第六話「影ト侍従」
「ふむ、逃げられましたか」
時は過ぎ夕刻。
鬼神子シュラとその侍女玉梓を追い、鬼ヶ島を出たユラと空はとある小島に停泊していた。
「如何でしょう、ユラ様。鬼神子様の痕跡は見つかりましたか」
「えぇ…私の目算通り、シュラ達はこの小島で一晩越したようです」
そう言って彼女は足元に視線を落とした。
そこには簡易的な焚き火の痕跡が残されていた。
「如何致しましょう、もう夕刻です。夜の船出は些か危険かと」
「しかし、あまりのんびりしているとシュラの足跡を見失うやもしれません」
「それは存じております。しかし私は貴方の従僕、主人を危険に晒す訳にはいきませぬ」
どうかご自愛くだされ、と空は続けた。
「……仕方がありませんね、ここを今宵の宿としましょうか」
「ありがとうございます」
「しかし、シュラの足跡は辿っておかなければなりませんね」
そう言ってユラは印を結び絵図白絲を発動させた。
「さて、シュラ達はここから何処へ行ったのか……」
「周辺の海図を見る限り、このまま東に進んでも人の住む街等まであまりに遠いですな。直に向かうのは現実的ではありませぬ」
「……南東にシュラの反応があります」
「南東ですと……おお!」
浜に揚げた船の縁に腰掛けて海図を眺めていた空が声を上げた。
「ユラ様、ここより南東に人間の街があります!」
その言葉に訝しげに眉を顰めるユラ。
「この海図によればそこは漁港町があるようです。シュラ様達は港が目当てなのかもしれませぬ」
「港から更に遠くへ行くつもり、だということでさか」
「おそらく」
ふむ、と顎に手を当て思案する。
「いや、あの子の事です。ただ単に魚を食べてみたいだけでしょうね」
「へ……?」
「シュラは昔から魚を口にしてみたいと言っていたのを何度か見ています」
「シュラ様らしいと言いますか……」
「ふふふ……とりあえず、シュラの次の行動の目処も立ちましたし、夕餉にしましょう」
「はっ、直ちに用意いたします」
そう言って空は持ってきた食糧を取り出し調理を始めた。
「空、あまり急がなくても大丈夫ですからね」
ユラは大急ぎで包丁を振るう空を心配そうに見つめながら海に沈む夕陽を眺めていた。
(そういえば私も郷から出るのは初めてでしたね……できればシュラと共に旅をしたかったけど)
何故私を頼ってはくれなかったの、と言葉を零した。
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