第23話 十騎士

「ちょーっと、時間いいかしら?ジャック」

「え……なんだか嫌な予感がするんだが……」


 ミリーの怪しげな態度に顔を引きつかせるジャック。まさかこんなところで会うとは、随分運がいい男じゃないか。

 それに帝都でも騎士服を身に纏っているなんて仕事熱心で素晴らしいな。……ん?どうしてジャックは騎士服を着ている?休暇ではないのか?


「あそこにある雑貨店、見えるでしょ?あの店に入ってちょっとだけ店内をめちゃくちゃにしてほしいんだけど……」

「何を頼んでんだ!俺は騎士だぞ!!騎士!!」

「騎士だからこそよ。あの店、犯罪者と繋がりがありそうなのよね~」

「なんでお前らがそれを……はは、そんなわけないじゃないか。あの店は何の罪もない正規のお店ですよ。あははは」


 必死に誤魔化したけど今こいつ、『なんでお前らがそれを知っているんだ?』って言いそうになったよな。つまり、あの店が本当に犯罪者と繋がりがあり、それをジャックは知っているということになる。……おいおい、これは詳しく事情を聞かせてもらわなきゃなぁ。

 もちろん【久遠の証】の面々も俺と同じ結論に辿り着いたようで、情報を吐かせるためにジャックに圧をかける。


「んん~、なにか、知っているようね~」

「吐け」

「さ、さぁ。何のことだか……」


 情報を吐かせたい【久遠の証】と情報を吐きたくないジャック。二つの勢力が鬩ぎ合いは、突如として終結を迎える。数名の騎士が接近してきたのだ。

 しかもその接近してきた騎士達、かなりの逸品だと一目でわかるような防具や武具を身に着けている。身に纏うオーラも只者ではない……ような気がする。ちょっと強者っぽいことを言ってみたかっただけ。


「どうしたんですか、ジャック君。おや、あなた方は……見覚えがありますね。たしか、【久遠の証】という名のA級冒険者パーティじゃないですか」


 騎士の一人が口を開いた。整えられた金髪に細身の体、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。一つ一つの所作が洗練されているように見えることから、貴族の関係者だろうか。


「ふむ、なるほど……。そういうことですか、ジャック君。あぁ、何も言わなくていいですよ。言わずともすべてを理解しました。彼女達に助っ人として、今回の任務に参加してもらおうということですね」


 なんだこいつ。何も理解できていないじゃないか、恥ずかしいやつだな。おい、眼鏡をクイっとあげるな。


「い、いや、こいつらは」

「そうなんですよ!私達【久遠の証】が助っ人として任務に参加させてもらいます!」

「えぇ……」


 ミリーはジャックが訂正する前に無理やり押し通した。


「ふふ。私の推理に外れはなかったようだね」

「(うわっ、そんな自信満々な顔されたらもう訂正できねぇ……)あはは、まぁそういうことです……」

「ちょっとちょっと、待って下さいよ!!本当にこの人達を任務に加えるつもりですか?極秘任務ですよ?極秘任務っ!冒険者など信用できません」


 桃色の髪に小柄な体格、それに生意気そうな顔をした騎士が不満を口にした。なんとなくムカつくが、確かにこの男の言う通りではある。冒険者を極秘任務の助っ人に選ぶなんて、まぁ正気の沙汰じゃない。


「何言ってんだ。我らが第二皇子、ウェスト様が推薦した男こそがジャックだぜ?そのジャックが連れてきた助っ人だ。信用に値する。それに【久遠の証】と言えば、次期S級冒険者候補として有名な新進気鋭の冒険者パーティだ。実力もあればある程度の社会的信用もある」


 今度は逆立った赤髪が特徴的な筋骨隆々の大男がそう意見した。ちょっと待て、ジャックが第二皇子に推薦されたってどういうことだ?いったいジャックはあれからどこまでいったんだ?


「……はぁ、何かあっても僕は責任取りませんからね。ちょっと不満は残りますけど、彼女たちを助っ人として認めますよ。まぁ、もしも僕達を裏切れば始末すればいいだけですし」

「あ、あの、あなた達は何者なんでしょうか?み、見たところ、帝都所属の騎士のようですけど」


 クロエよ、よくぞ聞いてくれた。クロエ以外の【久遠の証】の面々も気になるのか、騎士達の次の発言に注目する。


「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私は【十騎士】の一人、ノーベルト・ムル・ダウンと申します」


 眼鏡をかけた神経質そうな男の名はノーベルトというらしい。それにしても【十騎士】だと?【十騎士】は確か、帝国最強の十人に与えられる称号だったはず。……つまりこいつら、とんでもない大物じゃないかっ!!


「【十騎士】!?大物中の大物じゃない!?こんなところでお目にかかれるなんて、思いもしなかったわ」

「僕もびっくり!。まさか【十騎士】に会えるなんて」


 驚きを隠せない【久遠の証】の面々。


「はぁ、これは自己紹介する流れですか……。僕はロンネル・ラビット。ノーベルトと同じく【十騎士】の一人です。どうぞよろしく」

「俺も【十騎士】の一人、ハロルド・ガンドネットだ。よろしく頼むぜ」


 三人の自己紹介が終わると、ミリーはその三人に聞こえないほどの小声でジャックに話しかける。


「ちょっと。【十騎士】が三人って、一体どんな任務を受けてるのよ!」

「どんな任務って、S級賞金首と戦闘になることがほぼ確定のとんでも任務だよ!」

「なんでジャックがそんな危ない任務についてるのよ!!休暇じゃないの!?」

「巨大ガーゴイルを倒した英雄っていう訳の分からない名誉と栄光のせいだよ!」

「あ……」

「にゃあ……」


 ……つまり、ジャックは俺のせいで危険な任務についてるってことだ。しかも帝国最強の騎士が三人も出てくるほどの、超危険な任務。……なんかごめん、ジャック。まぁ、その、なんだ……頑張ってな。

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