第16話:新しい火魔術

神歴808年・公国歴72年5月5日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城の魔術練習場:アンネリーゼ視点


 侯爵家の魔術顧問、ユルゲンの言葉を聞いて魔術練習場に移動しました。

 十五万人もの領民がいる侯爵家には、とても立派で丈夫な練習場がありました。

 二百人に一人のレベル1魔術士のための練習場なら、もっと小規模なのでしょう。


 確率から言うと、侯爵領にはレベル1の魔術師が七百五十人いる事になります。

 レベル2の魔術士が七十五人いて、レベル3の魔術士が七人いる事になります。


 もしかしたら、レベル4に魔術士までいるかもしれません。

 レベル4やレベル5の魔術士が現れた時のために、頑丈な練習場を城内に用意しているのですね。


 私はすでにレベル3の魔術が使える事がはっきりしました。

 没落男爵令嬢のままだったとしても、公国魔術士団に入れたでしょう。

 貴族社会に見切りをつけて、冒険者になる事もできたでしょう。


「アンネリーゼ様、魔術を放つときは集中してください。

 詠唱も呪文もなしに魔術を放てるようになりたいのでしょうが、最初は基本通り、詠唱も魔術棒での呪文描きも、手を抜かないでください」


 魔術顧問のユルゲンに言われて現実に引き戻されました。

 侯爵家を出て冒険者として自由に生きたいのなら、侯爵の女性不信を治して、後継者を作らさないといけません。


 侯爵の女性不信さえ治せれば、相手は私でなくても良いのだと思いつきました。

 こんな簡単な事を、なぜ思いつかなかったのか、不思議で仕方ありません。


 それが、自分に魔術の才能があると分かって、心に余裕ができたのでしょう。

 追い込まれて見えなくなっていた事が、ようやく見るようになったのです。


「我が魔力を集め炎の矢へと変換する、ファイア・アロー」


「素晴らしい、アンネリーゼ様には魔術の才能があります。

 それも、私が見させて頂いた中でも飛び切りの才能です。

 きっかけが魔導書だったとはいえ、これほど早く魔術を発現できる者は滅多にいませんぞ!」


 ユルゲン魔術顧問が手放しでほめてくれます。

 私も、これほど早く、魔導書なしで魔術を発現できるようになるとは思っていませんでした。


「ユルゲン魔術顧問、レベル1とレベル2の火魔術も使えるか試してみたいです」


「そうですな、魔力には限りがありますから、状況に応じて使い分けできる方が、長く魔術を使い続けられます、私のマネをしてみてください」


「はい、分かりました」


「我が魔力を集め炎へと変換する、ファイア」


 呪文はファイア・アローとほとんど同じなので簡単に覚えられます。

 問題は右手で描く魔法陣です、これが下手だと魔術が発現しません。


「我が魔力を集め炎へと変換する、ファイア」


「うむ、全く問題ありません。

 野営の時はもちろん、敵を驚かせる時にも十分使えます。

 単に敵陣に火をつけるだけなら、レベル2やレベル3の魔術はもったいない」


 よかった、初回で魔術を発現させられました。


「次はレベル2のファイア・ボールを試してもらいますぞ。

 我が魔力を集め炎の玉へと変換する、ファイア・ボール」


 これも一度で発現できたらいいのですが。


「我が魔力を集め炎の玉へと変換する、ファイア・ボール」


 やれました、できました、もしかして、私は魔法の天才なの?!


「うむ、これも十分。

 並の敵兵ならこれで十分戦力を奪えます。

 ファイア・アローで殺してしまうよりも、ファイア・ボールで重症にしてしまった方が、助けようとする敵兵の分も戦力を削る事ができる」


 怖い事を言わないでください!

 そんな残虐な事がしたい訳ではありません!

 ……でも、もし冒険者になれたら、残虐な事もしないといけないのでしょうか?


「ユルゲン魔術顧問、レベル4の魔術も試させてください!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る