第6話 一発逆転する猫

 前回までのあらすじぃぃぃぃぃぃ!!!


 何故か猫の姿で異世界転生をした俺は、なんとその勢いのままドラゴンを一撃で倒しちまったんだ。しかし、ドラゴンを倒したことが周囲に知れると危険生物と判断され討伐される可能性がある。ゆえにドラゴンを倒したことについては隠しておくことにしたんだ。そう決めたんだが―――。


 今現在、エルフの冒険者ミリーと冒険者ギルドの受付メアリーに疑いの目を向けられています!!このままじゃ討伐されるかも(笑)。誰か助けて。




 私の名前はミリー・トワイライト。冒険者ギルド、レパートエアロ支部に所属する冒険者よ。ギルドに所属してから五年、今年で十八歳になる新米魔法使いだけど、色々な縁と運に恵まれた結果、大切な仲間達とともに最高ランクの一個下、一流と見なされるA級冒険者にまで上り詰めることができたわ。

 今日は休息日だったからぶらぶらと都市を散策していたのだけど、突然今まで感じたこともないような大きな気配が現れたの。しかも、その気配はレパートエアロにだんだんと近づいてくるじゃない。


 力強く自信に溢れる、強者しか持つことができないであろう強大な気配。私は戦慄とした。あんな気配を放つ者がこの都市に牙をむいてきたらどうなるか。そう考えたら冷や汗が止まらなかった。

 騎士団も気が付いたようですぐに厳戒態勢が引かれたわ。騎士団が言うにはドラゴンがこの都市に向かって飛んできているみたい。


 ドラゴン。それはこの世界に存在するモンスターの中でも最上位に位置する空の王者。ドラゴンにも色んな種類がいるけど、共通していることはただ強いということ。あの強大な気配。ドラゴンが放つ気配ということなら納得ができる。私は最悪の事態も想定し、戦う準備をしながら感覚を研ぎ澄ました。




 結果としてドラゴンがこの都市を攻撃することはなかった。何事もなく都市上空を通り過ぎていった。もしかしたら圧倒的強者であるドラゴンにとって、ただの一都市など興味すら持てないのかもしれない。そんなことを考えるまで、私はドラゴンとの実力差を気配から悟っていた。


 私達が幸せに暮らせているのは、圧倒的強者が私達のことを見逃しているだけ。ドラゴンはそのどうしようもない事実を私に思い出させてくれた。A級冒険者で満足なんてしないで、これからも努力を続け、守りたいものをすべて守れるほど強くなろう。


 改めてそう決意した私は目標を見据えるように、上空を通り過ぎ去っていったドラゴンの気配を目に捉える。すると、あろうことかドラゴンの気配は北の草原へと降りて行ったのだ。

 ドラゴンが都市近くの草原に降り立ったことに私は恐怖を覚えた。想定した最悪の事態が現実となるかもしれないのだから。


 でも、その想定が現実となることはなかった。何故かドラゴンの気配が急に消失したから。それから少しして都市に引かれていた厳戒態勢も解かれた。

 どうやら一件落着したようだから都市の散策を再開した私はその途中、冒険者ギルドでドラゴンの件の詳細を聞こうと思いついた。家に帰るついでに冒険者ギルドへ寄ることにしたの。

 そして都市の中心部の噴水広場を通りかかると、なにやら何人もの女性が一か所に集まって騒いでいた。一体何事だと騒ぎの中心を覗いてみると……。


 そこには一匹の黒猫がいたのよっ!!


 その黒猫はとっても可愛らしかったわ。もふもふな黒い毛、しなやかな体、ちょっと目つきの悪い黄色い目。野良猫なのにすごく人に懐っこくて、撫でさせてくれるし、私の足にすりすりと体を擦り付けてくることもあったわ。


 私を含めたその場にいた女性は皆その黒猫にメロメロだった。


 恥ずかしながらその中でも私が頭一つ抜けて夢中になってしまって、ルノアという名前まで付けた挙句、お持ち帰りしてしまったの。だってしょうがないじゃない。可愛かったんだもの。

 ルノアを抱っこしながら冒険者ギルドへ向けて歩き始めると、ルノアは抱っこされながら私の体にすりすりと頭を擦り付けてきたわ。とくに胸辺りに。私に対して母性を感じているのかしら。


 それから冒険者ギルドを訪れドラゴンの件の詳細を聞いた私は驚愕することになった。なんでもドラゴンは何者かに一撃で殺害されたらしい。あの強大な気配を放つドラゴンを一撃で……。いったいどんな化け物がそれを成したのか、本当に恐ろしい話。


 受付のメアリーと一緒にルノアのモフモフを堪能して恐怖を紛らわせよう。そう考えながらメアリーと話していると、話は思いもよらぬ方向へ。

 ルノアは雄なのか、雌なのか。たしかに性別を確認するのを忘れていたわ。そのことに気が付いた私はルノアの体を見たの。そしたら―――。





「……その子、いったい何者ですか?明らかにおかしいですよね」

「……確かにそうね。調べてみる必要があるかも」

「にゃあ……」


 まずいまずいまずい。俺が普通の猫じゃないってバレる。というかもうバレてる。くそ、どうする?どうすればいいんだ!?


 ……あぁ、ミリーとメアリーが俺を疑っている。完全に怪しい奴を見るような目をしている。……その目、なんか逆に興奮するかも、とか冗談を言っている場合じゃない。煩悩に支配されている場合じゃない。世界の真実に最も近づいたとされる俺の究極頭脳で冷静に今の状況を乗り越える方法を考えるんだ。


 まず状況を整理しよう。俺はどうやら見た目からして普通の猫ではないらしい。ここまではいいんだ。普通じゃないことは素晴らしい個性だからな。

 だが、問題は俺がモンスターの一種だった場合だ。その場合、俺は殺されてしまうだろう。また、例えこの場から逃げ切れたとしても、危険生物として指名手配される可能性が高い。それだけは避けなくてはならない。

 そう、俺は猫らしき可愛い生物。その設定でいこう。猫であって猫でない。言わば、ぬこってところか。俺はぬこだ。ぬこ。……何言ってんだ俺。


「明らかに生殖器がありませんね。つまり、ルノアちゃんはただの猫、いや、ただの生き物ではないということです」

「モンスターの一種か、それに準じた何かか……ってわけね」

「判断がつきませんね。人間には友好的なようですし。ルディアさんがいれば色々分かると思うんですけど」


 ……お?なんとかなりそうだぞ?どうやらこの二人では判断がつかないらしい。『ルディアさんがいれば色々と分かる』ということは、裏を返せばそいつがいなければ何も分からないということだ。いいぞ!このままそれとなくフェードアウトしていけば―――。


「私のこと、呼んだ?」

「あっ、ルディアさん!!」


 ―――はいぃい?


 ミリーの後ろにはルディアと呼ばれる女の子が立っていた。水色の長髪に、眠たげで無表情な顔。何の感情も映さない灰色の瞳。三角帽子にローブとまさに魔法使いといった格好をしている。普段の俺ならば喜んですりすりする相手なのだが―――。


 なんでやねん!え、なんで今来るの?なんでちょうどいいタイミングで現れるの?なんでそんなことするの?思わず関西弁出てたよ俺?アンチなの?俺のアンチなの!?


「ルディア、実はこの子のことを調べてほしいのよ。ただの生き物ではないと思うんだけど」


 ルディアちゃん?断っていいからね?ただで仕事を受けるほど頭の悪いことはないからね?わかったかい?


「わかった」


 よし、わかってくれたか。……なわけねぇだろ!!あ~あ、終わったわこれ。もう無理や。諦めましょう。これは人類敵対ルート入って、『裏切られたルノア、今更猫なんて言ってももう遅いにゃ』やりますわ。やってやりますわ。


「にゃあ……」


 思わず鳴いた俺の脇を抱えるようにミリーは腕を回し、俺のことをルディアへと見せた。ルディアはただただじっと凝視してくる。

 いつの間にかルディアの灰色の瞳は金色に光っていた。……これ、異世界定番の魔眼ってやつじゃない?もしかして俺のすべてを見透かされてない?


「すごい」


 ルディアちゃん、いったい何がすごいのかな。人の、いや猫のプライバシーに頭を突っ込むことは確かにすごくおかしなことだね。そのことを言ってるのかな。というかルディアちゃん、俺と名前似てるね。うれしいな。


「ルディアさん、なにか分かったんですか?」

「この猫、ただの猫じゃない。とんでもない魔力を秘めてる」

「……ってことは、ルノアはやっぱりモンスターなのかしら」


 え~、皆さん。完全終了のお知らせです。モンスターらしいです。そっか、俺モンスターなのか。はいはい、だったら性欲モンスターになっても文句ないですよね。あんなことやこんなことしても文句ないですよね。どうせモンスターですもんね。


「いや、モンスターじゃない。この子は精霊の一種。そもそも体が魔力で構成されている」

「精霊ですか!?」

「精霊!?」

「にゃにゃにゃ!?」


 精霊!?おれ、精霊!?うぉおおお!!!まさかの一発逆転きたぁ!!!!!これはモテる!!精霊は流石にモテる!!強くて可愛い猫の精霊は流石に設定盛りすぎでしょ!!これはモテるぞぉ!!!

 いやぁ~、ルディアちゃんだっけ?きみ、いい子だね~。あとですりすりしてあげるからね~、モフモフもしていいよ~。


「まさかルノアが精霊だとは……一ミリも予想できなかったわ」

「私もですよ。でもルディアさんが言うなら間違いないですね」

「その通り。私の魔眼は魔力や魔素を可視化する。間違えることはない。この子の体が魔力で構成されていることは確実。それにこれほどの魔力……大精霊級、もしくはそれ以上かも」

「えぇ!?大精霊!?」

「本当なの?それが事実だったら今からレパートエアロはエルフの聖地になるわよ」

「本当。こんなの奇跡。大精霊級の精霊がこんな人の多い都市に居て、それも友好的だなんて」


 どうも、奇跡の存在、大精霊級の男、ルノアです。いや~、人という生物は実に愚かであり、私が大精霊として正してあげなくてはいけないと思いまして。手始めに俺におやつを献上し、喉辺りをなでなでしなさい。さすれば、あなたたちは救われるでしょう。名付けて、猫救済法です。猫教です。


「にゃにゃ」

「なんか……大精霊にしては、ルノアって普通過ぎないかしら。こうなんというか……」

「貫禄がないですね。何故か大精霊とは思えないです」

「同感。大物特有のオーラがない」


 あれ、モテモテになるはずじゃないの?

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