第17話 帝都満喫


「その御方はね、帝都全ての防衛を任されているんだ。いわば城壁付近の防衛を任されている私の上司と言えるだろう。その名は―――。



―――ウェスト・ムル・ダルメシア。帝国が誇る第二皇子さ」



・・・どうしてこうなった。





「たかが一介の騎士である私が第二皇子様にお会いできるのですか?」


あ~、まじで会いたくない。平凡な男である俺がなんで第二皇子という帝国の最高権力者の一人に会わなくてはならないんだ。正直デメリットしかないぞ。


何を頼まれるか分かったもんじゃないし、第二皇子から頼まれたことなんて断れるわけがない。それにもし会って無礼を働いたら不敬罪になる可能性もある。あぁ、心の底から会いたくねぇ。でも会いたくないなんて言えねぇ。


「ふはは、心配か?でも安心してくれ。ウェスト様は寛大な御方だ。たとえマナーがなっていなかったり、多少の無礼を働いても許してくださる」

「・・・本当ですか?それなら安心ですね・・・」


んなわけねぇだろ!!無礼を働いても許されるなんて適当なこと言ってんじゃねぇぞ!!この伯爵じじいが!!俺みたいな何の権力もない塵カス騎士なんて第二皇子のくしゃみで首が吹っ飛ぶわ!


「あの・・・私はいつ第二皇子様とお会いするのでしょうか?」

「あぁ、今日だ」

「なるほど、今日ですか。・・・今日!?」

「そうだ、今日だ。善は急げ、鉄は熱いうちに打てというやつだな」


いや善は急ぎすぎだろ!!まだ鉄が熱々だよ、熱々すぎて火傷しちゃうよ!!ねぇいいの?俺が火傷してもいいの?あっそうか。俺なんて塵カス雑魚騎士は火傷しても誰も気にしないか。あ~あ、もし生まれ変わったら超絶イケメン金持ち貴族になりたいな~。


「ではジャック殿。さっそくウェスト様の元へ参ろうではないか。ははは、そう緊張するでない。ほら、行くぞ」

「は、はい・・・」


そして俺はウィペット伯爵とともに伯爵家を出発し、馬車に乗り帝国城を目指すことになった。


あぁ、もうどうにでもなれ。こうなったらやけくそで第二皇子とマブダチになってやるよ。おぉやってやんよ。俺やってやんよ。俺はジャック、第二皇子とマブダチになる男だっ!!






「わ~、すっごく大きな魔結晶だね!!僕こんなの見たことないよ!!」


おっす。俺はルノア。肉球が柔らかい黒猫大精霊だ。俺は今、【久遠の証】と帝都を満喫しています。


「私の拳と同程度の大きさ。これほどの魔結晶、色々な使い道がある」

「じゅ、十万ビルですか。なかなかの値段です」

「そうね。でも買う価値はあるわ」


俺たちは喫茶店や武器屋など帝都の様々な店を巡っている。今いる店は冒険者用の小道具やら素材やらを売っている雑貨品店のような店である。


「買うべき」

「僕はよく分かんないからな~。クロエはどう思う?」

「わ、私はミリーとルディアが買うべきと思うのなら、か、買うべきだと思います」

「よし!!じゃ買おう!」

「決まりね。パーティ用の資金から買いましょう」


【久遠の証】ではパーティ用の資金と個人用の資金で明確に分けられているらしい。毎回依頼の報酬の何割かをパーティ用資金に回し、残りを等分したものが個人用資金になるのだとか。


また、この世界には銀行もあるらしい。【久遠の証】ではパーティ用の口座と個人用の口座が存在しているようだ。その銀行は冒険者ギルドと密接な協力関係にあるらしく、銀行に手を出せば全世界の冒険者を敵に回すため、よほどの人間以外銀行の金には手を出さないようだ。


ミリーは魔結晶を購入するために店主の元へ向かった。


「ルノア、こっち」

「にゃ」


店内を適当に歩き回っていた俺に対して、手持ち無沙汰になったルディアが手を伸ばしてくる。俺は喜んでルディアの手にすりすりした。


「よしよし」


ルディアはすりすりしている俺の頭を撫でてくる。気持ちええの~、至福の時間じゃけ。


「僕も撫でた~い」


俺を撫でるルディアの姿を見て感化されたのか、エマが俺の体を撫でようと近づいてくる。既にルディアが両手で俺の頭を撫でているため、エマは俺の体を撫でることにしたようだ。


「あっ!クロエ!」

「は、早い者勝ち、です」


しかし、いつの間にか俺の近くにいたクロエがエマより先に俺の体を撫で始めた。それによってエマの撫でるスペースが無くなってしまう。


「え~。じゃあクロエのこと撫でちゃお~」


すると何故かエマはクロエの頭を撫で始めた。


あぁ、なんて素晴らしい光景なんだ。神々しい。神聖な輝きを放つ二人の百合に俺の目が焼けそうだ。同じくらいの背丈なのにエマがクロエに対してお姉さんぶってるのがなんかいいな。


・・・というか、どっちのほうが年齢が高いんだろう?そういえば俺、【久遠の証】の皆の年齢知らないわ。こっちからは聞くことが出来ないし、皆もわざわざ猫の姿の精霊に自身の年齢なんて教えないだろう。俺がもし猫を飼ってたとしても、その猫に対して自分の年齢なんて教えないしな。


「わ、私は猫じゃなくて狼です」

「狼でも撫でちゃうよ~」

「もう・・・」

「仲良し。それでいい。それがいい」


その通り。みんなで仲良し。それでいいし、それがいい。


「こ~ら、お店の中で何やってんの」


会計を終えたミリーが俺たちの元へ戻ってきた。そのまま撫でられてる俺を抱き上げ、ミリーはお店の外へ向かう。


「ほら、さっさと出るわよ~」

「「「は~い」」」

「にゃ~」


帝都を存分に満喫する俺たちの一場面であった。

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