第27話:希望

神歴808年・公国歴72年6月27日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城ヴィルヘイムの私室:アンネリーゼ視点


 一度読んだだけでは信じられなくて、もう一度読み返しました。

 真実が書かれているかどうかは分かりませんが、噓だとも言い切れません。


 作るのに長い時間とお金がかかるのが本というものです。

 愚かさによって間違いを書く事はあっても、最初から嘘を書かせる作り手はいないはずです!


「この本を読んだ人が三人いるのですね?」


「はい、その通りです、それが何か?」


「本の内容を話してもらえますか」


「アンネリーゼ様も読まれたのですよね?」


「ええ、読ませていただきました、ただ、私が理解した事と、他の方が理解された事が同じか確かめたいのです」


「……分かりました、では私から話させていただきます。

 冒険者たちが魔境にあるダンジョンに挑んで貴重な魔導書を手に入れる話です」


 私と話していた老侍従が、疑わしそうにしながらも話してくれました。

 そして何も言わずに侯爵の側にいた老侍従に視線を向けました。


「私も同じです、五人組の冒険者たちが、魔境にあるダンジョンに挑んで貴重な魔導書を手に入れる話です」


 そう話してくれた老侍従も別の老侍従に視線を向けました。


「私も同じように理解しました。

 男三人女二人の冒険者パーティーが、魔境にある困難なダンジョンに挑んで、貴重な魔導書を手に入れたというお話でした。

 何を気になされているか分かりませんが、面白可笑しく書かれた物語です」


「では、最後に書かれてあった、そのダンジョンは宝物を持ち出しても、幻影モンスターが再び現れ、何度も宝物が取れたと書いてありましたよね?!」


 私の言葉に三人の老侍従が顔を見合わせました。

 そしてうなずき合うと、侯爵の側にいる老侍従が話しだしました。


「確かに願望を込めて面白可笑しく作った話を書いてありました。

 ダンジョンの宝物を持ち出しても新しい宝物が現れて、何度も宝物が取れたら良いと願う者たちに向けて、荒唐無稽な話が書かれていました」


「願望、荒唐無稽、高価な本は大切な知識を人に伝える物ではないのですか?」


「はい、確かに、ほとんどの本が貴重な知識を後世に伝えるための物です。

 神が人間に与えられた宝物を模して作られたのが本です。

 だから知識以外を書く作り手はほとんどいません。

 ですが、中には、この本のように、明らかな嘘を書かせる作り手もいるのです」


「まあ、待て、それはあまりにも言い過ぎた。

 神が人に与えてくださった貴重な知識、本を他の目的に使う者を許せない気持ちは分かるが、子供たちに楽しい話を伝えたい作り手もいるのだ」


「そんな事は言葉で伝えてやればいい。

 寝物語を本にして残すなんて、神に対する冒涜だ!

 子供たちが眠るまでに話して聞かせるような内容を、本にすべきではない!」


「待ってください、どうしてこの本が嘘だと言い切れるのですか?

 もしかしたら本当の事かもしれないではありませんか!」


「アンネリーゼ様、それはございません。

 リューネブルク侯爵家は長い歴史を誇る家なのです。

 侯爵家の一族はもちろん、家臣の一族もダンジョンに挑んできているのです。

 だからこそ、ダンジョンの宝物である魔導書があれだけたくさんあるのです。

 その経験から、ダンジョンの宝物を外に持ち出して死なないダンジョンはない、と断言できるのです」


 老侍従たちがここまで言い切るのなら間違いないのでしょうか?

 当人たちだけでなく、先祖代々によって蓄積された知識と経験から、ないと断言しているのなら、信じるべきなのでしょうか?


 ですが、わずかな希望を捨てたくないです。

 もし本当にそんなダンジョンがあるなら、何度も挑戦しているうちに、レベル4以上の状態異常快復魔術の魔導書が手に入るかもしれません。

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