第17話:レベル4火魔術
神歴808年・公国歴72年5月5日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城の魔術練習場:アンネリーゼ視点
「レベル4火魔術ですか、急にたくさん覚えるよりも、今日覚えた魔術を早く確実に発現できるように、反復練習する方が大切なのですぞ」
「呪文は似ていますから、覚えるのに問題はありません。
確かに空中に描く呪文は、正確に描けるようにならないといけないでしょう。
ですがそれは、ベッドに入ってからでもできます。
呪文を唱えなければどこでもできます。
ですが実際に魔術を発現させられるのは、この練習場だけです。
ここにいられる間に、レベル4火魔術を試させてください」
「確かにその通りです、分かりました、教えて差し上げましょう。
ただし、最初から発現させるのは駄目です。
最初は呪文を唱えず、身体の魔力も動かさず、空中に描く練習だけです。
それが上手くできるようになったら、やっていただきます」
「分かりました、それで良いです、お願いします」
「では、私と同じように空中に描いてください」
「はい!」
私は何度もレベル4火魔術の呪文を空中に描きました。
完全に一致している訳ではないですが、他の火魔術と共通している所が多いです。
これなら比較的早く覚えられそうです。
何度も何度も、手が重くなり指がつるほど練習しました。
ユルゲン魔術顧問は最初の数回だけ手本を見せてくれました。
もうお年なので、無理はできないのかもしれません。
「素晴らしい、空中に正確に呪文を描くのはかなり難しいのですが、アンネリーゼ様は熟練の魔術士顔負けの呪文を描かれる。
もういいでしょう、私の後についてファイア・ソードを発現していただきます。
我が魔力を集め炎の剣へと変換する、ファイア・ソード」
ユルゲン魔術顧問の呪文に続いてファイア・ソードを発現させます。
「我が魔力を集め炎の剣へと変換する、ファイア・ソード」
事前に長く練習していたお陰か、流れるように空中に呪文を描けます。
魔力器官からも滞りなく魔力が左手に集まります。
感覚的なモノでしかありませんが、ファイア・アローよりも魔力が多いです。
「お見事、早さも破壊力も申し分ありません。
正直一度目で成功されるとは思っていませんでした。
多くの者は、空中に描く呪文が不正確で魔術が発現しません。
上手く描けたとしても、魔力器官から必要なだけの魔力を左手に送れません。
レベル3と同じ魔力を送る事しかできなくて、魔力を無駄にして終わります。
それなのに、アンネリーゼ様は一度目で成功された。
とても惜しいです、侯爵夫人でなければ弟子にしたいところです」
「あら、侯爵夫人でも弟子にして頂けるのではありませんか?」
「両伯爵から、マナーを優先しなければいけないと聞いておりますぞ」
「その件は、元侯爵夫人から解決策を教えていただきました。
それに、マナーを疎かにする気はありません。
両伯爵が必要だと思う分は、これからも学ばせてもらいます。
ですが、それ以上に魔術を覚えておくべきだと思います。
今狙われているのは、侯爵閣下だけではなく、私もですよね?」
「確かに、アンネリーゼ様も狙われておられるでしょう。
分かりました、両伯爵に確かめて、許可をもらえれば弟子にさせていただきます」
「では、残っている時間に他の魔術についても教えてください。
聞いた話では、魔術には五つの属性があるのですよね?」
「それは正しくもあり、間違いでもあります。
確かに五つの属性に分けられるのですが、陰と陽、聖と邪にも分けられるのです。
五属性と陰陽聖邪には重複する効果もあるのですが、魔術自体は別物です。
描く魔術が違うのに効果が同じ事から、研究者の間で論争があります」
「それは、目的の効果を得られる手段が二つあると言う事ですか?」
「必ず二つある訳ではなく、三つある場合もあります。
極一部の効果だけ二つ三つと手段があると言う事です。
回復魔術は水属性、陽属性、聖属性の三つも手段があります。
そのどれかの属性を持っていれば、何らかの回復魔術が使えるのです」
「その回復魔術の中に、侯爵閣下を癒せる魔術はないのですか?」
「残念ながら、侯爵家に仕える水属性魔術士の中にはいませんでした」
「侯爵家に陽属性と聖属性の魔術士はいないのですか?」
「どちらの属性も非常に珍しく、侯爵家どころか公国内にもいません。
神都にいると言う噂はありますが、教会の権威を維持するために嘘をついているとい言う噂もありますので、何とも言えません」
「私に陽と聖の属性があるか試せませんか?」
「残念ながら、陽と聖については魔導書どころか魔術書も出回っていません。
教会が独占してしまっているのです」
「侯爵家の力で手に入れる事はできませんか?」
「それは両伯爵に聞いてみてください、私には分かりません」
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