第11話 一件落着……?

『グルゥオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』

「きゃー!!!地面から急に巨大化したガーゴイルが出てきたわ!!!!」

「みんな逃げるんだー!!!!騎士を呼べー!!!!」


 ……どうしてこうなった!?なんでガーゴイルが地面から突き出てきたんだよ!?なんで巨大化してんだよ!?


『グルァ!!!』

「避けろー!!」


 「ドゴォンっ!!!」という衝撃音とともに地面が揺れる。たった一撃。たった一撃の攻撃をガーゴイルが放った結果、地面に大きなクレーターが発生したのだ。

 蝙蝠のような羽が生え、悪魔のような顔をした動く石像。それがガーゴイルというモンスター。だが、目の前のガーゴイルは決して普通のガーゴイルではない。

 俺が知るガーゴイルの大きさは人間と同程度のはずだ。しかし、目の前のガーゴイルは城壁の高さを優に超えるほどの大きさである。いったいどうしてこんなに巨大化しているんだ。


 しかも厄介なところが―――。


「あのガーゴイル、あれほど巨大なのに動きが速い。おそらく巨大化する前と同等の動きをあの姿で行っている。脅威的」

「そんなのってあり!?というかなんで巨大化!?」

「みんなっ!!巨大化した理由は一旦置いといて、ここは引くわよ!!あのガーゴイルは帝都所属の騎士達に任せましょうっ!!」

「わ、分かりました」

「了解」


 【久遠の証】はガーゴイルと戦わずに引くという決断を下した。レパートエアロ所属の騎士団からドラゴンの素材の運搬に協力するという依頼を受けており、その依頼の達成を優先した結果だろう。

 周りを見渡すと依頼主である騎士団も同様に引き始めており、近くにいた行商人達も急いで避難している。


 正直俺ならばあのガーゴイルを倒せそうな気がするが、この状況でガーゴイルを倒してしまえば俺の異常性を多くの人間に目撃されてしまうだろう。平穏な生活を送るためにもそれだけは避けたい。

 幸い、帝都の城壁から多くの騎士たちが集まってきている姿も見える。これならミリーの言う通り、帝都所属の騎士達にあのガーゴイルを任せてもいいだろう。


 そう、思ってたんだが―――。


「危ない!!」


 逃げ遅れた行商人をカンナが庇い、ガーゴイルの攻撃を受け止めた。


「きゃっ!!」

「っ!!カンナっ!!」


 しかし、巨大化したガーゴイルの力はあまりに強大であり、カンナはいとも容易く吹き飛ばされてしまった。ジャックは急いでカンナに駆け寄るも、二人のすぐ目の前には今にも腕を振り下ろそうとするガーゴイルの姿があった。


 このままでは二人は、あの巨大な腕に潰されてしまうだろう。


 ―――仕方ないか……。目の前の救える命を簡単に見捨てられるほど、俺は冷たい人間じゃないんだよ。まぁ、今は猫なんだけどさ。


 大丈夫。大丈夫だ、問題ない。ようは周りの人間にバレずに二人を救えばいいんだ。そうすれば一件落着だ。

 つまり、誰にも視認できない速度であのガーゴイルをぶっ飛ばす。これが唯一の解決方法。……そんなことができるかって?分からん!!分からんけど、やるしかない!!


 そう決意し、精一杯の力を足に込めた。すると突然、力が溢れていくような感覚が体中に広がり、ちょっとした全能感を覚える。……そうか。力の使い方が段々と分かってきたぞ。

 イメージだ。イメージするんだ。やりたいことをイメージする。ただそれだけでいい。この体はたったそれだけで、信じられないほどの力を貸してくれる。

 そして、俺が地面を蹴ると―――。


 ―――地面が爆ぜた。


「きゃっ!?なに!?爆発っ!?」

「あれ、ルノアがいないよ!?」

「えっ!?どこ行っちゃったの!?」


 レパートエアロに侵入したときのように、俺には世界が停止して見えた。あまりの高速移動によるものだろう。きっと誰もが俺の姿を視認できていない。流石は大精霊のポテンシャルってとこか。

 そして一秒にも満たない短時間でガーゴイルの元に着いた俺は、ガーゴイルに向かって腕を振りかざし―――。


 ―――ドォンッ!!!!!!!


「「え?」」


 俺の純粋な力に途轍もない速度が加わった猫パンチの威力は凄まじく、大きな音を立てながらガーゴイルの体の大部分が消し飛んだ。

 視界の隅にはカンナとジャックが共に目を丸めている姿が映る。彼らに俺の姿は見えていないはず。突然ガーゴイルの体が消し飛んだことに驚いたのだろう。

 そして、誰にも見られないように移動し、俺は【久遠の証】の元へ戻った。


「あっ!!ルノアが戻ってきた!!」

「も、もしかして、ルノアがあれをやったのかしら?」

「にゃ」

「ルノア、偉い。カンナとジャックを助けた」

「す、すごいです……。あんな巨大なガーゴイルを一撃で……」

「はえ~。僕、大精霊の力をなめてたかも。まさかこんなに強いなんてね」


 いや~、ははは。それほど褒められても何も出ませんよ~。


「あれ!?ガーゴイルは!?」

「何が起きたんだ!?」

「ガーゴイルの体が突然消し飛んだぞ!!」


 柄にもなく褒められ照れている間に異変に気が付いた周りの人間が騒ぎ出した。この様子だと誰も俺が倒したことには気が付いてないようだな。カンナとジャックのことも助けることができたし、これで一件落着だ。


「あ、あの!!わ、私見てました!!あの男騎士が女騎士に駆け寄ると、突然ガーゴイルが消し飛んだんです!!きっとあの男騎士がガーゴイルを倒したんですよ!!」

「え?」


 ……ん?


 一部始終を見ていたと思われる行商人の一人がジャックを勢いよく指さした。ジャックは突然自身の名前を呼ばれたことに驚いているのか、体が硬直している。


「男の騎士って……あれ?あれって……ジャックさんじゃないですか!!」

「……ほ、本当だ!!ジャックさんだ!!ジャックさんがガーゴイルを倒したんだ!!」


 【久遠の証】と共に帝都に来たレパートエアロ所属の騎士団員達はその男騎士がジャックであることに気が付き、興奮した様子でジャックの名前を口にする。まるでこの目で英雄を目にしたかのように。

 ガーゴイルを倒したのはジャックという騎士である。そのような認識がまるで波紋のように広がっていく。


「あの騎士、ジャックという名前なのか!!」

「ガーゴイルを倒してくれてありがとう、ジャック!!」

「助かったよ!!ジャック!!」


「「「「「ジャック!!ジャック!!ジャック!!」」」」」


 突如湧くジャックコール。


「ちょちょちょ、まてまて!!俺ガーゴイルなんて倒してねぇぞ!?」

「またまた、謙遜なんてしなくていいんだ」

「そうだそうだ、謙遜のし過ぎは良くないぞー!!」

「謙遜じゃねぇよ!!!!」


 もはやこの場の状況は覆せそうにない。ジャックが何を言っても『英雄が謙遜している』と扱われる始末だ。あ~あ、これは完全にガーゴイルを倒した英雄判定されてるわ。ごめん、ジャック。身の丈に合わない称号を背負って生きてくれ。


「ジャックさん、すごいっすよ!!」

「俺、初めてジャックさんのこと尊敬しました!!」

「だ・か・ら!!俺はガーゴイルを倒してないって!!ってか初めてってなんだよ!!」

「もう!!謙遜しなくてもいいですよ!!」

「あんなに強くても控えめな態度でいるなんて、あの騎士はなんて人がいいんだ!!」

「がははっ!!あんな若者がいるなんて、我らが帝国の未来は明るいのう!!」

「ジャックさまー!!!こっち向いて―!!!」

「あーもう!!くそっ、どうすりゃいいんだよーーー!!!!!」


 ジャックは空に向かって大声で叫んだのであった。


 ……よし、一件落着だ。

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