第24話 掃討作戦開始
「【魔神教団】?」
「えぇ、魔神を復活させようと企む危険な思想を持った宗教団体です。我々はこの【魔神教団】の殲滅の任務を第二皇子より授かっています」
【死神】カタロスを討伐するために無理やり任務の助っ人となった【久遠の証】の面々は、【十騎士】の一人であるノーベルトに任務の説明を受けていた。
「【魔神教団】って、なんかありがちな名前ね。【十騎士】が三人も出向くほどの相手なのかしら?」
「我々も名を聞いた当初はそう疑いました。ネーミングセンスの欠片もない名に、簡単に情報が洩れる杜撰な管理。正直に言って、我々が対応するほどの案件なのかと、そう一度は考えました。ですが調査の結果、類は友を呼ぶと言うことでしょうか。少なくともS級賞金首が三人は所属していることが判明したのです」
「さ、三人も……」
クロエはその事実を聞いて【魔神教団】の恐ろしさを想像し身震いした。
「その三人って誰なのかな?分かってるの?」
「【豪餓鬼】ガドラド。【悪老】ボンド。そして、【死神】カタロス。少なくともこの三人は【魔神教団】の幹部です。S級賞金首が三人以上所属する【魔神教団】を侮ることは流石にできません。よって、我々は多大な戦力をもってこの組織を殲滅することに決めたのです」
「なるほどね~。あの雑貨店も【魔神教団】に繋がりがあるってことだよね?」
先ほど神父服を着た【死神】と思われる男が入っていった雑貨店をエマは指さした。それに対してノーベルトは頷く。
「そうですね。あの雑貨店は【魔神教団】の息が掛かっています。おそらく、【魔神教団】は帝都の地下に違法施設を作りそこに潜んでいるのでしょう。あの雑貨店はその施設への入り口の一つです」
なるほど……。つまり、あの雑貨店に入っていった神父服の男は【死神】であることが確定的になったな。まさかこんなにも早く見つかるなんて。
「既にあの雑貨店を含む計七つの施設への入り口を騎士団が抑えています。そのため、これから我々は少数精鋭で施設へと侵入し、【魔神教団】の掃討作戦に入る予定です」
……ということは、もしかして今日がその掃討作戦の日なのか!?まだ【死神】を探し始めて一日目だぞ!?まだ心の準備ができてないんですけどっ!!
と、焦る俺とは違い、【久遠の証】の面々に大きな動揺は見られない。【死神】と戦いになる可能性があることを想定していたのだろう。どっしりと身を構えているような感じだ。これがA級冒険者の振る舞いってやつか。
「掃討作戦は今日実行するのね。少数精鋭の理由はなに?」
「犠牲者を増やさないためです。我々はいとも簡単に【魔神教団】の情報を手にしました。まるで、情報が洩れても構わないかのように。正直に言って罠である可能性が非常に高いです。また、我々が侵入しても撃退できるという自信があるのかもしれません。よって、何が起きても対処できる実力のある人物のみで【魔神教団】を掃討することに決めたのです」
「なるほど。大体理解したわ」
「さて、任務についてあらかた説明を終えましたが、助っ人とは言ってもこの任務を断って頂いて構いません。命の危険が大いにある任務ですから。まぁその場合は情報統制のため、この任務が終わるまで拘束させてもらいますが」
ノーベルトのその質問にミリーは笑みを浮かべ、自信満々な顔でこう答えた。
「もちろんその任務、私達も協力するわ!―――この【久遠の証】がね!」
それからしばらく待機していると雑貨店回りを囲むように多くの騎士が現れた。ノーベルトによると、あの騎士達は【魔神教団】の取り逃がしを防止するために配置されているだけであり、拠点に侵入するわけではないらしい。
拠点への入り口で現在確認されているものは七つ。その全てを多数の騎士や魔導士で抑えることになっており、拠点に侵入するのはここにいる【十騎士】の三人、ジャック、そして【久遠の証】だけのようだ。
現場の雰囲気が緊張を帯びてきた。帝都の住民も突如現れた多数の騎士に騒めいている。ついに【魔神教団】掃討作戦が始まる。まさか【死神】を探し始めた当日にこんな大規模な作戦に参加するなんて、【久遠の証】には何かを引き寄せる力があるのだろうか。
「よし、時間だ。行こうか」
ノーベルトのその言葉に従い、俺達は雑貨店に向かって歩き出した。さぁ、【魔神教団】掃討作戦の始まりだ。血沸き肉躍る戦いが―――今始まるっ!!
「……ところで、その猫も任務に参加するつもりですか?」
「あはは、気にしないでもらえると助かるわ……」
「うわ~、すごいね。こんな通路を地下に作るなんて、【魔神教団】もやるな~」
エマが走りながら場違いな感想を漏らした。俺達は今、雑貨店に隠されていた入口から地下通路に侵入している。十分な広さの地下通路だ。床、壁、天井も石で綺麗に加工されており、資金力や技術力の高さが窺える。しょうもない名前とは違って敵勢力は中々の規模のようだ。
「なっ、侵入者だ!!殺せ!!」
「我々【魔神教団】に「はいはい。死んでください」かなう、と……あ、れ?」
【十騎士】の一人、ロンネルが【魔神教団】の構成員の首を一瞬で切断し、殺害した。この異世界で初めて人が殺された瞬間を見たが、不思議と吐き気や不快感に襲われることはなかった。精霊になった影響だろうか。もちろんグロいとは思うけどな。
【久遠の証】の面々やジャックにもそのような様子は見られなかった。さすがは異世界の住民。このようなことはよくあるのだろう。
そのまま【魔神教団】の構成員を始末しながら地下通路を進んでいく。時折麻薬の栽培施設や違法奴隷を収容している部屋を発見し、その中にいた構成員も殲滅していく。
……というか、【十騎士】の三人が強すぎる。【久遠の証】もジャックもほぼ何もしていない。俺達が敵を視認した瞬間に敵が死んでいく。これが帝国最強か。いくらチートスペックの俺でも勝てるか分からないかも。それほどに速く、巧い。
「―――別れ道ですか」
順調に【魔神教団】掃討作戦が進む中、俺達は別れ道に遭遇した。
「予定通り、俺とロンネルは左に行くぜ」
「そうですね。私とジャック君、そして【久遠の証】は右に行きます」
「了解」
「じゃ、またな」
「えぇ、また」
二手に分かれる道。左には【十騎士】のハロルドとロンネルが、右には【十騎士】のノーベルト、そしてジャックと【久遠の証】が行くことに。二手に分かれた直後、走りながらノーベルトは思考する。
「(この地下通路、途轍もなく広い。どうやってこれほどのものを……。それにただの拠点ではない。一本道にも関わらず何度も左右に曲がったり、上下に移動したり……まるで迷宮のような形をしている。まさか、あらかじめ侵入されることを想定しているのか?時間稼ぎ、もしくはなんらかの罠が仕掛けられている?……今は判断がつかないが、何があっても私は全力で対処するのみ)」
俺達の知らないところで、人の悪意が動き出そうとしていた。
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