第7話:結婚披露宴
神歴808年・公国歴72年4月30日ベーメン公国公都公城青竜の間:アンネリーゼ視点
たった5日間という、信じられない速さで、私とリューネブルク侯爵の結婚披露宴が開かれる事になりました。
いえ、私に申し込んだのが5日前だというだけで、実際にはもっと前から準備されえいたに違いありません。
そうでなければ、公王城の1番格式が高い青竜の間は借りられません。
何より、忙しい王侯貴族をこれだけたくさん集められません。
ただ、本当にこれで良いのでしょうか?
あのリューネブルク侯爵に公王城に行って欲しいと懇願しても、絶対に無理なのは私にも分かるのですが、影武者を使って結婚式を挙げるのは許されるのでしょうか?
公王陛下や公王妃殿下まで参列してくださっているのです。
身分の高い貴族は全員参加されています。
その方々を騙しているのだと思うと、シクシクとお腹が痛くなります。
なのに、リューネブルク侯爵の影武者をしている人はとても堂々としています。
更に話す相手によって、魔境のモンスターのような恐ろしい殺気を放っています。
横に立っているだけで足が震えそうになります。
「公王陛下、公王妃殿下、大臣たちにもお礼をしなければいけないですね。
皆様が親しくしている、ツィマーマン商会のゲルハルト。
あの男に妻と義父が大変世話になったそうなのですよ」
正妃殿下と大臣たちを引き連れて、影武者とも知らずに挨拶に来た公王陛下に、私にも分かる殺気を放つなんて、何を考えているのですか?!
「あ、いや、と、そうなのか、いや、いや、余は親しくないぞ。
余も正妃もゲルハルトとは親しくしていない、していないぞ。
武器や防具、兵糧を買うのに大臣たちが親しくしていただけだ」
影武者の言葉に一瞬で顔色を悪くした公王陛下が、引き連れてきた大臣たちに責任を擦り付けようとしています!
冷酷非情で手段を択ばない権力者。
公国を裏から牛耳っていると評判だったリューネブルク侯爵は、本人ではなく、この影武者の事だったのですね!
「閣下、ツィマーマン商会のゲルハルトを連れて参りました」
リューネブルク侯爵家の騎士が、ゲルハルトを連行してきました。
案内するなんて生易しい表現は使えません。
2人の騎士に左右から両腕を捻りあげられているだけではありません。
背後にも騎士が立っていて、いつでも抜き打ちに斬れるようにしています!
「何事でございますか?!
私はリューネブルク侯爵閣下とアンネリーゼ男爵令嬢の結婚を祝いに来させていただいただけで、このような目にあわされる理由がありません」
顎がなくなるほど醜く太った体に脂汗を流すゲルハルトが、憎々しげに私を睨みながら文句を言います。
さすがに怖いのか、影武者のリューネブルク侯爵に目を向けません。
帝国にも影響力があるのを良い事に、領邦国家であるベーメン公国なら少々の悪事や無礼は許されると思っているのでしょう。
「黙れ下郎!
お前が卑怯な手段でフェルクリンゲン男爵を騙した事は分かっている。
私の分家を乗っ取ろうとしてタダで済むと思っていたのか?
それとも、激しい後継者争いをしたから、分家など見捨てると思ったのか?
愚か者、分与した爵位と土地を奪われて報復しない貴族が何所にいる!?」
影武者の言葉を聞いていた公王陛下と大臣たちが更に顔色を悪くしました。
それどころか、小刻みに震え出しました。
私は噂に聞いていただけですが、必要なら公王陛下にも手加減しないというのは、本当の事だったようです。
「公王陛下が知らないと申されるのでしたら、これ以上は何も言いません。
ですが、私が納めた税を不正に使った大臣たちの首はいただけますね!?
お前たちがこのガマガエルから賄賂をもらい、不当に高い値段で武器や兵糧を買っていた事は分かっている」
「とんでもございません、何かの間違いでございます!」
「そうでございます、間違いでございます、誤解でございます!」
公王陛下に付き従っていた大臣たちが口々に言い訳をします。
脂汗を流しながら必死で弁解します。
「陛下、私と戦争を始めたいのなら、このような卑怯下劣な挑発などせずに、正々堂々と宣戦布告をされればいい、いつでも受けて立って差し上げますよ!」
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