第31話:親征
神歴808年・公国歴72年7月27日ベーメン公国リューネブルク侯爵領に接する魔境の奥深くにあるダンジョン前:アンネリーゼ視点
「よく集まってくれました、侯爵に成り代わって礼を言います。
この度の親征は、重臣たちの反対を押し切って私が決めました。
侯爵閣下には城に残ってもらいたかったのですが、共に行くと言われました。
ですが、私には何の心配もありません。
貴方たちのような、心から信頼できる家臣がいてくれるからです。
このダンジョンアタックは、閣下の病を完全に治すために行います。
随分と良くなられましたが、あともう少しの所がどうにもなりません。
貴方たちの働きで閣下の病を癒してください、この通りです」
「「「「「ウォオオオオ!」」」」」
ダンジョンが発見されてから十日、誰が宝物を取りに行くかでもめました。
私が直接取りに行くというのは、家臣たちに猛反対されました。
侯爵には泣いて縋られました。
冒険者に依頼するから大丈夫、それでも駄目なら騎士団を総騒動するから大丈夫とは言われましたが、待っていられませんでした。
本当は五十歳なのに、五歳児のように振舞う侯爵を見ているのが辛くて、一日でも早く治してあげたいと思ったのです。
冒険者になる時のために、ダンジョンアタックの経験を積みたいなんて、毛ほども思っていません、今直ぐ侯爵を治してあげたいだけです。
だから、エルンスト伯爵に言いました。
直接戦えなくても良い、安全な後方からついて行ければいい。
少しでも早く宝物が何なのか知れて、もしレベル4以上の状態異常快復魔術魔導書なら、私に覚えられるのか知りたいだけだと。
侃々諤々の大論争、言い争いになりかけましたが、侯爵のひと言で止まりました。
『一緒に行く』のひと言が、家臣たちを歓喜の園に導いたのです。
侯爵の成長、戦場とも言えるダンジョンアタックに挑もうというのです!
もちろん、侯爵の身を案じて慎重論を唱える家臣はたくさんいました。
ですが、王侯貴族が軍の先頭に立つ騎士であるのが、北大陸の理想です。
侯爵自らが先頭に立つと言い出したのを強く止める事はできません。
それに、宝物、魔導書を手に入れようと思えば、多くの家臣をダンジョンに潜らせないといけないのです。
その人数によったら、領城の守りが弱くなります。
侯爵位の継承権を持つ有力な親戚のほとんどを潰しているそうですが、根絶やしにした訳ではありません。
その残った親戚を操り、侯爵家を乗っ取ろうとする者がいるかもしれないのです。
大臣たちを殺された公王家が何か仕掛けてくる可能性があります。
皇都に勢力を残すガマガエル爺の家族が復讐を仕掛けてくる可能性もあるのです。
侯爵と私は、一番防御力の有る場所にいなければいけません。
それが領城なのか、騎士団と徒士団の大半を投入するダンジョンなのか、判断が難しかったですが、私の強い希望もあってダンジョンに同行する事が決まったのです。
ダンジョンの入り口前には、拠点となる陣地が次々と造られています。
今はまだ何の防御力もないテントですが、魔樹を切り倒して柵や防壁が次々と造られています。
魔境に住むモンスターはもちろん、公王家が軍を総動員して来ても、誰かが手練れの刺客を送って来ても、確実に迎え討てる野戦陣地を築くのです。
「第一陣の騎士団がダンジョンに入ります!」
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