第6話
「日菜? 大丈夫か?」
鼻血を出しながら倒れた後、10分足らずで日菜は目を覚まし、何事もなかったかのようにキッチンに立っている。
「体調悪いんだったらちゃんと休んだ方がいいぞ? 料理の続きなら俺がやっておくし」
「平気だって言ってるじゃん。はるは私のこと心配し過ぎだってば。それにさっき言ったじゃん。今日は、はるの胃袋掴むためにここに来たんだから、はるに任せたら意ないんだって」
「そこまで言うなら任せるけど‥‥というか、なんでそこまで本気なんだ? 別に今までも俺が料理することくらいたくさんあったし、お前から料理するなんて一回も言ってきたことなかっただろ?」
俺は純粋に気になったことを聞いてみる。負けず嫌いなのはそうなのだが、そこまで料理にこだわる理由が分からない。むしろ、日菜は基本、露葉さんに料理は任せきりで、自分からやるなんてこと、今まではなかったんだが‥‥。
「さっきから言ってるじゃん。はるの胃袋を掴みたいんだって。ママにも言われたし‥‥」
最後の方はあまり聞き取れなかったが、どうやら俺に手料理をふるまうことで、俺の胃袋を掴みたいらしい。なぜそうしたいのかまではわからないが、これ以上聞くのは日菜の邪魔にもなるだろうし、やめておくことにする。
「けがだけはしないでくれよ。なんかあったら呼べよな」
「大丈夫だってば。しつこい男は嫌われるよ?」
「余計なお世話だ」
そんなやり取りを交わして、俺はキッチンから離れてリビングへと移動する。ここなら何かあっても、すぐにキッチンに行けるし、大変なことにはならないだろう。
日菜のことを信用していないわけではないが、どうにも心配は拭えない。多分、日菜が初めて料理をするところをみるからだろうな‥‥。自分の子供の面倒を見てるみたいだ。子供持ったことないけど‥‥。
「はる! できたよ!」
1時間くらい経っただろうか。ボーっとしていたところに日菜から声をかけられ、少し慌ててしまう。
「もう出来たのか?」
「うん! 冷めないうちに早く食べよ」
そういって日菜は手際よく食卓に料理を並べていく。その手際の良さに驚きつつ、食卓に並べられた料理を見て、俺はさらに目を丸くする。
「オムライスか‥‥綺麗にできてるな」
一目でわかるくらい綺麗な仕上がりになっているオムライス。程よい焼き加減で丁寧に巻かれた卵は、綺麗な黄色を輝かせていて、その上からケチャップで「はる」「ひな」と書かれている。
「こっちは付け合わせのスープね。キャベツと卵を使ったコンソメスープだよ」
どうやらちゃんとスープまで用意してあるらしい。これは露葉さんの入れ知恵なのかな‥‥。
「すごいな。正直びっくりしてる。こんなにちゃんとした料理が出てくるなんて思ってなかったから」
「失礼すぎるよ!? 私だってちゃんと料理くらい作れるから!」
「わかったよ。ごめんってば」
日菜にポコスカ殴られるが、ただじゃれついてきてるだけなので、痛みはない。こんな日菜を知っているのは、学校で俺だけだし、朝也とかに話したら腰を抜かしそうだ。
(はやく朝也とも友達になれたらいいな)
そう願うと同時に、そのことに少し抵抗感も感じたような気がする。
気のせいだと思うが。
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