第3話:リューネブルク侯爵ヴィルヘイム卿
神歴808年・公国歴72年4月25日ベーメン公国公都貴族街フェルクリンゲン男爵邸:アンネリーゼ視点
「借金の肩代わりだけでなく、ガマガエルまで潰してくれるのですか?
そんな都合の良い話を、信じろと言うのですか?」
これも交渉です、少しでも良い条件を引き出すための交渉です。
私も元は父と同じお人好しな性格でした。
ですがそれでは生きて行けないと思い知ったのです。
常に心を強く持って、優しさと弱さを一緒にしないようにしなければ、父のように親友だと思っていた者に騙されてしまいます。
「それだけこちらのお願いが厳しいモノとお考えください、アンネリーゼ様」
宗家から伯爵に封じられているほどの人が様付けしてくれています。
借金で商人の妾にされそうな私を主筋として立ててくれています。
もしかしたら、リューネブルク侯爵は冷酷非情でも、アルフレート様は心優しい人なのかもしれません。
それに、よほど酷いお願いでない限り、ガマガエル爺に嬲られるよりはマシです。
さきほど思い浮かべた政略結婚なら、貴族として当然の事です。
宗家を頼るのなら、分家も宗家の役に立たなければなりません。
政略結婚の駒になるのが庇護の条件なら、よろこんで嫁ぎましょう。
「そのお願いの内容を教えてください、そうでなければ返事ができません。
私も父親が親友に騙されたばかりで、人が信じられなくなっているのです」
「そのお気持ちは良く分かります、アンネリーゼ様、ええ良く分かりますとも。
ただ私にはその条件をお話する権限がありません。
お願いを聞いてくださる気があるのなら、リューネブルク侯爵が直接お話されますので、屋敷までご同道願います」
嘘をつかれるのは嫌いです!
筆頭家臣ともあろう人が、内容も話せないというのは絶対に嘘です!
いえ、そうではないかも?
相手は公国を陰で支配していると評判のリューネブルク侯爵です。
筆頭家臣であろうと、全く信用していない可能性があります。
「分かりました、同道させてもらいますが、私の身の安全は、アルフレート家宰殿が、いえ、アルフレート伯爵閣下が保証してくださるのですね?!」
リューネブルク侯爵家の家臣ではなく、誇り高き伯爵として保証してもらえれば、少しは安心できます。
「この命に代えましても、誰であろうと、例えリューネブルク侯爵であろうと、アンネリーゼ様に指一本触れさせない事、神に誓わせていただきます」
アルフレート様に、伯爵として神に誓っていただけたら安心です。
男爵家にふさわしいささやかな屋敷を、安心して出る事ができます。
屋敷を出ると、国王の馬車よりも豪華絢爛な、金銀財宝に飾られて光り輝く馬車と、完全武装の正騎士200騎が待っていました。
公国最強と噂される、リューネブルク侯爵家の騎士が100騎もいたら、小国が相手なら簡単に勝てると聞いています。
「お手をどうぞ」
アルフレート様が馬車に乗る私に手を差し伸べてくださいます。
一緒に乗っていくと思っていたのですが……
「申し訳ありません、こちらの調べが行き届いておりませんでした。
主筋の未婚令嬢と2人きりで馬車に乗る訳にはいきません。
次からは専属の侍女をつけさせていただきますが、今日は1人でお乗りください。
こちらは喉を潤すお茶になっております。
こちらがお菓子になっております、自由にお食べください」
信じられない事に、馬車には折り畳みできる机がありました。
蓋付のカップにはお茶が入っていて、菓子箱一杯のクッキーまでありました!
リューネブルク侯爵家のクッキーだと、砂糖が使われているのでしょうか?
正直な気持ちを言えば、地に足がついていませんでした。
特別製の馬車に乗り、砂糖入りのクッキーを食べたからではありません。
馬車の中にまで金銀財宝が散りばめられていたからです。
私が馬車の内装に使われている金銀財宝を盗むとは思っていないのでしょうか?
それと、しばらく乗っていて気がついたのですが、リューネブルク侯爵家の馬車は振動がとても少ないのです。
私がこれまでに乗って来た馬車とは比べ物になりません。
どのように造ればこんな振動のない馬車ができあがるのでしょうか?
それほどの力を持ったリューネブルク侯爵が、私にやらせようとしている事は何なのでしょうか?
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