第26話 悪意との対面


【魔神教団】の拠点は思った以上に広かった。ハロルド、ロンネルと別れてから既に十分ほど経過しており、その間、遭遇した構成員は数多く、さらには数々の違法施設を発見した。それでもまだこの掃討作戦の終わりは見えない。


それにこの地下通路、明らかにおかしい。まるで迷宮のようだ。一本道のくせに上下左右に曲がっていて、何かしらの意図を感じる。一体何故、地下通路はこのような形になっているのだろうか。ただの設計ミスには思えない。


全員が漠然とした不安を抱えつつも進んでいくと、またもや別れ道に遭遇した。


「また別れ道ですか、それも三本に別れている・・・。ジャック君は左に、私は前に、【久遠の証】の皆さんは右に進みますか」

「了解したわ」

「俺一人かよ・・・。はぁ、行くしかないか」


【十騎士】の一人、ノーベルトはノーベルト、ジャック、【久遠の証】の三手に別れて通路を進んでいくことに決めたようだ。この場にいる人間は単独でも様々な状況に対処できる実力を持っていると考えているからだろうな。


だが、おそらくジャックにそのような実力はない。ジャックがこの任務に参加することになった原因である巨大ガーゴイル討伐の実績に関しては間違っており、実際に巨大ガーゴイルを倒したのは俺だ。


まぁつまり言いたいことは、このままだとジャックがやばい、ということだ。う~む、どうするかな。ジャックがここにいるのは俺のせいでもあるし・・・。


「ルノア」

「にゃ?」


ジャックに関してどうすればいいか考えていると、ミリーが俺に話しかけてきた。


「ルノア、ジャックについて行ってあげて。もしS級賞金首と遭遇したとき、彼に生き残る実力はないわ。元々この場にいるのも私たちのせいだから、彼がピンチになったら助けてあげてほしいの」


それはもちろん分かってる。・・・でも、俺は【久遠の証】の皆も心配なんだ。ジャックも死なせたくないし、【久遠の証】も死なせたくない。だからこそどうすればいいか迷っているんだ。


「ふふ。私達のことが心配といった様子ね。でもね、ルノア。私たちは私たち自身でこの依頼を受けると決めたのよ。元々あなたの力を借りるつもりはなかったわ。たとえ私たちが死ぬことになっても、ね」


ミリーの目に宿るのは覚悟。冒険者としての覚悟だ。元日本人の記憶がある俺にはない、真に戦う者の矜持と誇りがそこにはあった。


正直俺には理解が出来なかった。俺にとって死は最も恐ろしい事だ。たとえ死ぬことになってもその覚悟と意志を貫き通す、その行動が俺には理解できなかった。


ミリーに続くように、ルディア、エマ、クロエの三人も話しかけてくる。


「ミリーの言う通り。確かにルノアの力を借りれば大抵のことは簡単にできるし、どんな場面でも生き残れるかもしれない。でもそれじゃだめ」

「そうそう。ルノアの力を借りっぱなしじゃあ、私たちはきっと腐っちゃうからね!」

「も、もし腐ってしまえば、私たちの目標は絶対に達成できません。だ、だからルノアさんの力は借りられないんです。け、決して嫌いだとかそういう意味じゃないです」

「だからルノア、ジャックを助けに行ってあげて。私たちは絶対生きて帰るから。たとえS級賞金首が相手でもね」

「にゃあ・・・」


【久遠の証】の面々の力強い瞳と意志に、俺は頷くことしかできなかった。






【十騎士】の一人、ハロルド・ガンドネットは地下通路を一人で走っていた。ロンネルとは道中に現れた別れ道によって既に別行動となっている。


「なんなんだこの拠点は。無駄に広い作りになってやがる」


ノーベルトと同様にハロルドは拠点の作りに疑問を持っていた。地下通路の形が明らかにおかしいのだ。その疑問を解消するために、頭の中で今まで通った道を地図のように思い返してみる。何か法則性があるのかもしれない。


「あ~、なんか見たことあるかもしれねぇな・・・。この形、なんだったかな」


もう少しで思い出しそうというところで、その思考は打ち切られることになる。進んでいる通路の先が大きな空間に繋がっているところを目にしたからだ。


「かなり広い空間があるな。なんだか大物がいる予感がするぜ」


ハロルドは警戒しながらもその空間に足を踏み入れる。


「こんだけ待ってやっと一人かよ。がははっ!!究極に退屈じゃねぇかっ!!」


ハロルドが足を踏み入れたその空間には一人の男が立っていた。筋骨隆々の若い男だ。大きな体格、鍛え抜かれた体、傷だらけの顔。その身から発せられる気配はまるで猛獣のようだ。


ハロルドにはその顔に見覚えがあった。手配書で見たことがある顔だ。


「お前・・・S級賞金首、【豪餓鬼】ガドラドだな?」

「あぁ、究極にそうだぜぇ!!そういうてめぇは【十騎士の】の一人、【豪然の騎士】ハロルドだなぁ!?いいねぇ。今の俺は運がいいようだぁ。究極に殺したい奴が来てくれた」

「殺したい奴だと?お前と俺は初めて会うはずだぜ。そんな因縁はないはずだがな」

「あぁ、会うのは初めてだ。だがよぉ、帝国で誰が一番力が強いかって話になるとよぉ、毎回毎回俺より先にてめぇの名があがるんだよなぁ。だからよぉ・・・この【豪餓鬼】が!!てめぇをぶち殺してくれるぜ!!!」

「はっ、かかってこいや!!このクソ餓鬼がぁ!!!」


強者同士の戦いが始まろうとしていた。

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