〜地下迷宮レストラン〜 ため息編


「あーぁ。」

ライラは、料理を運び終えて、キッチンに戻ってくると、今日12回目のため息をついた。


「ずいぶん、今日は、ため息ばっかりで、どうしちゃたの?恋しちゃった?」

心配と好奇心と半々の眼差しのシェリルは、下ごしらえの手を止めて、カウンター越しにライラにたずねた。


「恋だったらいいんですけど。」

ライラは浮かないような暗い声で答えた。


キッチンの洗い物担当のナタールは、

「あっ、そうか!ライラは、あれ、魔法科の1年だったよね。」

同じ学校の先輩は、後輩にたずねた。


「そうです。」

ライラは、たくさん積み上げられている洗いたてのグラスを拭きながら、ナタールに返事をした。


「もう期末テストの時期じゃない?ライラ?」

少し大きな声が、キッキン奥から響く。


「そうなんです。」

ライラも声が届くように言った。


「期末テストって、まさか、ヴィラース・ポイゾンの実技のテスト?」

とナタール。


「そうなんです、なんだか、だんだん落ち込んで。」

ライラは、手を止めた。


「何?なんとかポイゾンって?」

とシェリル。


「相手に悪心を与える魔法です。嫌な気にさせて、退散させる時に使うというんですが」

ライラは、覇気のない声で答えた。


「ヴィラース・ボイゾンは、使えば使うほど、自分に跳ね返ってくるんだって!心が暗くなるから、反対に、心を明るくしなさいって、その当時の家庭教師のデニスって、先生が教えてくれたんだけど。」

ナタールは、洗い物をやめて、カウンターのところにきて、ライラに言った。


ナタールは、ライラの目の前で来て、

「はぁー、って、ため息をつきたくなったら、カァー!って言ってみなさい、と教わったのよ。」

と笑顔でライラを見た。

 

「ブラッククローみたいに、カァー!って、言ってみて。」


ライラは、

「カァー!」

と言ってみた。

思わず、笑顔になるライラ。


「ありがとうございます!少し元気が出ました!」

ライラは、ナタールにお礼を伝えた。


「わたしも、ヴィラース・ポイゾンの練習してて、めちゃくちゃ落ち込んだから。わかるわ!」

そう言うと、ナタールは洗い場に戻った。


「結構、大変なのよね、期末テスト。」

シェリルが、ライラに言ったとたん、注文のタブレットの着信音がなった。


注文だ。

シェリルは、二度見した。


「ケシの実と白身魚のグラタン、57名分ですって!? 階層19階16区3 153テーブル〜160テーブル!?」

と読み上げたシェリルは、

思わず、両手をバタバタさせて、

「カァー!」

と叫んだ。

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地下迷宮レストラン 《異世界ショートショート1》 柏木星凛(せいりん) @seirin1985

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