第19話 世界は広く、世間は狭い
エルハード伯爵との食事会は大いに盛り上がった。貴族にも遠慮をしない【久遠の証】の性格と、エルハード伯爵の気さくな性格が上手くかみ合った結果だろう。
エルハード伯爵は【久遠の証】の冒険談を求め、【久遠の証】はそれに応え様々な冒険談を話した。絶品の食事も相まって、上機嫌に冒険談を話す【久遠の証】に笑顔を見せるエルハード伯爵。控えめに言っても、この食事会は大成功だろう。
俺も俺で部屋の隅に待機する美人メイドさんに体をすりすりしてアピールし、いっぱい撫でてもらった。非常に勉強になる、有意義な時間だった。
このまま楽しく解散、そうなればよかったんだが……どうやら俺の人生は波乱に満ちているらしい。
そろそろ食事会も終わり。そんな空気が流れ始めた頃、エルハード伯爵の雰囲気が変化した。先ほどまでの明るい雰囲気は消え、何か重たい空気を醸し出している。俺や【久遠の証】はその変化を察知し、エルハード伯爵の様子を慎重に窺う。
「あの、どうしたんですか?伯爵」
「……突然で申し訳ないが、君たちの人間性を確認し、数々の冒険談を聞いた結果、私はある決断を下した」
「ある決断?」
ミリーがエルハード伯爵の言葉を理解できずに復唱すると、エルハード伯爵は決意を秘めた目で俺達を見つめながら口を開いた。
「個人的に―――君たちに頼みたいことがあるんだ」
その言葉に【久遠の証】の面々は驚きを見せる。
「……エルハード伯爵、基本冒険者は冒険者ギルドを通じて依頼を受けなければいけないのです。個人的にと言われましても……」
ミリーは事情を説明しやんわりと断ろうとする。通常、冒険者は冒険者ギルドを通じて依頼を受けなければいけない。ギルドを通さず依頼を受けるなど、余程の理由がなければ誰もしない。ギルドとの信用問題に関わるからだ。
それに加えて、ギルドを通さない依頼は厄介な依頼が多いという理由もある。通常の依頼ならギルドを通せばいいのだから、必然的に厄介な依頼ばかりになるわけだ。
「分かっている!分かってはいるんだ。……だが、君たちに頼みたいこととは極少数しか知らないこと。極少数しか知ってはいけないことだ。ギルドは様々な貴族や団体と繋がりがあり、情報漏洩の可能性は拭えない。それ故に、どうしてもギルドを通さずに依頼したいんだ」
エルハード伯爵の力強い意志が宿ったその言葉に、【久遠の証】の面々は思案する。
「みんな、どうする?」
「私達に受けるメリットはない。普通に考えれば断るべき」
「僕もそう思うよ!冒険者の基本はどんな場面でも油断しないこと。同情で身に余る依頼を受けると悲惨なことになると思うな!」
「わ、私もそう思います。いつもお世話になっているギルドにも悪いですし……」
意外なことに【久遠の証】からは否定的な意見ばかり出てきた。いつもの和やかな雰囲気から一転、冒険者として依頼に関しては冷静に判断するようだ。
……なんかかっこいいな。俺も今度からは甘えた姿を見せながらもたまにキリっとした姿を見せてみよう。惚れられるかもしれない。
【久遠の証】の面々の意見に、思わずエルハード伯爵は顔を歪ませる。
「そうか……。君たちの言うこともごもっともだ。申し訳ないが、私の今の言葉はなかったことに「たしかに、」……ん?」
エルハード伯爵が【久遠の証】への依頼を諦めようとしたそのとき、ミリーがその言葉を遮った。
「たしかに、普通に考えれば受けるべきではないわ。基本に忠実に生きるのならば断わるべきでしょうね。ギルドにも悪いし。でも……私達は普通や基本に当てはまらないことを目指してる。でしょ?みんな」
ミリーは笑みを浮かべながら【久遠の証】の面々にそう問いかけた。
「その通り。私たちの最終的な目的を達成するためには、こんなところで怖気づいていられない」
「んふふ!ミリーならそう言うと思ってたよ!」
「ち、血が滾りますね……」
先ほどまで流れていた空気が嘘のように【久遠の証】には肯定的な雰囲気が流れた。というか、ルディアの言っていた最終的な目標ってなんなんだ?世界一の冒険者になるとか?……いや、口振り的になんか違う気がするな。
「……と、ということは……私の頼みを聞いてくれるのか?」
「えぇ……まぁ先に詳細は聞かせてもらうけどね」
「もちろんだ。だが、そのためには部屋を移動しなければならない」
「へ、部屋を移動……ですか?」
「あぁ、そうだ。手間をかけるが、よろしく頼む」
食事会は自然と終わりを迎え、依頼の内容を聞くために別の部屋へ移動することになった。エルハード伯爵を先頭に部屋を出て、別の部屋まで移動し始める。
すれ違うメイドや執事が頭を下げる様を見ると、何故だか偉くなった気がした。……やっぱろメイドさん可愛いな。俺もメイドさんにお世話されたい。膝枕とかされたい。
そんなことを考えている間に目的の部屋に到着したようだ。エルハード伯爵や【久遠の証】が次々と部屋へ入っていく。もちろん、俺もそれに続いて部屋に入った。そして……そこで衝撃の光景を見ることになった。
「……この子は?」
「三年前から目を覚まさない―――私の娘だ」
その部屋に設置された大きなベットには、一人の少女が眠っていた。
その少女は。
その眠っていた少女は―――。
―――自らを名無し少女と名乗る幽霊と、全く同じ容姿をしていた。
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