第2話 協力者

「…ここか」


着いた場所は、シャッターが閉められた倉庫の前だった。


「ここに、島津が…?」

「…。」


その時だった。

背後から何かが飛んでくる気配を感じた。

俺は咄嗟に刀を抜く。



カン、カラカラ…



足元に落ちたのは、二つに斬られた複数の弾丸だった。

隣にいた二人は、何が起きたのか分からないという表情でこちらを見ていた。


「なっ……え……?」

「サガミさん、怪我ないすか?」

「…あぁ」


「…ほう、反応したか」


弾が飛んできた方向から誰かが近付いてくる。

俺は斬馬刀を構えた。


「今の攻撃に対応できるとは…白蛇学園の生徒で間違いなさそうだな」

「…なに?」

「先程弾丸を斬ったのが、十門寺サガミさんで間違いないかね?」


目の前にいたのは白衣を着た老人と、銃を撃った張本人と思われる黒服の男だった。


「…人の名前を聞く前に、まずは自分が名乗ったらどうだ」

「ほっほっほ、それもそうだな」


そう話し、老人は真っ直ぐにこちらを見つめた。


「私は久藤信隆(くどう のぶちか)。とある薬の研究開発をしている者だ」

「…研究者…?」


薬とは一体何だ。

それも都古の失踪と関係しているのだろうか。


「さて、もう一度聞こう。先程の弾丸を斬ったのは、十門寺サガミさんで間違いないかね?」

「…あぁ」

「となると…隣にいるのは喜崎結鶴さんと、佐久間圭介さんだね?」

「…何であたしらの名前を知ってるんだ」

「何でって…ここに書いてあったからな」


そう言って久藤が取り出したのは…都古のスマートフォンだった。


「…っ!」

「それはっ…!!」

「この携帯にかかってくる電話で、一番連絡回数の多かった三人を呼ばせてもらった」

「…何のためだ」

「今回の研究には、″協力者″が必要なのだよ」

「協力者?」

「今私達が作っているのは、開発途中の薬だ。未完成の薬の使用にはそれなりのリスクが伴うのは当然。だから、保険をかけておく必要があるのだよ」

「ちょっと待て……その未完成の薬と都古が関係してるっていうのか?!」


結鶴の表情が変わる。


「都古さんには試験者になってもらった。勿論、彼女の意思でな」

「そんなはずねぇ…あいつがそんな怪しい薬に手を出すわけねぇだろ?!」

「確かに最初は、な。でも、その薬の効果を説明したらあっさり了承してくれたさ」

「…どんな薬だ」

「それはまだ言えん。君達がまだ″協力者″になると決まっていない今の段階では、ね」

「…。」


すると、横から拳銃を取り出す音がした。


「…サガミさん、俺の銃で倉庫のシャッターを壊しましょう。きっと島津もそこに…!」


真っ直ぐ目の前の敵を見据え、拳銃を後ろに隠し持ちながら話す圭介。


「落ち着け。もし仮に都古がいたとしても、中にいるならそのやり方は危険すぎる。それに、向こうにも戦闘訓練されている仲間がいる。下手に動かない方がいい」

「…っ……じゃあどうすれば……!!」


敵と目が合ったのか、視線を横に反らす。

そして、そのままゆっくりと拳銃を元の場所に戻した。


「さぁ、答えを聞かせてもらおうか」


久藤が再び話を切り出す。


「我々の開発に、協力する気はないか?」


あのスマホは、間違いなく都古のものだった。

俺は決断する。


「…いいだろう、やってやる」


目の前の老人は、不敵な笑みを浮かべた。

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