第3話 研究室

「都古はどこにいる」


俺は久藤に問いかける。


「ここにはいない」

「…どういうことだ」

「会うには、あれに乗らないとな」


そう言って白衣の中からリモコンを取り出し、スイッチを押す。

すると、目の前の倉庫が開いた。

中には、大きなトラックが一台停められていた。


「君達には、これに乗って私の研究所へ来てもらう。彼女もそこにいる」


すると突然、黒服の男がこちらに近付いて来た。

その手に持っているのは、目隠し用のマスクと耳栓だった。


「トラックに乗る前に、君達にはこれを付けてもらおう」

「…何の為だ」

「私の研究は国家組織で秘密裏に行われているものだ。安易に場所を特定されるわけにはいかんのでな」

「…。」


黒服の男は俺達に目隠しと耳栓を手渡す。


「……サガミさん、」


圭介が不安げな表情でこちらを見る。


「…大丈夫だ。万が一の時は、俺があいつらを斬る。都古も、きっと無事だ」


俺は答えた。

まるで自分に言い聞かせるように。


俺達は目隠しと耳栓を付け、トラックの荷台に乗り込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



体に伝わるトラックの振動が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。

目隠しと耳栓を外されたのは、建物の中に入ってからだった。

突然視界に入った照明の光に、思わず目を細める。


「ようこそ、我が研究所へ」


久藤はそう告げ、にやりと笑う。

壁も床も白色に覆われているその内装は、照明も相まって一見明るいようにも思えたが、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。


「研究の進行具合によっては、君達がここにいる時間もかなり長くなるだろう。まずは部屋の案内を…」

「その前に都古だ。あいつの無事を確認できるまで、協力することはできない」


話を遮るように、俺は答える。


「さっきは了承してくれたじゃないか。…全く、近頃の若者は自分勝手がすぎる」


溜め息混じりに話す久藤。


「仕方ない。なら、先に彼女の所へ案内しよう」


そう言って歩き始める。

俺達も後に続いた。


長い廊下の先には、大きな扉があった。

久藤は白衣からカードキーを取り出すと、液晶画面にかざしてドアを開ける。

その先には、更に細い通路が続いていた。

施設内ではあるが、都古は研究室からかなり離れた場所にいるようだ。


しばらく歩き、久藤はとある部屋の前に止まる。


「彼女はここにいる。…さぁ、入りたまえ」


ドアが開き、俺達は中へ入る。


「っ!!」


それは、医療系のドラマでよく見る光景だった。

ベッドに寝かされている都古の傍には、脈拍数が表示されているモニターがあり、動きに合わせて機械音が鳴り響いている。


「そんな…嘘だろ…」


今にも消えそうな圭介の声が、背後から聞こえた。


その瞬間、今まで自分の気持ちを抑えていた何かがプツンと切れた。

気付くと俺は、久藤の首筋に向かって斬馬刀を振り下ろしていた。

しかし、あと少しの所で黒服の男に阻まれてしまう。


刀同士のぶつかる音が響く。


「…一体これのどこが無事なんだ」

「…。」

「久藤!!」


返事のない研究者に、俺は苛立ちを隠せなかった。


「んのやろっ……!!」


結鶴も刀を抜く。……が、その攻撃はまたしてももう一人の黒服に阻まれてしまった。


「てめぇっ…都古に何をした!!」

「まぁ落ち着きたまえよ君達。モニターをご覧なさい。彼女はまだ生きているじゃあないか」

「脈が動いてりゃいいってわけじゃ…!!」


結鶴が言い切る前に、俺は斬馬刀の攻撃を防いだ黒服を斬り倒し、再び久藤の首を狙う。


もはや話をする気はなかった。


都古に投与した薬が何なのか、


どうすれば元に戻るのか、


あいつに聞かなければならないことは山程あった。

しかし、怒りで我を忘れてしまった俺にそれを考える余裕はなかった。

こいつだけは何としても斬らなければいけない。

そう思った。


久藤の方に走り出した次の瞬間、自分の首元に違和感を覚えた。

足に力が入らなくなり、そのまま地面に倒れ込む。

首元に手をやると、麻酔針のようなものが刺さっていた。

すぐに引き抜くも、既に遅かった。


「ご無事ですか」


物陰から、さらにもう一人の黒服が現れる。


「やはり念には念を入れておくものだな」


久藤は告げる。

薄れゆく意識の中、研究者の声が響く。


「君達の任務はただ一つ。…彼女を、夢から連れ戻して来ることだ」

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