第15話:金言
神歴808年・公国歴72年5月5日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城のアンネリーゼ私室:アンネリーゼ視点
侯爵夫人として恥をかかないようにするために、最低限のマナー、所作を学ぶための勉強は、お茶会の作法からでした。
理由は、女性の社交で一番数が多くて重要なのがお茶会だからです。
晩餐会や舞踏会なら、父親や夫が助けてくれます。
ですが女性だけのお茶会では、男性の助けがありません。
男性よりも女性の方が、女性に対する視線が厳しいのです。
些細な間違いをしつこく攻めてきます。
それを暴力ではなく言葉や態度で反撃しなければいけません。
屁理屈でもかまわないので、相手を言葉でやり込めないといけません。
舌戦は元々苦手だったので、特に学ばないといけないところです。
「今日はこれくらいにしておきますが、今のままでは全く駄目です。
このままでは奥方独りの社交は危険です。
社交に参加できる貴族の夫人や令嬢に味方を作っておくか、裏を仕切る侍女や料理人を味方につけてください」
家庭教師のアドバイスは物凄く役に立ちました。
そうですね、何も私独りで社交に立ち向かわなくても良いのです。
貴族の夫人や令嬢の中に味方を作れば良いだけです。
それに、味方にするのはベーメン公国の貴族でなくても良いのです。
リューネブルク侯爵家が爵位を与えた貴族でも良いのです。
さすが、亡命という大きな苦労をしてきた元侯爵夫人の言う事は違います。
「ありがとうございます、これからも宜しくお願いします」
最初の授業で、今直ぐ役に立つ、一番大切な事を教えてもらいました。
それにふさわしいお礼を渡して勉強を終える事もできます。
ですがそれでは私の女が廃ります。
これからも定期的に教えていただき、侯爵夫人の家庭教師という地位と報酬を与えてあげるのが、今の身分にふさわしい振舞いでしょう。
「私こそありがとうございます」
元侯爵夫人はそう言って部屋から出て行かれました。
「今の話を聞いていましたね、侯爵家の家臣で爵位を持つ人の夫人と令嬢の中から、私が公都に行く時に一緒に来てくれる人を手配してもらってください。
必要なら新たに爵位を与えても構いません」
「承りました」
また私専属の侍女が部屋を出て伝言を送ってくれます。
メッセンジャー役の侍女に申し訳ないくらい頻繁に送ってしまいます。
マナーの勉強が終わったら剣術の練習です。
元騎士団長の美初老、エルマー侍従が教えてくれます
その間も、騎士長以上の地位にある騎士が私の護衛をしてくれています。
よく考えると、侯爵を殺しても侯爵家を手に入れられなくなったのですね。
わずかでも侯爵家の血が流れている私が正夫人になったのです。
侯爵を殺しても私が女侯爵として跡が継げてしまうのです。
つまり、侯爵家の継承権を持つ悪人は、侯爵と私を同時に殺すしかありません。
いえ、もう初老と言える年齢の侯爵は、私よりも早く死ぬ可能性が高いのです。
私さえ先に殺してしまえば、時間をかけて自然死を待つ事もできます。
そんな事を考えながら、剣術、槍術、体術をエルマー侍従から学びました。
没落男爵令嬢として、下級侍女がするような力仕事も全部してきましたから、力も体力もあるつもりでしたが、武術に使う物とは全然違いました。
「エルンスト伯爵からの返事を伝えさせていただきます。
今から手配させていただき、公都に戻る時には、二十人以上の貴族夫人と令嬢を用意させてもらうとの事でした」
これで、公都に戻って直ぐに女性だけの社交を始められます。
元侯爵夫人にも、私の家庭教師として爵位を与えてはどうでしょうか?
さっき思いつけば、一度の伝言で済んだのですが、失敗しました。
もうこれ以上社交の事で伝言をするのは可愛そうですね。
アルフレート伯爵は、夕食後に必ずあいさつしてくれますから、もしかしたらエルンスト伯爵も一緒にあいさつしてくれるかもしれません。
「アンネリーゼ様、次は魔術の実践ですぞ」
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