第4話:驚愕の条件

神歴808年・公国歴72年4月25日ベーメン公国公都貴族街リューネブルク侯爵邸:アンネリーゼ視点


 騎乗して私の護衛に加わってくださったアルフレート伯爵が、馬車から下りる時も手を貸してくださいました。


 私がアルフレート伯爵に案内されて入ったのは、公王宮よりは小さいですが、豪華さと美しさでは負けない大邸宅です。


 外見だけでなく、中も信じられないくらい美しいです。

 それも、奥に進むほど華美さが無くなり上品になって行きます。

 外側は他人に見せる為、奥は侯爵の趣味なのでしょう。


「侯爵閣下は、こちらでアンネリーゼ嬢をお待ちになっておられます」


 アルフレート伯爵は私の手を取って部屋の中に案内してくださいました。


「この方がリューネブルク侯爵ヴィルヘイム閣下です」


 アルフレート伯爵に紹介されましたが、目に前にいる人がリューネブルク侯爵だとは信じられません。


 目の前にいる人は、いつ散髪したか分からないほどボサボサの髪型をしています。

 髭も全く手入れされておらず、あちらこちらに伸び放題です。


 しかも、私から隠れるように、頭からか布団をかぶっているのです。

 分家とはいえ、貴族令嬢を迎える服装でも態度でもありません。

 分家の私をあなどっているのとも全く違います。


 冷酷非情と評判のリューネブルク侯爵とは思えません!

 でも、そのボサボサ頭の周りを、完全武装の騎士が厳重に守っています。

 アルフレート伯爵が恭しく接していますから、影武者という事もないでしょう。


 そもそも影武者なら、もっと侯爵らしい格好をさせています。

 こんな乞食と変わらない状態にしておきません。

 侯爵だからこそ、こんな服装と態度で私を迎えられるのでしょう。


「最初の条件でございますが、この方、我らが主、リューネブルク侯爵閣下と結婚していただきます」


 いったい何を言っておられるのですか?!

 やっぱり目の前にいる乞食が本物のリューネブルク侯爵なのですよね。

 しかも私と結婚させると言うのですか!?


 私のような細腕の女を恐れるように、騎士や執事の影に隠れているのですよ。

 それどころか、頭から被った布団から出てこない方ですよ!

 王国を陰で牛耳る冷酷非情な侯爵という噂は嘘だったのですか?!


「結婚した後は、リューネブルク侯爵閣下に成り代わり、表の交渉を全てやっていただきますが、心配する必要はありません、私たちが補佐させていただきます」


 アルフレート伯爵が恭しく私に頭を下げてくれたかと思うと、この部屋にいた全執事と全騎士が最敬礼してくれました。


 これは、これでは、断るのがとても怖いです。

 こんな秘密を知ってしまったら、承諾するか殺されるかですよね!


「次に、この結婚は白の結婚とさせていただきますので、アンネリーゼ様には好きな方を愛人としていただきます。

 その上で、アンネリーゼ様と愛人の間に生まれた御子を、リューネブルク侯爵家の跡継ぎとさせていただきます。

 愛人には、愛人の子供だと知られないようにしてください。

 あくまでも侯爵閣下の子度という事にしてください

 もし感づかれてしまったら、その愛人を殺します。

 私たちもアンネリーゼ様が愛しておられる方を殺したくはありません。

 ですので、十分に気をつけていただきます」


 私は鋼鉄のハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けました。

 普通、貴族ほど自分の血にこだわる者はいません。

 正統な血筋であることが、貴族の絶大な権利を受け継ぐ絶対の条件だからです。


 なのに、自分の子供ではなく、私と愛人の間にできた子に侯爵家を継がすと言うのですから、私が衝撃を受けるのも当然です。


 アルフレート伯爵の言った事は、狂気としか言えない話なのに、家臣たちに一切の動揺がありません。


 事前に理由を話していたか、揺るぎない信頼関係なのでしょう。


「本気ですか、本気でこのような条件を口にされているのですか?!」


「正気に戻っていただけたようでございますね。

 基本的にはこの2つが代えがたい条件ですが、細々とした条件は、後ほど書面にして改めて説明させていただきます。

 その前に、こちらが出せる大切な代償の話をさせていただきます。

 アンネリーゼ様の屋敷でも話させていただきましたが、フェルクリンゲン男爵家が押し付けられた借財は、全てなかった事にします。

 フェルクリンゲン男爵閣下を騙したモノを探し出し、生まれてきた事を後悔するほどの拷問を繰り返し、裏にいた黒幕の名を白状させます。

 アンネリーゼ様に不埒な視線を向けたガマガエル爺は、一族一門ことごとく地獄に送って差し上げますから、ご安心ください。

 リューネブルク侯爵家の分家を乗っ取ろうとしたモノを、侯爵閣下がどのように扱うのか、国内外の王侯貴族に思い知らさなければいけません」


 冷酷非情で目的のためなら手段を選ばないというのは、リューネブルク侯爵ではなく、家宰のアルフレート伯爵だったのですね!

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