第5話

「お前彼女いたの?!」

「あぁいるぞ!しかもとびっきり可愛いんだぜ!」

「彼女いるなんて聞いてないぞ!?」

「あぁ!言ってなかったからな」


 いやまぁ、朝也はノリもいいし、コミュ力も高くて、容姿もいい。確かに、彼女がいるって言われても納得はできる。けど、今まで一切そういう話をしてこなかったせいで、朝也に彼女がいるなんて、全然知らなかった。俺が知ろうとしなかったのもあるのだろうが。


「同じクラスなのか?」

「いや、クラスは違うな。ただ同じ学校にはいるから、明日にでも紹介するよ」

「あ、あぁ‥‥って、お前、その彼女さんとは一緒に帰ったりしなくていいのか?」


 俺はふと思い立ったことを聞いてみる。「世界一可愛い彼女がいる」というくらいだ。朝也にとって、その彼女はとても大切な存在であることに違いはないだろう。だとしたら、当然のように登下校を一緒にしたりしていそうではあるのだが。


「あー、あいつはなぁ、なんというか良くも悪くもクールなんだよな。だから、あんまり一緒に帰ったりとかはしてくれないんだよ。たまにはしてくれるんだけどな」

「はぁ‥‥?」


 朝也の言葉に俺はいろいろと疑問が浮かんでくる。

 そんなクールな子とどうやって付き合うようになったのかとか、その子のどこが好きなのかとか、いろいろある。


「なぁ―――」

「あ、もう駅に着いたな。それじゃあ俺はこれで。またな!」

「あ、あぁ‥‥」


 どうやら気づかない間に駅に到着していたらしく、俺が口を開いたタイミングで朝也は走っていってしまう。そのせいで、少し俺の中のはてなが宙ぶらりんになってしまったが、明日、朝也が彼女さんを紹介してくれるらしいし、そのタイミングでいろいろ聞けばいいだろう。


(それにしても、アイツって、あんな一人のことを好きになるんだな。結構いろんな人と仲がいいし、てっきりそういうの興味ないのかと‥‥)


 ちょっと失礼なことを考えながら、俺は自分の家へと歩き出す。


(今日は露葉さんに頼ることはできないから、日菜の分も合わせて晩御飯用意しないとな‥‥どうしようか)


 お腹を空かせて待っているであろう幼馴染の顔を思い浮かべ、俺は少し急ぎ足で家へと向かった。



「ただいまぁ‥‥?」


 自分の家に帰ってきたのだが、いきなり違和感を感じる。いつもだと、玄関で待ち伏せして、即行で飛びついてくる日菜が今日は、飛びついてくるどころか玄関にいない。それに、家の奥の方からなんだか良い匂いが漂ってくる。


(母さんが帰ってきてるのか‥‥?)


 そう思いながら、リビングに続く扉を開ける。そして、俺はリビングの光景に目を丸くした。


「あ、おかえりはる! もうすぐご飯できるよ!」


 どういう風の吹き回しか、日菜がキッチンに立って、エプロンを着けた状態で料理をしていた。今まで、日菜が料理をしているところなんて見たことなかったから、料理ができるということだけでも驚きなのだが、なによりもベージュを基調とした無地のエプロンがとても似合っていて、新妻のような雰囲気を醸し出していた。


「なんで、日菜が料理してんの?」

「昨日言ったじゃん! 私も将来のためにいろいろ勉強してるんだよって! 今日は、それをはるに理解してもらうために、まずははるの胃袋をつかむことにしたんだ!」


 そう言って日菜は得意げに胸を張る。エプロンを着けているせいで、日菜の大きな胸がより強調されているのだが、俺は敢えて気づいてないふりをした。


「そうか‥‥あ、そう言えば。今日、朝也に挨拶返したって本当か? アイツ、めっちゃ嬉しそうに語ってたんだが」


 これは、今日、俺が日菜に絶対に聞こうと思っていたことだ。人付き合いが苦手な日菜が、俺や家族以外に挨拶を返したっていうのは、それだけでもかなりの進歩だ。


「あ、えっと‥‥うん。頑張って『おはよう』とだけは返したの。でも、声が小さかったから、雲海くんに聞こえたか不安だったんだけど、ちゃんと聞こえてたみたいでよかった」

「おぉ‥‥」


 俺は日菜の言葉を聞いて思わず感嘆の息を漏らす。そして、そのまま日菜に近づいて思わず―――

「よく頑張ったな。偉いぞ日菜」

 ―――と言いながら頭を撫でた。


「ふぇっ?! はる?!ど、どどど、どうしたの?! 」


 日菜は突然のことに驚いたような声をあげる。


「俺は頑張った日菜のことを労っているだけだよ」

「はわわわ‥‥えっと‥‥えっと‥‥」


 日菜は顔を真っ赤にして照れているが、俺はそれでも撫でるのをやめない。


 けど、そうして撫で続けているうちに


「もう無理‥‥幸せ過ぎてしんじゃう‥‥しゅき‥‥」

「ひなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 キャパオーバーを起こした日菜が、鼻血を出しながら倒れてしまった。

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