2話
部屋が暗くなってからずっと天井を眺めていると、部屋が明るくなった。体感時間からしても、夜が明けたと思われる。
一睡も出来なかったけど、発見はあった。ついさっき、部屋が明るくなったと同時に、天井の突起が赤から緑に変わったのだ。
現状この部屋で唯一の変化だし、外に出る為の手掛かりになるかもしれない。
俺が最初に見た時は、緑色だった。そして、
心当たりがあるとすれば、やはりあの赤い光だろう。
あの時、何をしていたかを思い出す。俺が扉を開けようとしたら、水無口さんの声がして、驚いた俺が声を上げた。
――ガチャッ
検証のためにも扉を開けて、ついでに用も足す。鍵が付いてない事には驚いたけど、特に変化は無い。
つまり、声があの光の条件か……?
確かめるには、水無口さんにも協力してもらう必要がある。黙ったまま色々と試してから話して、その時に光れば確定だろう。
寝起きで声を可能性もあるだろうから、俺はベッドの側に移動した。
水無口さんは毛布も掛けずに、体を小さくして熟睡している。奇妙な部屋で、男と二人きりとは思えないほど、健やかで可愛い寝顔だ。
「んぅ……?」
水無口さんが起き上がったので、唇に人差し指を当てて、ジェスチャーで伝える。
「……んー!んーん!」
しかし、伝わらなかったのか口を開こうとしたので、一瞬の迷いの末に手で抑えた。手に柔らかい唇の感触が伝わる。
俺が喋らないように伝えようとしても、顔を真っ赤にして抵抗する水無口さん。これ以上は良くないと思い、手を退ける。
「漏れちゃうっ!は、早く退いてっ!!」
「……ッ!!!」
俺が速やかに水無口さんから離れると、水無口さんは駆け足で扉に向かった。
――バタンっ!
昨日、せっかく始めて話す事が出来たのに、嫌われたかもしれない……。
「申し訳ありませんでした!!」
水無口さんがトイレから出てきたので、土下座をする。それとほぼ同時に、視界が赤みを帯びた。
思わず顔を上げると、部屋が赤く染まっていて、天井の突起も赤色に変わっている。
そういえば、水無口さんが叫んでいたのに赤い光が来なかった。それに、昨日も水無口さんに話しかけられて、驚いた俺が声を上げたタイミングだった。
つまり、二人が喋る事が条件なのか……?
「ねえ、
水無口さんは顔を真っ赤にして肩を震わせている。心なしか銀髪が逆立っている気もする。
俺は、さっきの赤い光。そして、天井の突起の色の変化と、その検証のためにしたという事も話した。
「……え、ちょっと待って。伊世くん、寝てないの?」
「ん?ああ、……こんな奇妙な部屋で寝れないと思ってな」
俺は寝てても、何かあればすぐに起きて対応出来るけど、俺が寝てる間に水無口さんに何かあったらと思うと、眠れなかった。
「そうなんだ。なんか、意外かも」
「そうか?俺からしたら、こんな状況で熟睡してた水無口さんに驚きだよ」
「だって、眠かったんだもん。……その、さっきの事だけどさ、悪気は無かったんでしょ?」
水無口さんの顔はまだ赤いけど、さっきと違って怒っている感じはしない。
「もちろん。それは信じて欲しい」
「それなら、うん。許してあげる」
「良かった、ありがとう」
一応お風呂場はあるものの、基本的にはこの部屋で二人きりなのだ。雰囲気を悪くしたくない。
「そういえばさ、昨日、さとーれん?だっけ?食べてたけど、体は平気なの?」
「ああ、シュトーレンな。一晩経っても何とも無かったし、平気だと思う」
今の所、体調に違和感は無い。少なくとも毒の類は入ってなかったと見ていいだろう。
「なら良かった……って、後ろ、またある」
「ん?……あ、本当だ」
水無口さんの言葉に振り向くと、またシュトーレンがあった。まだ切られていないので、昨日の続きという訳では無さそうだ。
「よく分からないけど、突然出てくるんだな」
「みたいだね。また消えちゃうのかな」
「そう考えた方がいいと思う」
俺はシュトーレンに近付いて、見た目や匂いを確認してから、一口だけ食べた。うん、とても美味しい。昨日と同じみたいだな。
「味も昨日と同じだし、俺は食べても平気だと思う。次も出てくる保証は無いから食べた方がいいと思うけど、最終的な判断は任せるよ」
「そっか、それなら食べようかな。お腹も空いてるし」
――くぅぅ
お腹の音を響かせた水無口さんは頬を朱く染めた。
「……切り分けようか?」
「……うん、お願い」
俺が薄く切り分けると、水無口さんは俺の向かい側に座って、フォークを刺した。そしてゆっくりと口に運んで――
「んー!」
幸せそうな笑みを浮かべた。
水無口さんはそのまま食べ進めて、一口食べる度に笑顔になっている。見ていて飽きない。
「そ、そんなに見られてると食べにくいんだけど……。伊世くんも早く食べなよ。全部食べちゃうよ?」
「あ、ごめん。でも、俺は昨日食べたし、好きなだけ食べていいよ」
「食べたって、一口だけでしょ?ちゃんと半分ずつね」
「わ、分かったよ」
水無口さんの圧に押されて、俺も食べ始めた。
「また消えるのかな……?」
「わからないけど、見逃さないようにしたいな」
「うん」
シュトーレンをちょうど半分ずつ食べて、今は残った食器を注視している。
「「消えた!!」」
最初から存在しなかったかのように消えたのを見て、声が重なった。
「謎すぎる。何がなんだかさっぱり分からなかった」
「うん。私も」
このシュトーレンに関しては、理解しようとするのがそもそも無駄な気がしてきた。
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