第9話 もう一押しで堕ちる?

 玲奈れいなさんが言った。それは彼女が着けているブラを外すというもの。白鷺しらさぎさんの協力もあって、何とか外せた俺。


協力してくれた妹にお礼をしたいと告げた玲奈さんは、彼女の手を俺の手まで誘導させて握らせた。


普段の白鷺さんならすぐツッコむはずなのに、彼女は握られた手を眺め続ける始末。

一体どうしてしまったんだ? 気になるが、声をかけづらい…。



 この不思議な状況に、俺はもちろん仕掛けた張本人の玲奈さんも呆気に取られている。彼女にとっても予想外だったようだ。


…何だ? 急にニヤついたぞ。悪いことを考えたのか?


「貴弘君の手はどう? 玲那れな


それを聴いた彼女はハッとし、手を離した。


「離すなんてもったいない。そのまま握ってればいいのに」


「別にそんな。ぼーっとしただけだし…」


ツッコミに切れがない。白鷺さん、本当にどうした?


「玲那って、男の手を握ったことないの?」


「あるよ! ……幼稚園の時に」


最後はボソッと言ったな…。


「幼稚園の時なんて“ノーカン”だから」


どこまで含むかはその人次第だし、俺がとやかく言う事じゃない。


「貴弘君の男の手に惹かれたんじゃないの? 他のところも触って男らしさを体感したら?」


「……他の男らしいところってどこ?」


「腕とか胸板あたりが無難かな。は玲那には無理でしょ?」

玲奈さんは俺の該当部分を指差す。


その部分を観た白鷺さんは一気に顔を赤くする。


「無理だって!! アタシは姉さんみたいな変態じゃないから!!」


「私は自分の欲に正直なだけ。玲那も素直になったら?」


「……」


白鷺さんが正直になったら、玲奈さんみたいになるんだろうか? 姉妹だからあり得ない話じゃないが…。



 …玲奈さんの部屋に着信音とバイブ音が響く。その音を聴いた玲奈さんはすぐ携帯を観る。


「貴弘君。私誘われたから、今日はここまで♪ まとめも終わったし良いよね?」


「はい、大丈夫ですよ」

女慣れはメンタル面の疲労が大きい。ここで終われて良かった…。


「貴弘君はどうする? これから玲那に相手してもらう? それとも帰る?」


「アタシはあんな変態行動しないから!!」


「別に“女慣れ”のことじゃないんだけど…。玲那はだね~」


「……」

墓穴を掘ったので、白鷺さんは悔しそうだ。


「俺、帰ります。疲れたので…」


「それじゃ、途中まで一緒だね♪」



 玄関で靴を履く俺と玲奈さんの元に、白鷺さんが見送りに来てくれた。玲美れみさんは再び出かけたらしく不在のようだ。


「玲那。夜は食べて帰るってお母さんに伝えておいて」


「はいはい」


「白鷺さん、お邪魔しました」

彼女には迷惑をかけたからな。今度来る時があれば、何か渡すべきか?


「須藤君。“玲那”で良いよ」


「えっ…?」


「姉さんは“玲奈さん”って呼んでるのに、アタシは名字なのは何かね…」


「わかった。“玲那さん”と呼ばせてもらうよ」


「アタシは変えないけど」


俺達が会話したのは今日が初めてだ。彼女の反応はおかしくない。


「そろそろ行こっか、貴弘君♪」


「そうですね」


こうして、俺は白鷺家を後にした。



 隣にいる玲奈さんに行き先を聴いたところ、俺と同じく電車に乗るらしい。方向は俺と逆らしいので、最寄り駅まで歩いて向かう事になる。


「まさか、玲那があんな風になるなんてね~」

玲奈さんがつぶやく。


「俺も驚きましたよ…」

俺の手を握ってから、明らかに彼女の様子はおかしくなった。


「あともう一押しあれば、正直になると思うんだけど…」


正直になった玲那さんか…。気になるけど知る勇気はない。


「貴弘君が望むなら、私もいろいろやってみるよ?」


「しなくて結構です!」

悩みの種を増やさないで欲しい…。


「そう、わかったわ♪ 玲那のことお願いね♪」


「わかり…ました」

玲那さん、次会う時は普通でいてくれよ!



 駅に着き、俺は玲奈さんと別れ電車に乗る。自宅の最寄り駅に着いてからは、寄り道せずにまっすぐ帰宅した。帰宅後は夕食まで昼寝をする…。


夕食の時間に母さんに起こされたのでリビングに向かうと、姉ちゃんがいた。土日は夜遅くまで遊んでくるのに珍しいこともあるもんだ。


…そうだ。玲奈さんの妹である玲那さんがクラスメートだったことを姉ちゃんに問い詰めないと! もっと早く知りたかったから、追及する権利はあるはず!



 夕食後、姉ちゃんが自分の部屋に戻ったのを見計らってノックする。


「入って良いよ~」


許可をもらったので、部屋内に入る。


「貴弘、どうかした?」


「今日玲奈さんの家に行ったんだけど、あの人の妹、俺のクラスメートだったんだよ。何で教えてくれなかったんだ? 姉ちゃん?」


「へぇ~。クラスメートだったんだ。凄いじゃん」


「凄いのはどうでも良いんだよ。理由を聞かせてくれ!」


「だってあたし、あんたが行ってる高校の名前知らないもん」


「…え?」

予想外のことを言われたぞ…。


「だから玲奈には『高2の弟がいる』としか言いようがないじゃん!」


まさかの逆切れ…。


「あんたこそ、あたしが行ってる大学の名前わかんの?」


「…言われてみれば知らないな」


「でしょ? わざと言わなかった訳じゃないから!」


「そうか…。話は終わったから帰るよ」

俺は姉ちゃんの部屋を後にした。

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