光輝ある君へ

真っ白な空間に、真っ白な煙が漂っている。

空間は遠く、広く、終わりがない。

そこにはただ地面と煙があるだけで、他には扉も窓も天井も、空も終わりもなかった。


「ふゃ〜、退屈だなぁ〜」


雲煙のなか、1人の少女が呟いた。

猫吹ケムリは、煙から生まれた魂の形であった。

ただひたすらに揺蕩うスモークが時を経て、形を憶え、意思を持った。彼女には美しい声も愛らしい姿もあったが、それ以外に何も持っていなかった。


なんの変化もない、ただフワフワと漂う日々。たまに姿を少年に変えたり、頭に浮かんだ歌を口ずさむ、変わり映えのない毎日。そんな彼女の日常に変化が訪れたのは突然だった。


真っ白な、煙だけのその空間にソレは現れた。それは我々の認識で言うところの「窓」だった。初めて見る煙霧以外の存在に少女は某きゅうり猫もびっくりの飛躍を見せた。

ケムリは窓に近づいた。窓の向こうには自分以外の存在がいることに気が付いた。


そろり、と褐色の手を窓の向こうに伸ばす。すると、額を超えたところで少女の身体は霧散してしまう。彼女はこの空間でしか自分の姿を保てないことを知った。


「わ、もくもく。」


ケムリは白いモヤになった自分を見て呟いた。


その声に反応したのか、窓の向こうの誰かがこちらの様子を伺っている。


「こ...こんにちは!あのね、ケムリはね、あなたとお話がしてみたいの!」


---


あの時からどれくらいの月日が経っただろう。猫吹ケムリが窓の前に立つ時、大勢の人が会いにくる。互いに今日の出来事を報告する。


「あはは、それって本当なの〜?」


「えぇ〜、ケムリくんに会いたいって?しょうがないにゃぁ〜。」


「ケムリは煙だから自由なのだ!」


少女は今や1人ではなかった。何もなかった空間は物や思い出で溢れかえっていた。

彼女を応援する通称「愛煙家」からはたくさんのイラストが届いた。窓の外のものは物質として煙の世界に存在することができた。外の世界を知ってから、彼女はすっかりとあるカフェの飲み物にハマっている。


外から貰った絵や手紙を眺めていたある日、見覚えのない文字を見つけた。


「はっぴー、ばーす、でい?」


ある愛煙家は言った。我々には誕生日と言って、生まれた日を祝う日があることを。この世に生を受けた者へ愛を伝える日があることを。

さらに隣の愛煙家が言った。猫吹ケムリには明確な時間も、誕生日も存在しなかった。だから自分たちの概念で君の誕生を祝う日を作ってみたと。


今日は9月6日、語呂合わせで雲の日。

白くてもくもくな君にぴったりな今日だよ。


みんなが笑顔で少女に感謝を述べた。


ケムリちゃん、お誕生日おめでとう。

生まれてくれて、出逢ってくれてありがとう。


ああ、光り輝く君よ。

これからもその窓の向こうの雲海からその愛らしい姿で我々を見守っておくれ。


2023/09/06

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光輝ある君へ 亞辺マリア @avemariasf

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