第14話:勢揃い

神歴808年・公国歴72年5月5日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城のアンネリーゼ私室:アンネリーゼ視点


 男性が美しい女性に心惹かれるように、女性も美しい男性に心惹かれます。

 中には顔よりも強そうな身体に心惹かれる女性もおられます。

 ですが、同じ肉体美を持つ男性なら、美しい顔の方に心惹かれます。


 そういう意味では、リューネブルク侯爵家は天国です。

 ギリギリ青年と言える三十歳くらいのアルフレート伯爵は美青年です。


 新たに紹介された領都家宰のエルンスト伯爵は、四十三歳とだと自己紹介してくれましたから、美中年と言って良いでしょう。


 一緒に紹介された領地家宰の長男は、二十歳になったばかりの美青年です。

 魔術顧問は六十歳手前と聞きましたが、美老人と言って良いでしょう。


 騎士団長を引退して侍従になったばかりの方は五十歳で、美初老でしょうか。

 今日も目の保養になります、眼福、眼福。


「急なお願いで申し訳ないのですが、覚えたばかりの魔術を完全に覚えたいのです。

 侯爵閣下からお借りしている魔導書をできるだけ早くお返ししたいのです」


 私の言葉を聞いた五人は顔を見合わせました。

 言葉は何も口にしていないのに、意思の疎通ができているようです。


「アンネリーゼ様が侯爵閣下の事を想ってくださっているのが良く分かりました。

 魔導書を返すのはいつでも良いと思いますが、その時には魔術を完璧に覚えておられた方が、閣下との話がしやすいでしょう。

 領城の魔術鍛錬場を自由にお使いください」


 領地家宰を務めるエルンスト伯爵が許可をくれました。


「今直ぐ始めたいのですが、良いですか?」


「申し訳ありませんが、アンネリーゼ様に侯爵夫人にふさわしいマナーを教える家庭教師が待っておられます。

 その方との勉強が終わられてからなら大丈夫です、

 家中の者が教える事になっていた、剣術、槍術、体術を中止にして、魔術に専念していただけます」


「エルンスト伯爵が、私の望んだ勉強の手配を終えてくださっているのなら、それを押しのけて魔術の練習はできません。

 急遽予定を空けて教える準備をしてくれた人たちにも悪いです。

 エルンスト伯爵が予定を組んでくれた勉強はそのままにしてください。

 空いている時間に魔術の勉強をさせていただきます」


「承りました、予定に入っていた魔術の勉強を座学から実践に変えさせていただき、指導役を探していた時間を全て魔術に変えさせていただきます」


「無理を言って急にお願いした事を、また急に変えてしまってごめんなさい」


「いえ、アンネリーゼ様が謝られるような事ではありません。

 魔術の才能があると分かったのですから、それに専念したくなるのは当然です。

 アンネリーゼ様が侯爵夫人で、社交の事がなければ、家臣一同全力で支援させていただき、魔術に専念していただくのですが、申し訳ありません」


 これは、約束通り跡継ぎを産んでくれという遠回しな注意なのでしょうか?

 魔術を優先したい気持ちの方が強いですが、約束を守りたいとも思っています。

 両立できればそれが一番なのですが、実際には難しいですね。


 侯爵の子種を手に入れられなくて、愛人の子供を産む事も考えておかないといけませんが、大きな問題があります。


 今は結束が強い家臣たちですが、私が家臣の中から愛人を選んでしまったら、一気に争いが始まってしまいそうです。


 魔術を覚えるのなら領地にいた方が良いでしょう。

 ですが、侯爵家に悪影響のない愛人を探すなら、公都にいなければなりません。


 それでも、私が魔導書を読むために領地に行きたいと言ったら、直ぐに賛成してくれましたから、侯爵の子供を産んで欲しいという願いが最優先なのでしょう。


 私が侯爵にアプローチしている間は、領地に留まる事を許してくれるでしょう。

 問題は、侯爵が完全に拒絶してしまった場合ですね。

 そう考えると、急ぎ過ぎてしまったかもしれません。


「侯爵閣下ともっと仲良くなりたいのですが、何か方法はありませんか?」

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