第18話:新しい魔導書
神歴808年・公国歴72年5月6日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城のアンネリーゼ私室:アンネリーゼ視点
昨日は時間の許す限りユンゲル魔術顧問から魔術を学びました。
やんわりと頼んでも、火以外の属性魔術は教えてくれませんでした。
ですが、魔術全体的な話はたくさんしてくれました。
五属性と陰陽聖邪について教えてもらいましたが、とても不思議でした。
特に、なぜ同じ効果の魔術が三系統もあるのかが不思議でした。
五属性にはそれぞれ助け合う関係と邪魔し合う関係がありました。
陰陽は助け合ったり反発したりして、バランスを取ろうとしていました。
聖邪は完全な敵対関係でした。
もしかしたら、それぞれの魔術を司る神様が違うのかもしれません。
神様にも友人関係や敵対関係があって、その影響を受けているのかもしれません。
こんな事を公に言ってしまったら、神は一柱しかいないと断言している教会に糾弾されてしまいます。
そんな風に色々な事を考えているうちに眠ってしまいました。
魔術の反復練習で眠るのが遅くなっていました。
ですが、今日も魔術を学べるのがうれしくて、早起きしてしまいました。
「アンネリーゼ様、朝の御仕度をさせていただきます」
専属侍女が来てくれるまで魔術の反復練習をしていました。
彼女たちを急かしたくなかったので我慢していましたが、来てくれたのならもう我慢する必要がありません。
「アルフレート伯爵とエルンスト伯爵に使いを出して。
以前教えてくれた、領城にある魔導書を全部読ませて欲しいの。
それと、陰陽と聖邪の魔導書や魔術書がないか調べてもらって」
図々しいのは百も承知しています。
それでも、知りたいのです、覚えたいのです。
これまでできなかった事、できないと思っていた事。
その全てを、本当にできないのか試してみたいのです!
「承りました、直ぐに使いを送ります」
専属侍女の一人が使いを出しに廊下に向かいました。
残りの侍女たちが身だしなみを整えてくれている間に、頭の中で反復練習します。
身だしなみに一時間もかけるのは無駄だと思うのですが、表向きは侯爵夫人なので我慢しなければいけません。
それに、その表の顔があるから、これまでできなかった魔術の勉強ができているのですから、当然の負担です。
「エルンスト伯爵からの伝言でございます。
アンネリーゼ様がマナーの勉強をされている間に、城内にある全ての魔導書を準備しておくとの事でございます」
「ありがとう、助かるわ、陰陽と聖邪の魔術書についてはどうなったの?」
「陰陽と聖邪につきましては、急いで探させるとの事でした」
「そう、ありがとう、そんなに時間がかかるものなの?」
「侯爵家には公王家以上の本が有ると聞いております。
その全てを調べて、陰陽と聖邪の魔術書を探し出すのは時間がかかると思います」
「そうなのね、後でエルンスト伯爵にお礼とお詫びを言わないといけないわね」
失敗しました、没落男爵令嬢の基準で考えてはいけませんでした。
我が家には一冊の本もありませんでした。
魔導書や魔術書ではなく、普通の本すらなかったのです。
高価な羊皮紙に、きれいな字が書ける職人を使って、貴重な知識を書き記しておくのが本というモノです。
どれほど安い中古の本でも、平民の家が一軒は買える値段がします。
高い本なら、下級貴族の公都邸が買えるほどです。
そんな本を、直ぐに探せないくらいたくさん持っているなんて、没落男爵令嬢の常識では考えられなかったのです。
味のしない緊張する食事を終えて、両伯爵を始めとした重臣たちの挨拶を受けてから、侯爵夫人にふさわしいマナーの勉強をしました。
新しい魔導書の事はとても気になりましたが、とても貴重な助言をしてくださった、亡命侯爵夫人に失礼な態度はできません。
真剣に集中してマナーを学びました。
全てを一度で覚えると心に固く誓って学びました!
マナーの勉強が終わる頃にはヘトヘトで、指がつって痛かったです。
「アンネリーゼ様、こちらが約束していた魔導書でございます」
私室に戻ると、エルンスト伯爵が待っていてくれました。
それも、二十四冊もの魔導書を携えて!
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