忘却
そう。他でもないこの神社は、咲と通ったあの神社だった。そんな、思い出の場所に、よりにもよって浜松夏樹、私と、咲をいじめていた張本人と来ている。
「じゃ、行こっか。」
そう言って彼は階段を登り始めた。昨日、思い出していたすべての記憶が、また私を襲う。耐えられなかった。
「ねえ、なんのつもり?」
彼の足が止まった。
「いや、なんていうか…本当に、ごめん。」
…ごめん?それは何に対しての謝罪なのだろうか。
「祭りで会った日、お前の金髪見たら、中島のこと思い出しちゃって。」
「それまで忘れてたってこと?」
「そういうわけじゃない!ただ、鮮明に思い出したんだ。謝って済むことじゃないってわかってる。だから、なにかできることはないかなって…」
そうなんだ。ただ、それしか思わなかった。今頃、牢屋にでも入っているべきだ。それを免れて、今更どうするというのだろう。
「そう、じゃあ今後二度と私に近づかないでよ。」
そう言い残し、私は階段を登った。
あの時、咲と並んだ場所。咲がいるはずの場所には、夏樹くんがいる。なぜついてくるのだろう。自分が許されて楽にでもなりたいのだろうか。
「なあ、お前さ、幽霊とか、神様とか信じるか?」
何を突然。
「まあ、半々かな。」
「俺さ、昔から幽霊とか結構見る体質でさ。」
そう。だから何?この男は、本当に何がしたいのだろう。イライラしてきた。
「お前、中島だろ。」
何を言っているんだ…?
突然、からだのちからが抜けるのを感じた。
「違うよ、ずっと一緒にいるだけ。」
美琴の、声がした。
「おまえ、わかってたのか。なら、いいのかな。別に悪さするようなやつじゃないだろうし。そもそも俺のとこじゃなくてお前のとこ行く時点で悪さする気はないだろうな。」
「だってさ、咲。こいつどうする?」
中島、咲。それは、私の親友の名前だったはずだ。
「五十嵐、たぶんだけど本人は気づいてないぞ。さも、自分は五十嵐美琴だとでも言うような顔をしてる。」
「美琴…まあ、あんだけのストレス受けたら現実なんて受け入れられないよ。私が幽霊と話せたらなぁ」
「ああ、俺、多分話せると思う、聞こえるだろ、中島。」
すべてを理解した。私は、中島咲。高校3年生の夏に死んでから、ずっと、美琴と一緒にいた。それどころか、自分が五十嵐美琴だと思い込んでいた。
何年間だ。私がこうしていたのは…。
何か、浜松夏樹に言わなくては。
【聞こえる、私は、中島咲なんだね、今、気づいた。】
「今自分が中島だって気づいたらしいぞ」
「ほんとにいるんだ、嘘ついてるわけじゃないだろうね?」
「流石の俺でもそこまでの悪ふざけはしねえよ。しかもこんな神様の前で。罰当たりにも程がある。」
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