美琴

ずっと、わかっていた。咲が私の近くにいた事。

どうしてだろう、どうすれば良いのだろうと、定期的に頭を悩ませた。私にできることは、咲の志した、大学で、彼女の志した夢を叶えることだけ。私の志望していた学部ではなく、法学部で、ずっと法律の勉強をしている。興味のないことを勉強することは、別に苦痛ではなかった。しかし、法律の勉強となると、レベルが違う。趣味に使う時間などなかった。バイトと勉強をこなすことで精一杯だった。弁護士になることが、こんなに大変だとは思っていなかった。もちろん、大変だろうとは思っていた。けれど、想像を優に超えていた。


浜松夏樹を介して、久しぶりに咲と話した。頑張ってて偉いねって、私の分までほんとにありがとう、って。でも、あんたまで死んだら意味ないじゃん、疲れたら、必ず休めって。もう、涙が止まらなかった。疲れすぎて、なんのために頑張ってたのかも忘れていた。そう、私は咲の夢を叶えるために生きていたのだった。


【ねえ、あんたの人生なんだから、弁護士になんかならなくていいよ】


咲はそう言っていたらしい。けれど、そんな訳にはいかない。


私は、弁護士になる。


浜松夏樹や、咲のような子供を守るために。


あのあと、浜松夏樹とたくさん話した。

彼の両親は、俗に言う毒親、というものだった。そのストレスのはけ口としていじめを行っていたらしい。


だからといって許されるものではないが、彼にも同情余地があった。彼だって、助けてくれる大人がいなかったばかりに、ああなってしまったんだ。


数日後。浜松夏樹と、咲のお墓参りの約束をした。そして今日はその当日。まだ、セミがうるさい。今日は、入道雲すらない、快晴。

「ごめん、待ったよね。」

「いや、平気。いこっか。」

そう言って、二人で咲の家のお墓へ向かう。


「咲、早く成仏しなよ。天国、行けなくなるよ」

「成仏の仕方わからんらしい」

「あ、そうだ、五十嵐、中島が金髪私くらい似合ってるって。」

「そっか。まああんたのマネしてるからね。」

「やっぱ、そうだよな。口調とか、性格も、そういうことだろ?」

「まあ、そうかも」



今日も、時計の針は3時を指していた。クーラーの効いた部屋で、背を伸ばす。取り返しのつかない青春。けれど、私の生きる理由ができたきっかけでもある。


咲は、もういない。そうだな、髪を伸ばそう。高校生の頃の私くらい。髪色はそのままで。私らしさと、自信をつけるために。

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夏の日陰 ねみ @nemi_kawaE

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