第10話 大量のフラグ回収の仕方

 レパートエアロという城塞都市を出発してから数週間、俺は冒険者パーティ【久遠の証】と騎士団と共にいくつかの町や村を経由しながら帝都を目指していた。


そしてついに―――。




「ねぇ見て!帝都が見えてきたよ!!うわぁ、いつ見てもおっきいね!!」


 【久遠の証】の剣士であるぼくっ娘、エマが元気に遠くを指さした。その方向を見てみると、そこには大きな城壁が立っており、その城壁の後ろには綺麗な城が姿を見せていた。あの城壁に囲まれた都市こそが帝都であり、遠くからでもその大きさが分かるあの城は帝国城という皇帝の住居だろう。

 【久遠の証】や騎士団はもうすぐ帝都に到着するためか、安心したような表情や笑みを浮かべている。かく言う俺もものすごく嬉しい。カンナとかいうイカれた女騎士が道中幾度もちょっかいをかけてきたことは例外として、まさか何事もなく帝都にたどり着くことができるとは。

 モンスターを討伐する機会は多少あったが、これといった襲撃もなく安全な道のりだったと言えるだろう。カンナに俺がドラゴンを倒した猫だと確信させるようなこともなかった。このままならカンナに残るのは疑いだけ。いずれ忘れるだろう。


「お前ら、ここまでありがとうな」


 無事に旅を終えた達成感を感じていると、今回の仕事に関して騎士団のまとめ役をしているジャックが【久遠の証】に話しかけてきた。それに対してコミュニケーション力が高いミリーとエマが返答する。


「いえ、こちらも騎士団と協力できてよかったわ。色んなことが融通されたから」

「そうそう!!いい宿にも泊まれたし、本当に助かったよ!!」


 うーむ、このジャックとかいう男、なにかと【久遠の証】に話しかけてくるな。もしや【久遠の証】の誰かのことを狙ってるんじゃないか?もしそうなら……。ふっ、この先はやめておこう。

 その一方、クロエとルディアは旅の感想を口にし合っていた。


「無事に帝都に来れてよかったです」

「なかなかいい旅だった」

「そうだな。これほど安全な旅は珍しい。俺にとっても騎士団にとってもいい休暇のようなものだったよ。安全すぎてまるで嵐の前の静けさのようだ。……なんてな」

「もうっ、冗談やめてよね」

「ははは、悪い悪い」


 ……ん?ちょ、ちょっと待て。もしかして俺達、気が付かないうちにとんでもない量のフラグ立ててないか?

 厳密には帝都にまだ到着していない。遠くに見えるだけなんだ。それなのに「何事もなく帝都に着くことができた」とか「まるで嵐の前の静けさだ」とか「ここまでありがとう」とか、ちょっとフラグ立てすぎじゃないか?

 い、いやいや、流石に大丈夫か。心配しすぎだ。帝都はもう目と鼻の先。ここから急に異常事態が発生するなんてことはあり得ない。そう、あり得ないんだ。


 なんてったって、すでに周りには同じく帝都を目指す多くの行商人がいるし、帝都の警備隊だと思われる騎士たちが見回りもしている。もうここは安全地帯、もはや帝都の一部と考えていいだろう。

 俺が必死に自分に言い聞かせていると、イカれた女騎士カンナが近づいてきた。


「ルノアちゃ~ん、はやく正直になりましょうよ~」

「カンナ……お前まだルノアを疑ってんのか?ただの猫だろ?」


 カンナは俺のことをじっと見ながらジャックの意見に反論する。


「いやぁ~まだまだ甘いですねぇ~、ジャックは。そんなんじゃ、名探偵カンナの助手は務まりませんよ」

「いやいつ誰がお前の助手になった」

「ルノアちゃんは少なくともただの猫ではないですよ。明らかに知能が高いし、何より生殖器が存在していない。絶対にただの猫じゃないです」

「なに?生殖器がないだと?」


 ま、まずい。うまく誤魔化せていたと思ったのに、どんどん確信に近づいてきてる。このままじゃジャックも俺のことを不審に思うかもしれない。どうにか誤魔化さないと。だが、俺は人間の言葉を喋ることができない。【久遠の証】の皆!!頼む!上手い具合に誤魔化してくれっ!!


「ななな、なにを言ってるのかしら。ルノアはただの猫よ。ただの猫」

「ミ、ミリーの言う通り。ルノアはただの猫。いや、ただのぬこ」


 だめだこいつらっ!!嘘をつくのが下手すぎるっ!!ミリー、ルディア!!ごめん、頼むからもう黙って!!っていうか「ただのぬこ」ってなに!?


「まっ、いいでしょう。私はすべての猫の味方。ルノアちゃんが言いたくないのなら、これ以上追及はしません。ではでは~」

「あっおい。……ったく、じゃあ俺も定位置に戻るとするよ」


 そうして、嵐のようにカンナとジャックは【久遠の証】のもとを去っていった。


「……危なかったね。ルノアが大精霊ってバレるんじゃないかって僕、ひやひやしたよ」


 そう言いながらエマは俺を抱えて、頭をなでなでしてくる。彼女は俺のモフモフをかなり気に入ったようで、事あるごとに俺の頭を撫ででくるようになった。


「にゃあ」


 エマはもう立派なテクニシャンだ。俺の気持ちいいところを的確に撫でてくる。思わず恥ずかしい声を出してしまうほどにな。


「んふふ~、ルノアはかわいいな~」


 いやいや、あなたには負けますよ。


「エ、エマの言う通り、大精霊様だってバレなくてよかったです」

「確かにひやひやしたけど、私達の完璧な演技に騙されていたわね」

「演者顔負けの演技だった。帝都の劇団にスカウトされそうで怖い。自身の才能が恐ろしい」


 ミリーとルディアのその自信はどこから出てくるんだよ。お前ら目が泳ぎまくってたぞ。


「ふ、ふたりのその自信。見習わなきゃ」


 クロエちゃん、この二人の自信は見習わなくていいからね。というか絶対見習わないでね。


「ふぅ、もう帝都も目と鼻の先ね。本当によかったわ、何事もなくて」

「そ、そうですね。こんな安全な旅、久しぶりです」


 待て待て待て!!ただでさえ多かったフラグを流れるように追加するな!!何か起きるかもしれないだろ!!


「ジャックも言ってたけど、もしかして嵐の前の静けさだったり?」

「さすがにそれはないでしょ。もう帝都に着くもの。どうやって嵐が来るのよ」


 そ、そうだ。ミリーの言うとおりだ。これほど帝都に近づけばフラグを回収する手段なんてないだろう。流石にもう大丈夫―――。


―――ドガァンッ!!!!!


 へ?


『グルゥオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』

「きゃー!!!急に地面から巨大化したガーゴイルが出てきたわ!!!!」

「みんな逃げるんだー!!!!騎士を呼べー!!!!」


 ……フラグ回収の仕方雑すぎるだろぉおおおおおお!!!!!!!!!!!!

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