第16話 帝都満喫
「その御方はね、帝都全ての防衛を任されているんだ。いわば城壁付近の防衛を任されている私の上司と言えるだろう。その名は―――。
―――ウェスト・ムル・ダルメシア。帝国が誇る第二皇子さ」
……どうしてこうなった。
「たかが一介の騎士である私が第二皇子様にお会いできるのですか?」
あ~、まじで会いたくない。どうして平凡な男である俺がなんで第二皇子という帝国の最高権力者の一人に会わなくてはならないんだ。正直デメリットしかないぞ。
何を頼まれるか分かったもんじゃないし、第二皇子から頼まれたことなんて断れるわけがない。それにもし会って無礼を働いたら不敬罪になる可能性もある。あぁ、心の底から会いたくねぇ。でも会いたくないなんて言えねぇ。
「不安そうな顔だな。でも安心してくれ。ウェスト様は寛大な御方だ。たとえ多少の無礼を働いても許してくださるだろう」
「……本当ですか?そ、それなら安心ですねぇ……」
んなわけねぇだろ!!無礼を働いても許されるなんて適当なこと言ってんじゃねぇぞ!!この伯爵じじいが!!俺みたいな何の権力もない塵カス騎士なんて第二皇子のくしゃみで首が吹っ飛ぶわっ!
「あの……私はいつ第二皇子様とお会いするのでしょうか?」
「あぁ、今日だ」
「なるほど、今日ですか。……今日!?」
「そうだ、今日だ。善は急げ、鉄は熱いうちに打て、というやつだな」
いや善は急ぎすぎだろ!!まだ鉄が熱々だよ、熱々すぎて火傷しちゃうよ!?ねぇいいの?俺が火傷してもいいの?あっ、そうか。俺みたいな塵カス雑魚騎士は火傷しても誰も気にしないか。あ~あ、もし生まれ変わったら超絶イケメン金持ち貴族になりたいなぁ~。
「ではジャック殿。さっそくウェスト様の元へ参ろうではないか。ははは、そう緊張するでない。ほら、行くぞ」
「は、はい……」
こうして、俺はウィペット伯爵と共に伯爵家を出発し、帝国城を目指すことになった。
あぁ、もうどうにでもなれ。こうなったらやけくそで第二皇子とマブダチになってやるよ。おぉやってやんよ。俺やってやんよ。俺はジャック、第二皇子とマブダチになる男だっ!!
「わ~、すっごく大きな魔結晶だね!!僕こんなの見たことないよ!!」
おっす。俺はルノア。三歳児の笑顔くらい肉球が柔らかい黒猫大精霊だ。あまりの可愛さに戦争が終結し、図らずもノーベル平和賞を受賞してしまった俺は今、なんと【久遠の証】と帝都を満喫しています。
「私の拳と同程度の大きさ。これほどの魔結晶、色々な使い道がある」
「じゅ、十万ビルですか。なかなかの値段ですね……」
「そうね。でも買う価値はあると思うわ」
俺達は帝都にて喫茶店や武器屋など様々な店を巡っていた。今居る店は冒険者用の小道具やら素材やらを売っている雑貨品店である。
「これは買うべき」
「僕はよく分かんないからな~。クロエはどう思う?」
「わ、私はミリーとルディアが買うべきと思うのなら、か、買うべきだと思います」
「よし!!じゃ買おう!」
「決まりね。パーティ用の資金から買いましょう」
【久遠の証】ではパーティ用の資金と個人用の資金で明確に分けられているらしい。毎回依頼の報酬の何割かをパーティ用資金に回し、残りを等分したものが個人用資金になるのだとか。
また、この世界には銀行も存在するようだ。銀行は冒険者ギルドと密接な協力関係にあるらしく、万が一銀行強盗でもしてしまえば全世界の冒険者を敵に回すため、よほどの人間以外は銀行の金には絶対に手を出さないらしい。
話し合いの末、魔結晶を購入することになったため、ミリーは魔結晶片手に店主の元へ向かった。
「ルノア、こっち」
「にゃ」
話し合いの間店内を歩き回っていた俺に手持ち無沙汰になったルディアが手を伸ばしてくる。俺は喜んでルディアの手にすりすりした。男なら理由は……分かるよな?
「よしよし」
ルディアは俺の頭を優しく撫でる。気持ちええの~、至福の時間じゃけ。
「僕も撫でた~い」
ルディアの姿に感化されたのか、エマが俺に近づいてくる。既にルディアが両手で俺の頭を撫でていたため、エマは俺の体をに手を伸ばす。
「あっ!クロエ!」
「は、早い者勝ち、です」
しかし、いつの間にか俺の近くにいたクロエがエマより先に俺の体を撫で始めた。それによってエマの撫でるスペースが無くなってしまう。
「え~。じゃあクロエのこと撫でちゃお~」
「わ、私ですか!?」
すると、何故かエマはクロエの頭を撫で始めた。
……あぁ、なんて素晴らしい光景なんだ。神々しい。神聖な輝きを放つ二人の百合に俺の目が焼けそうだ。というか、エマとクロエ。どっちの年齢が高いんだろう?そういえば俺、【久遠の証】の皆の年齢知らないわ。
俺は言葉を話せないからは年齢を聞けない。皆もわざわざ猫の姿の精霊に自身の年齢なんて教えないだろう。俺がもし猫を飼っていたとしても、その猫に対して自分の年齢なんて教えないしな。
「わ、私は猫じゃなくて狼です」
「狼でも撫でちゃうよ~」
「もう……」
「仲良し。それでいい。それがいい」
その通り。みんなで仲良し。それでいいし、それがいい。
「こ~ら、お店の中で何やってんの」
会計を終えたミリーが戻ってきた。そのまま全身を撫でられている俺を抱き上げ、外へ向かった。
「ほら、さっさと出るわよ~」
「「「は~い」」」
「にゃ~」
帝都を存分に満喫する俺達の一場面であった。
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