第8話 久遠の証

 ミリーとルディアが所属する冒険者パーティと共に帝都へ向かうことになった俺。どうやらこの国はダルメシア帝国という国であるらしく、帝都とはダルメシア帝国の中心に位置する皇帝が住まう都市であるようだ。

 明日の早朝からその帝都へ向けて出発するため、俺はミリーの家で一夜を過ごすことになった。そして訪れる朝。なんと―――。


 俺の隣にミリーが寝ています。


「んにゅう……」


 おぉっ!可愛い寝言も漏れておりますよ!あぁ、なんと素晴らしい光景か。俺の隣でエルフの美人お姉さんが無防備な姿で寝ております!!うわっ、肌綺麗。まつ毛ながっ。顔整いすぎ。髪さらさら。これがエルフ。参りました。


 それにしても本当に凄まじい破壊力だ。……なぁみんな、ミリーの胸に俺の顔を埋めてもいいかな?いいよね。猫だから許されるよね。そうだよね。


『それはだめじゃ、ルノアよ』


 えっ!?こ、この声は!?


『寝ている女子の胸に顔を埋める。そんなことはしてはいけない。倫理観的に絶対にだめじゃ。昭和のテレビ番組ならまだしも、令和にそれはいかん』


 もしかして俺の心の中の天使!?でもなんで老人なんだ!?


『おいおい。お堅い爺さんだぜ。ルノア、みすみすチャンスを見逃すのか?目の前に美人の胸があるんだぜ?お前は今猫なんだから、胸に顔を埋めるぐらい許されるだろ。動物愛護団体だってそれぐらい許すぜ?』


 おぉ!次は心の中の悪魔が出てきた!!悪そうな声をしている!!イメージ通りだ!!


『だから、そのようなことはしてはいかん!!』

『あぁ?枯れた爺は黙ってろ。ルノア、やるんだ!!』


 うぉおおお!心の中の天使と悪魔が戦ってる!!俺はどっちの言うことを聞けばいいんだ!!


『胸に顔を埋めるなどやってはいかん!!太ももに顔を埋めるんじゃ!!』


 ……はい?


『ショートパンツゆえに大胆に露出された傷一つない足や太もも!!最高じゃ!!胸になんか構っている暇はない!!』

『んだと爺?薄着に隠されたエルフの大きすぎず小さすぎない美乳!!こっちの方がいいだろ!!太ももに顔を埋めてる場合じゃないだろ!?』


 違った!!心の中の天使と悪魔が戦ってるんじゃない!!俺の心の中の太ももフェチとおっぱい星人が戦っているんだ!!なんと馬鹿な争い!だが、それでいいっ!!

 だが、どうすればいい!!どっちの言うことを聞けばいいんだ!?どっちも俺の本心だぞ!?


『太ももじゃ!!』

『美乳だ!!』


 どっちにすれば。


『太ももじゃ!!』

『美乳だ!!』


 どっちに。


『太ももじゃ!!』

『美乳だ!!』


 うわあああああ!!!もういやああああああ!!!!





―――ノア。――て。


 ……うん?


―――ルノア。―きて。


 声が聞こえる。この声は……ミリー?


―――ルノア。起きて。


「にゃあ……」


 俺の顔をミリーが覗き込んでいた。どうやら俺はいつの間にか寝ていたらしい。あぁ……なんと目覚めの悪い事か。覚えてないけど、悪夢でも見たのかな?


「ささっと準備して早めに家を出るわよ。騎士団と待ち合わせてるから」

「にゃ?」


 騎士団?もしかして騎士団とやらと一緒に帝都を目指すのだろうか。よし、ミリーとルディアに色目を使う騎士がいたら吹き飛ばすことにしよう。

 準備をしたらすぐに家を出るとのことだが、俺は特に準備をする必要がない。精霊だから腹も減らないし、汚れとかも付かないからシャワーを浴びる必要も顔を洗う必要もない。ゆえに、ミリーの準備が整うまで俺はだらだらと寝転がりながら待っていた。


「準備ができたわ。ルノア、行きましょう」


 ミリーはまさに冒険者といった装いをしていた。露出の少ない旅装束に身を包み、小さめのバッグを腰につけ、背中には弓を背負っている。うむ、魅力的かつクールな素晴らしい格好だ。

 そして、俺はミリーに抱っこされながら家を出た。




 家を出てからしばらく歩くとミリーが足を止めた。おそらく騎士団との待ち合わせ場所に到着したのだろう。辺りを見渡すと、前方には左右に伸びる石壁があり、その石壁には大きな門が設置されていた。これはおそらく城門であり、都市の出入りに使われるものだろう。

 門から少し離れたところには大きな荷台を囲むように数十人もの騎士が集まっていた。ミリーが言っていた騎士団とはあの人達のことだろうか。


 さて、この城門付近にはミリーが所属する冒険者パーティのメンバーが集まっているはずだ。一体ミリーの仲間はどんな人間なのか、俺が見定めてやらないとな。もちろん、男なら容赦はしないが。

 そんなことを考えている間に、冒険者らしき者が数人集まっているところにミリーは足を運んでいた。


「みんな、おはよう」

「おはよ」

「お、おはようございます」

「ミリー、おはよう!」


 ミリーとルディア、そして見たことのない二人の女の子が挨拶を交わしている。も、もしかして、ミリーの冒険者パーティは全員女の子なのか!?な、なんたる幸運!神よ!感謝します!


「ルノア、紹介するわね。まずこの子がエマ。彼女は人間ヒューマンの剣士でこのパーティでは前衛を担当しているわ」

「僕はエマ、超一流の剣士さ。実はルノアが大精霊であることは知ってるんだ。ルディアから聞いたからね。これからよろしくっ!!」

「にゃ」


 まさかのぼくっ娘きたぁ!!小さめの背丈に反した魅惑的な体つき、首元辺りまで伸びる銀髪に青い瞳、魅力的な笑顔、そして一人称は僕!!完璧です!!完璧でございます!!背丈より大きな大剣を背負ってるけど、そんなこと気にしない気にしない!


「次はクロエよ。獣人ビーストの格闘家で、エマと同じく前衛を務めているわ」

「ク、クロエです。よ、よろしくおねがいします。大精霊様」

「にゃあ」


 つ、次は守ってあげたくなる系女子きたぁ!!頭にはケモ耳がついていて、常にピクピク動いているぞっ!明るい茶髪に茶色い瞳、エマと同程度の小さめの背丈から発生する上目遣い!そして気の弱そうな態度!守ってあげたい!!守ってあげたい!!もう一度言う、守ってあげたい!!


「あと、昨日話しただろうけど、この子がルディア。後衛を務める人間ヒューマンの魔法使いよ」

「よろ」

「にゃ」


 そして無口な美少女ルディア。水色の長髪に、眠たげで無表情な顔。何の感情も映さない灰色の瞳。確か魔力や魔素を可視化する魔眼を持っているとか。三角帽子にローブを着て大きな杖を持っており、まさに魔法使いといった格好をしている。昨日も見たけど、相変わらず可愛いんじゃ!!俺にだけ笑顔を見せてくれ!!


「最後に私!!改めて、ミリーよ!ミリー・トワイライト!斥候をしたり、魔法を使ったり、魔法の矢を撃ったり、バランサー的な役割を担っている森人エルフよ。よろしく、ルノア!」

「にゃ」


 最後にエルフの美人お姉さん、ミリー。艶やかな緑色の長髪に同じ緑色の瞳。モデルのようなスレンダーな体。エルフ特有の整った美人顔。みんな紹介しよう。俺のママだ。俺はこの異世界でしばらくはミリーの下で生活しようと考えている。それほどまでにミリーに愛着が湧いてしまっているらしい。


「この四人で構成されたA級冒険者パーティ。それが私達、【久遠くおんの証】!!遠い未来まで語り継がれるような伝説を残すパーティよ!!!」


 か、かっけぇ……。


 ミリーの顔は自信と希望に溢れていて、誰もが惹かれてしまうような溌剌とした笑顔をしていた。このときの笑顔を俺が忘れることは、きっとないだろう。そう思わされるほどの輝きが、まるで太陽のような輝きが、そこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る