第5話 モンスターはまずいかも
スキンヘッドを追い払った俺はまたもやミリーに抱っこされ、共にギルドの受付を訪れた。
「こんにちは、メアリー」
「ミリーさんじゃないですか、こんにちは」
受付にはこれまた可愛らしい女の子が座っていた。首元辺りまで伸びる桃色の長髪に、誰もが見惚れるであろう優しい笑顔、守ってあげたくなるような華奢な体。おめでとう、メアリー。あなたには俺の世話をする権利があります。ん?お前はいったい何様だって?猫様だよ!!
「やっぱりドラゴンの件ですか?」
「えぇ、そうよ。ギルドマスターから話はある程度聞いたんだけどね」
「そうでしたか。では、一応一連の流れについて全て説明しますね。まず、今から約一時間半前にドラゴンがこの都市に向かって飛んで来ていることが判明し、騎士団が主体となって都市全域に厳戒態勢が引かれました。その後ドラゴンはこの都市上空を通り過ぎていったため、約一時間前に厳戒態勢は解かれました。これが一般市民に明かされている情報です」
「そこまでは知っているわ。問題はここからよね」
「はい、そうなんです。騎士団員の一人が北の草原に降り立ったドラゴンの姿を目撃。念のため騎士団長を含めた騎士数名が北の草原に向かったところ、その場にはドラゴンの死体が転がっていたらしく、その死体の特徴として頭が消し飛ばされていたようです。体の損傷の少なさから、ドラゴンは頭を消し飛ばされるほどの強大な一撃により絶命したと判断されました」
「まったく、本当に馬鹿げた話ね。つまり、その話が本当ならドラゴンを瞬殺できる何かがこの辺にいるってことでしょ?」
「そういうことですね。パニックを避けるためこの情報を統制し、騎士団と冒険者ギルドのみで共有することになりました。現在、多くの冒険者が秘密裏にこの都市の防衛にまわっています。おそらく後三日はこの状態が続くでしょう」
うわぁ~、ものすごい大事になってるじゃん。……てか、もしドラゴンを倒したことがバレたら、全戦力をかけて俺を討伐しようとしてくるんじゃないか?だって普通に怖いよな。ドラゴンを一撃で殺せる奴なんてよ。「かっこいい!」ってなる前に「怖い!」って感情が先に来るよな。はぁ、これが大きな力を持つゆえの苦悩ってやつなのか。
よし。ミリーとメアリーのヒモになるためにも、一旦ドラゴンを倒したことは隠すことにしよう。まぁ、誰も猫がドラゴンを倒しただなんて思わないだろうけどな。
「……そういえば、ドラゴンが絶命した現場では猫の足跡があったとの報告もありましたね」
……え?
ミリーとメアリーの視線が俺に向けられる。……いや、大丈夫だ。バレるはずがない。猫なんていくらでもいる。俺がドラゴンを倒したなんて特定は不可能。もう一度言う、不可能だ。
「なんでも猫好きで有名なカンナさんが言うには、足跡の形はここら一帯に生息している猫の肉球の形ではなかったようですよ。新しく来た猫さんの足跡らしいです」
「あら、それは偶然ね。この子は今日初めて見た子よ。今までこの都市で見かけたことはなかったわね」
ギクッ!!ギクギクッ!!
あれ?もしかしてバレてる?俺が犯人って気付かれてる?……というか、猫の肉球の形ってなんだよ。なんで猫の肉球の形を判別できるんだよ。絶対おかしいだろ。誰だよソイツ。
「その子は今日初めて見た子で……現場に合った足跡も初めて見た足跡だったと」
ギクギクギクゥ
これバレてるわ。絶対バレてるわ。実は最初から俺が犯人だって分かってて、俺を可愛がるふりして冒険者ギルドまで連行してますわこれ。あとでギルドマスターのぶっとい腕に握り潰されますわ。
「もしかしてこの子がドラゴンを殺したのかも?……なんてね」
「あはは、そんなわけないですよねぇ」
「にゃにゃにゃ」
あはははは、そんなわけないですよ。ちょっと旦那ぁ、いや、姐さん、勘弁してくださいよぉ。僕がドラゴンなんて倒せるわけないじゃないですかぁ、まったくもう。
「その子の名前、なんて言うんですか?」
メアリーが俺の名前を聞いてきた。おいおい、これってもしかして事情聴取ってやつか?……ヤバい、そうとしか思えなくなってきた。メアリーが怖くて仕方ない。
「ルノアっていう名前よ。今日私がつけたんだけどね。黒猫だから漆黒の英雄に因んで」
「あ~、なるほど。漆黒の英雄ルノアですか。……ってことは、ルノアちゃんは女の子ですか?」
「あ、そういえば確認してなかったわ。この子、女の子なのかしら」
ミリーが俺の体を持ち上げ、俺の大事なところを見てくる。あぁ、だめよ。そんなとこ見ないで。恥ずかしい……。もうお嫁にいけない……。
「あれ、なにもないわ」
「え?どういうことですか?」
え?何もないって?どういうこと?
「だから無いのよ。この子、生殖器とかそういうものが何一つないわ」
「え!?」
「にゃ!?」
無い!?なにも無い!?それってそもそも性別がないってことか!?……そういえば、この世界に来てから尿意というものを一切感じたことがない。空腹も疲れも感じない。あれ……もしかして俺、普通の猫じゃないのか……?うん、よくよく考えてみれば普通の猫がドラゴン殺せるわけないもんな。普通の猫な訳ないわ。
ヤバい。かなりヤバい。このままじゃ俺が普通の猫じゃないってことがバレる。もしそうなったら、ヒモになるどころか殺されるかもしれない……。なんとかして誤魔化さなければいけないけど―――。
「……その子、いったい何者ですか?明らかにおかしいですよね」
「……確かにそうね。調べてみる必要があるかも」
「にゃあ……」
二人の訝しむような視線が降り注がれる。……あぁ、うん、終わったかも。
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