かったのでしょう。

 最初は反対していた慎重派の家臣たちも、今では争うようにしてモンスターを狩り、剣術を磨く練習台としています。


 侯爵は常に私の側にいました。

 三度の食事も眠るのも一緒で、それでなくてもベッタリの侯爵は、常に私の服のどこかを握りしめています。


「アンネリーゼ様、魔道具をお取りください!」


 地下三十一階のボスたちを殲滅して、ようやく魔導書が現れました。

 これがレベル4以上の状態異常快復魔術を記した魔導書なら、侯爵を完全に癒す事ができるかもしれないのです。


 心臓が早鐘のように鳴り響きます。

 周りの家臣たちの、期待に満ちた目が物凄く痛いです。

 手足が震えないように、気力を振り絞って自分の身体を律します。


「レベル4の状態異常快復魔術を記した魔導書です、直ぐに読みます」


 私は最初のページを読んで勝利を確信しました。

 今の私なら、絶対にレベル4の魔術を覚えられずはずです。

 得意な属性でなくても、これまでの戦闘経験で覚えられるようになっているはず!


「くっ、複数の状態異常を快復させるエリアステータスリカバリーでした」


 何たること、ここまで来てこれはないでしょう!

 同時に多数を癒す魔術など、私が新たな呪文を発見したから無意味です!

 ですが、諦めません、私は諦めが悪い女になると誓ったのです。


「だいじょうぶ?僕のために無理しないで!」


「大丈夫です、このアンネリーゼに任せてください。

 全軍撤退、一度ダンジョンから出てもう一度挑みます。

 あの本に書かれてあった、何度でも宝物が現れるというダンジョン。

 このダンジョンがそうでないとは言えないのです。

 侯爵家の家臣なら、最後まで諦めずに挑み続けなさい!

 ここが駄目でも他のダンジョンがあります、私たちなら必ず見つけられます!」


「「「「「おう!」」」」

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