第9話 猫好きのカンナ

 A級冒険者パーティ【久遠の証】。俺はそのメンバーと共に帝都へ向かうことになった。

 しかし、まだ帝都へ出発するまで時間があるらしく、今は城門前で四人の美少女と共ににゃんにゃん雑談をしているところだ。そのまま美少女たちとの雑談という至高の時間を過ごしていると、剣を携え鎧を着た騎士らしき男が挨拶をしてきた。何者じゃ、お主。


「お前ら、久しぶりだな」

「あら、ジャックじゃない」


 ジャックと呼ばれた男は短めの黒髪に黒目と、元日本人の俺にとって馴染み深い容姿をしていた。また、背丈は高く、鎧の上からでも体が鍛えられているような印象を受ける。……くそ、まぁまぁイケメンじゃないか。だが、もしミリー達に手を出すようなら俺が大精霊として神罰を与えるからな。


「今日からよろしく頼む。騎士団は先日のドラゴンの死体から収集された素材を帝都まで運ぶことが仕事だ。ドラゴンの素材は高値で取引されるため、可能性は低いが何者かの襲撃も考えられるだろう。だから冒険者の手も借りたかったんだが、まさか【久遠の証】が同行してくれるとはな。助かったよ」

「いいのよ、ちょうど私達も帝都に向かう予定があったから」


 そのドラゴンって俺が倒したやつだよな。高値で取引されるって?もちろん俺にも分け前くれるよな、騎士団さんよぉ。

 それから【久遠の証】とジャックが談笑していると、こちらに向かって何者かが途轍もない速度で近づいてきた。


 あれは……女騎士か?


「うぉおおおおお!!!!」


 その女騎士は叫びながら俺達の下へ突撃してきた。


「カンナ……何やってんだ」


 カンナと呼ばれた女騎士は燃えるような赤髪に赤い瞳をしており、ミリー達に負けず劣らずの美少女だった。あれ、この世界の顔面偏差値が高すぎる。


「見たことのない猫ちゃんがいる!!」

「にゃ?」

「猫ちゃん猫ちゃん猫ちゃん猫ちゃん猫ちゃんっ!!」


 カンナはこれでもかと自身の顔を俺の顔に寄せ、俺の瞳をじっと凝視してきた。俺の視界にはカンナの赤い瞳が大きく映っていて……あれ、視線が目に吸い寄せられる……あっ……なんだか、意識が……ってあぶねぇ!!なんだ今のは!?だんだんカンナの瞳の奥にある深淵に吸い寄せられていたぞ!!こわっ!!純粋にこっわ!!なんだこのカンナって女は!?


「肉球見させてもらってもいい?いいよね!!」


 呆然としている【久遠の証】を尻目に、カンナは俺の足を手に持ち肉球を触ったり見たり嗅いだりし始めた。誰かこいつを止めてくれ!


「……やっぱり!!この子、ドラゴンが死んだ現場にいた猫ですよ!!足の形が一致してます!!」

「にゃ!?」


 な、なんでそんなことが分かるんだ!?もしかして、俺がドラゴンを倒したことがバレる?……いや、落ち着け。俺が現場にいたからと言ってドラゴンを倒した証拠にはならないはずだ。


「な、な、な、何言ってるのよ。ル、ルノアがそんなところにいるわけがないじゃない」

「同感同感同感。ルノアはそんなとこにいない。そんなとこにいない。いるはずがない」


 おいぃいいい!!!誤魔化し方下手くそかっ!!ミリーとルディア嘘下手すぎだろ!!!!明らかに動揺してるじゃねぇか!!!!体がくがく震えてるぞ!!


「カンナだっけ?なんでルノアが現場にいたなんて分かるの?」


 動揺しまくっているミリーとルディアに代わり、エマがカンナに質問する。ナイスフォローだ!!


「ふふん!!私はこの付近に生息するすべての猫を記憶しています!!見た目から匂い、肉球の形まで!!そして一致したんです!!ドラゴンの現場に残っていた足跡と、ルノアちゃん?の足の形が!!一致したのです!!」


 こいつ……変態だ。見た目から匂い、肉球の形まで覚えているなんて、完全な変態だ!!セクハラで訴えますよ!!!


「す、すごいです。そんなことができるなんて」


 クロエちゃん、感心してる場合じゃないよ?このままじゃ俺が大精霊ってバレるかもしれないからね?


「私は世界一の猫好き!!!猫を見分けるなんてものは朝飯前!!そう!!人呼んで……猫好きのカンナよ!!」


 そのままじゃねぇか!!!人呼んでって言葉を使うレベルに至ってねぇぞ!!!


「この子の名前、ルノアちゃんでしたっけ?ドラゴンが死んだ日に突如現れた猫、その猫の足跡がドラゴンが死んだ現場に……怪しいですねぇ」

「あ、あ、怪しいってなにが?ままま、まさかルノアがドラゴンを倒したとでも?」

「非現実的、非現実的、非現実的」


 ミリーさん、ルディアさん。とりあえず黙っといてください。話せば話すほど墓穴を掘っています。掘りすぎて温泉が湧きそうです。


「んん~、本当ですかねぇ」

「おいこら」


 我慢の限界が来たのか、ジャックがカンナの頭に拳骨を落とした。


「痛っ!?」

「カンナ、お前何やってんだ。失礼だろ。そもそも猫がドラゴンを倒せるわけねぇんだから、変な疑いかけてんじゃねぇ」

「暴力反対、ジャックは粗暴な男だと言いふらしてやる」

「はいはい、もう出発だ。お前はこっちに来い」

「は~い」


 カンナは不満そうにしているも、ジャックと共に去っていった。……ふぅ、ひとまず助かったみたいだ。危うく俺がドラゴンを倒したことがバレるところだった。だが、相当俺のことを怪しんでいるみたいだったし、警戒は必要だな。

 ……しかし、これから帝都に着くまで彼女と共に行動しなければならないのか。なかなか大変な旅になりそうだな。


 俺は不安を抱きながら、帝都に向けて出発した。




「ふぅ、うまく誤魔化せたわね」

「完璧な演技」


 ミリーとルディアにはこれからできるだけ黙ってもらおう。

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