第26話 遭遇、そして始まる戦い
ハロルドがS級賞金首である【豪餓鬼】と遭遇した頃、他の者達もまた、己の戦いに身を投じようとしていた。
【十騎士】の一人、ノーベルトが地下通路を進んでいると前方から足音が聞こえた。通常ならその足音など気にせずに速攻で構成員を始末するのだが、その足音に違和感を覚えたノーベルトは足を止めた。
その足音はノーベルトに向かって段々と近づいてきた。そして、ついにその足音の発生源が姿を現す。
「足音が妙に軽いとは思ったが、まさか君のような子供が【魔神教団】に所属しているとは。帝国の騎士とはいえ一言言わせてもらおう。世も末だ、とね……」
ノーベルトは警戒しながら目の前にいる
「君、その手に持っている短剣を地面に置いてはくれないか。このままでは、私は君を殺さなければいけなくなってしまう」
「う~ん、それは無理だよ。だって………」
少女は短剣をノーベルトに向けながら、満面の笑みを浮かべた。
「この短剣を使って、私はあなたを八つ裂きにするんだから」
『ドォンッ!!!』
【十騎士】の一人、ロンネルが地下通路を走っていると、突如天井が爆発した。爆発の衝撃や天井から落ちてくる瓦礫がロンネルを襲うも、彼は一切動揺することなく全てを防御する。
「っと、罠ですか。まぁ想定内です。どうということはない」
「どうということはない、じゃとぉ?言うじゃねぇか、クソボケが」
通路の奥から声が聞こえた。かすれた男の声だ。ロンネルがその方向に視線を向けると、一人の老人が自身に向かって歩いてくるところが目に入った。
「
「はっ、すました顔しやがって。そういうお前さんは【十騎士】じゃなぁ?いいのぉ。殺しがいがある。儂はお前さんのような才能ある将来有望な若者を、知恵と策で殺すのが趣味でのぉ」
「さすがは犯罪者。最低な思考ですね。ただ、残念ながらあなたでは僕には勝てません。知恵と策、それを駆使する相手にとって、僕は天敵と言ってもいい存在ですから」
余裕を崩さないロンネルに対し、【悪老】ボンドは元々浮かべていた笑みをさらに深めた。
「その自信、すぐに失うことになるぞぉ。お前さんは儂にじわりじわりと追い詰められ、助けてくれと懇願しながら、凄惨な死を迎えることになるじゃろう。あぁ、楽しみじゃ。楽しみじゃなぁ」
【悪老】ボンド。その異名に劣らぬ悪しき心を持つ老人だ。彼が殺害した若者は優に百を超える。その誰もが将来有望な青年だった。そんな真の悪である彼に対し、騎士がすべき行為はただ一つ。
ロンネルは中指を立てて、口を開いた。
「死ね。クソ爺」
「うぉおおおお!!!なんでこんなことにぃぃぃ!!!!」
ジャックは必死に走っていた。なぜなら彼の背後には巨大なゴーレムの拳が迫っているからだ。
ノーベルト、【久遠の証】と別れた彼は通路を進んでいると、突然広い空間に出た。そして、いきなり巨大なゴーレムに襲われたのだ。その巨大ゴーレムはジャックが倒したと誤認されている巨大ガーゴイルよりもさらに巨大で、より素早く、より力強かった。
「巨大ガーゴイルの次は巨大ゴーレムかよぉぉぉ!!!!」
ジャックが必死にゴーレムから逃げ回っていると、ゴーレムから機械音のような男の声が聞こえた。
『オラオラオラァ!!逃げ回ってんじゃねぇぞ!!俺様のガーゴイルを倒しやがったクソ野郎がよぉ!!!』
「あぁ?この声は誰の声だ!?どこに隠れてやがる!っていうか、俺はガーゴイルを倒してねぇ!!どいつもこいつもふざけんな!なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!!」
『なにふざけたこと抜かしてやがる!!てめぇがガーゴイルを倒したことは知ってんだよ!!あのガーゴイルは雑魚だがよぉ、俺の作品を壊したことには変わらねぇ!ぶっ殺してやるよぉ!!』
―――ぷつん。と、そんな音が聞こえた。
ジャックは足を止め、逃げ回ることをやめた。そして振り返り、力強い目でゴーレムを睨みつける。
「もう怒った。俺は今、人生で過去最高に怒ってるぜ。意味わかんねぇことばっか起きやがって。なんで俺がこの掃討作戦に参加してるんだ。なんで俺がこんな巨大ゴーレムに襲われているんだ。どいつもこいつも、俺を英雄だと勘違いしやがって!!……神はどうやら俺を余程嫌っているらしいなぁ。あぁいいさ、どうせこのままじゃ死ぬんだ。ならやってるよ!お前を倒して、本物の英雄になってやるよ!!」
『やれるもんならやってみやがれぇ!!!』
ジャックと巨大ゴーレムとの戦いが始まった。そんな中、それを隅から見つめる黒猫が一匹。
「(やべぇ。出るタイミング完全に見失った。いつ助けに行こう……)」
「う~ん、なかなか広いわね」
「帝都にこれほどの地下施設を作るなんて。【魔神教団】。侮れない組織」
【久遠の証】はルノアや【十騎士】と別れてからも何事もなく通路を進んでいた。
「ほ、本当に【死神】がいるんでしょうか。も、もうかなり拠点を探索しましたけど……」
「騎士団がこの地下施設の入り口を抑えてくれてるから、今もどこかにいると僕は思うけどな~。……ん?ねぇ見て!通路の先!大きな空間が広がってるよ!」
「ほんとね。……ここから先はより警戒しながら進みましょう。あの空間には何かがいる。そんな気がしてならないわ」
「同感。強敵と戦う覚悟が必要」
拠点に侵入してから最も強い警戒を露わにする【久遠の証】の面々は、遂にその空間へと足を踏み入れた。そして、真の悪と対面することになる。
「私の元へも侵入者が来たようですねぇ」
コツコツと足音が響く。その方向へ視線を向けると、そこには神父服を着た
「ふふふ、あなた達のその覚悟を秘めた瞳。実に素晴らしい。その瞳が絶望に染まり、自ら死という救済を望むことになるとはあぁ、……神とはなんて非情なんでしょうか」
「間違いない。あなたの正体は―――S級賞金首、【死神】カタロス!!!」
「あなた達は私に懇願することになるでしょう。神父様、私を殺してください、とね」
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