第12話:発火
神歴808年・公国歴72年5月4日ベーメン公国リューネブルク侯爵家領都領城侯爵の私室:アンネリーゼ視点
部屋にいる全員、何気ないように振舞っていますが、物凄く注目しています。
おおげさかもしれませんが、これで私の人生が決まります。
子供を産むだけの道具から、魔法使いに成り上がれるのです。
ここにいる全員が、私の事を大切にしてくれているのは分かっています。
愛する主君の大恩人、その子孫として大切にしてくれています。
この世界、この時代の貴族女性としては最高の待遇でしょう。
でも、一度絶体絶命の窮地に落とされた身としては、一般的な貴族女性の幸せにあまり意味はないのです。
家、父親、私自身を救ってもらったので、その恩義には報いたいです。
普通の貴族令嬢としての幸せ、大貴族の跡継ぎを産むのも悪くはないです。
いえ、心の半分は、信じられないほどの幸運に狂喜乱舞しています。
でも、もう半分の心は、自由に生きたいと思っているのです。
自分の実力と運で生きて行かなければいけない、平民女性のように。
特に、魔法の才能に恵まれた女性冒険者のように!
「我が魔力を集め炎の矢へと変換する、ファイア・アロー」
私は、左手に魔導書を持ち、侯爵の私室の窓から左手を突き出ながら、魔導書に書かれていた呪文を唱えました。
同時に、魔術顧問が教えてくれたように、胸の中心にある魔力器官から魔力を左手まで流すイメージを作りました。
ボッ!
「「「「「ウォオオオオ!」」」」」
部屋の中にいた全員が声上げて驚いています。
二百人に一人しかいない魔力の才能が私にあったのです。
それも、二万人に一人しか使えないレベル3のファイア・アローが使えたのです!
「凄いです、アンネリーゼ様!」
「素晴らしいです、アンネリーゼ様!」
「良かったですね、アンネリーゼ様!」
「これで少々の相手には負けませんよ、アンネリーゼ様!」
部屋にいたアルフレート伯爵や騎士が手放しでほめてくれます。
「失礼したします、アンネリーゼ様が魔法を使えたのでしょうか?」
侯爵が眠る私室と扉一枚隔てただけの場所で大騒ぎしてしまいました。
襲撃を警戒して、とても厚い壁と扉で仕切られていますが、さすがにこれだけ騒いでしまうと、疲れて眠ろうとしている侯爵の邪魔になります。
「申し訳ありません、大きな声で騒ぎ過ぎてしまいました。
もうこれで終わらせていただきますので、魔導書はお返しさせていただきます」
「いえ、その、閣下はアンネリーゼ様が魔法を使えたのなら、その魔導書は好きに使って良いと言われておられます」
「それはいけません、この魔導書はまだ読みかけのはずです。
侯爵閣下の大切な魔導書奪うようなマネは絶対にできません!
お詫びしてお返ししたいのですが、閣下の側に行かせていただいて良いですか?」
実際には一瞬だったのかもしれませんが、物凄く長い間待った気がします。
声をかけてくれた若い侍従が、閣下に聞いてくれている間が辛かったです。
「申し訳ありません、閣下はとても疲れておられるそうなのです。
このままベッドから出たくないと言われておられます。
側に近づかれるのも嫌だと申されておられます。
魔導書は明日返してもらえば良いと言われておられます」
「分かりました、これ以上お騒がせしないように、自分の部屋に戻らせていただきますが、私が心から謝っていたとお伝え願えますか?」
「はい、必ず伝えさせていただきますが、侯爵夫人であるアンネリーゼ様が、家臣の侍従に頼まないでください、命じてくださった方が楽です」
「分かりました、次からは命じさせてもらうわね」
調子に乗り過ぎて失敗してしまいました。
まさか本当に魔法が使えるとは思ってもいませんでした。
それも、レベル3のファイア・アローが使えるようになるなんて、今でも正直信じられないので、自分の部屋に帰ったらもう一度試します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます