第5話:驚愕の真実

神歴808年・公国歴72年4月25日ベーメン公国公都貴族街リューネブルク侯爵邸:アンネリーゼ視点


「何故このような条件なのですか、これでは信じられません。

 こんな条件になる理由を教えていただけなければ、お受けできません」


 こんな非常識な条件、理由を聞かなければ信用できません。

 リューネブルク侯爵の本性を知ってしまった以上、この条件を受けるか死ぬかしか道がないのは分かっています。


 分かってはいますが、何も知らずに受けるのは絶対に嫌です。

 私の誇りにかけて、全てを知った上で受けるか、知った上で、誇りを選んで断り死ぬかです!


 何も知らずに受けて、後で殺されるのだけは絶対に嫌です!

 納得できる理由を知って、全力で役割を果たし、堂々と報酬を得る。

 それが私にできる、誇りを守りながら利益を手に入れる唯一の方法です。


「死を覚悟されておられるようですね、分かりました、全てお話ししましょう」


 アルフレート伯爵がポツリポツリと話してくれました。

 リューネブルク侯爵ヴィルヘイム卿の壮絶な人生を話して聞かせてくれました。


 わずか七歳で両親を毒殺され、自分も同じ毒で生死の境を彷徨った事。

 毒を盛ったのが、リューネブルク侯爵の爵位と財産を狙った父の弟、実の叔父であり、生き残った後も執拗に命を狙われ続けた事を話してくれました。


「助けを求めた二番目の叔父上には、傀儡にさせられそうになられて……」


 毒による後遺症で苦しむ幼いリューネブルク侯爵は、両親を殺した一番上の叔父ではない、二番目の叔父に助けを求め、何とか両親の仇をとったそうです。


 ですが今度は、権力とお金を目的に助けてくれたはずの二番目の叔父が、リューネブルク侯爵を傀儡にしただけでは満足せず、殺して当主になろうとしたそうです。

 事故死に見せかけて殺そうと、執拗に罠を仕掛けてきたそうです。


 それは、今説明をしてくれているアルフレート伯爵がまだ少年の時代だそうです。

 先代と先々代のアルフレート伯爵と、今この場にいる侍従や侍女の父や祖父が、命懸けでリューネブルク侯爵を守り抜いたと言うのです。


「父方の叔父たちばかりか、叔母たちや従兄弟や再従兄弟までが、リューネブルク侯爵閣下を殺して自分が侯爵になろうとしました。

 父方ばかりが、母方の親戚まで、眼の色を変えて侯爵閣下に近づき、騙して利を貪るだけでなく、殺そうとまでしました」


 布団の頭から被って隠れているにもかかわらず、リューネブルク侯爵が震えているのが分かります


 部屋にいる侍従や騎士や侍女の半数が、すすり泣いています。

 その時に一緒に戦った老齢な者たちは、表情を変えずに涙だけ流しています。

 

 ヴィルヘイム卿の不幸な生い立ちに同情している若い者たちは、その時の争いで父や祖父を殺された者だと後で聞きました。


「侯爵閣下は、その時の恨みを片時も忘れられておられません。

 直接間接にかかわらず、加担した者は皆殺しにしました。

 ですが、どうしても家を残すしかなかった縁戚が幾つかございます。

 このまま侯爵閣下にお子が生まれなければ、その家の者がリューネブルク侯爵を継ぐことになってしまいます。

 侯爵閣下も我々も、それだけは絶対に許せないのです。

 だから侯爵閣下と相談して、アンネリーゼ様のお子に、リューネブルク侯爵家を継いでいただく事にしたのです」


 ここまで詳しく説明してもらえば、リューネブルク侯爵が人を信じられなくなった理由が分かりますし、布団を被って震えているのもしかたがないと思います。


 ですが、まだ分からない事があります。

 なぜ私が後継者の母親に選ばれたかです。


 私の家はリューネブルク侯爵家の分家ですが、分かれてから五代も経っています。

 親戚と言っても、かなり血が遠くなっています。


 あの父では、リューネブルク侯爵家の乗っ取りに加わっていたはずがありません。

 いえ、年齢的にも計算があいませんから、全く無関係です。


 祖父か曾祖父の年代ですが、祖父も曾祖父も私が生まれる前に亡くなっているので、その人柄は思い出話で聞いているだけです。


 とても誇り高い方だったと聞いています。

 なので、唯一リューネブルク侯爵に危害を加えなかった親戚の可能性はあります。


 ですが、いくら何でも、その程度の事で、こんな非常識な提案をしてくるとは思えません!


 こんな、余りにも私に都合の良い条件を出してくる理由が知りたいです。

 納得できる理由を聞かない限り受けられません。

 怖いのもありますが、騙されて利用されるのだけは絶対に嫌です!

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