第4話 猫、初めての冒険者ギルド

 俺はエルフのお姉さんと冒険者ギルドへやってきた。街中を歩いているときに判明したのだが、このエルフのお姉さんはミリーという名前らしい。

 どうやら彼女の仕事は冒険者であるらしく、仕事関連で冒険者ギルドに用があるようだ。親愛を込めてミリーと呼ぶことにしよう。


 エルフだからか、ミリーは非常に美しい。腰辺りまで伸びる艶やかな緑色の長髪はすごくいい匂いがするし、モデルのようなスレンダーな体からはいい匂いがする。すなわちいい匂いがするというわけだ。いい匂い過ぎて俺までいい匂いになったと錯覚しかけた。また、俺を見つめてくる緑色の瞳は宝石のように綺麗だ。これが異世界クオリティっ!


 まぁそんなわけでいい匂いに包まれながら冒険者ギルドに到着したってわけだが……冒険者ギルドの外観はとても分かりやすいものだった。両開きになっている大きな扉の上に剣や盾、杖などの武器を模した大きなエンブレムが掲げられており、明らかに一般人ではない武装をした人間やエルフ、獣人にドワーフなどが出入りしていたからだ。


 ミリーはその扉を開けギルドの中へと入る。当然ミリーに抱っこされている俺もギルドの中へと入ることになった。

 ギルドに入ると右側に受付のような空間があり、多くの冒険者が列となって並んでいる。また、左側には食堂のような食事ができる空間があり、酒に酔った冒険者が騒いだりしていた。これが冒険者ギルドか。テーマパークに来たみたいだぜ、テンションあがるなぁ~。


「ミリーか。よく来たな」

「久しぶり、ギルドマスター」


 俺がギルド内を観察していると、筋骨隆々のスキンヘッドの男が俺のミリーに気安く話しかけてきた。ミリーがこの男をギルドマスターと呼んでいたことから、きっとこの大男は冒険者ギルドでも高い地位にいる人間なのだろう。……だが、俺は権力には屈しない。なぜなら俺は、人間ではなく猫だから。にゃあ。


「お前が一人でギルドに来たってことは、ドラゴンの件でいいな?」


 ……んん?え?なになに、ドラゴンの件だって?なにそれ。なんだかルノア、嫌な予感がしてきたよ?


「そうよ。無事に都市を通り過ぎていったと思ったら、ドラゴンの気配が北の草原に降り立って、しかも急に消失したのよ。ギルドマスターなら何か情報が入ってきてるんじゃない?」


 ……あらぁ、それ俺ですね。もしかしなくてもそれ俺ですね。この感じ、大事になってますかね。もしそうだったら流石の俺も素直に謝りますよ。猫語でよかったらですけど。


「あぁ。そのことについてなんだが、騎士団から情報がまわってきた。なんでも北の草原でドラゴンは死んでいたようだ。それも一撃で頭を吹き飛ばされたことが死因らしい」

「え!?噓でしょ!?ドラゴンが死んでるって、しかも一撃で頭を!?……流石に冗談じゃないわよね?」

「騎士団がわざわざ冗談を言うわけがないだろう。おそらく事実だ。そしてこの情報が事実だとすると、ドラゴンを一撃で殺せる化け物がこの都市の近くをうろついている可能性があるということだ」


 お、俺が化け物だと?こんなプリティでビューティな見た目をしているのに?……あぁ、そうか。嫉妬か。俺がこんなに麗しい見た目をしていることをこのスキンヘッドは妬んでいるんだな。だから俺を化け物だなんて……まったくしょうがない奴だ。


「……じゃあなんで都市全域に出ていた厳戒態勢を解いたの?もうたくさんの市民が元気に外を歩いているけど」

「馬鹿言え。ドラゴンを一撃で殺せる化け物が近くにいるなんて言って厳戒態勢を引いたらパニックが起きるだろう。それを隠して厳戒態勢を引き続けたとしても、ドラゴンが消えたのになぜ厳戒態勢を続けるのかと要らぬ憶測を生むことになる」

「……まぁそれもそうね」


 ミリーは厳戒態勢を解いた理由について納得したようだ。話が一段落着いたと考えたのか、スキンヘッドの男は話題を変える。


「ところでミリー、お前……猫を飼っていたのか?」


 スキンヘッドは俺のことを指さしてそう問いかけた。この男は人に指をさすなと教わらなかったのだろうか。無礼な男だ。でも俺はどんな相手にもしっかり挨拶をする男ルノア。ルノア……改めていい名前じゃないか。


「にゃあ」

「この子はさっき拾った野良猫よ。ルノアっていうの。ほら、すごく人懐っこいのよ。かわいいでしょう?」


 そう言いながらミリーは抱っこしている俺の喉辺りを撫でてくる。やばい、気持ちよすぎるなでなでによって思考が鈍る。ミリー、恐ろしい子。この短時間で撫で方が上達しているわ。


「……俺も撫でていいか?」


 は?


 スキンヘッドは俺を撫でようと手を伸ばしてくる。しかし、その魔の手から逃れるために俺は一瞬だけ顔を凄ませた。もちろん、ミリーに気が付かれないようにだ。


「え、こわっ」


 悪魔のような俺の顔を見たスキンヘッドは思わず動きを止めた。


「……?どうしたの?ギルドマスター」

「い、いや、今ルノアが一瞬凄い怖い顔をしていたんだが。昔戦った【死王アンデットキング】くらい怖かったんだが」

「なに言ってるのよ。こんな撫でられて気持ちよさそうな顔してるのに。気のせいじゃない?」

「そ、それもそうだな。よし」


 あろうことかスキンヘッドはまた俺に手を伸ばしてくる。懲りない奴め。まだ教育が必要なようだな。俺はまたミリーに気が付かれないようにスキンヘッドに向かって顔を一瞬凄ませた。


 男に撫でられる趣味はない。出ていけ!!我が冒険者ギルドから出て行けっ!!!


「やっぱこわ」


 スキンヘッドはまたもや動きを止める。その様子を見て不思議に思うミリー。


「あら、撫でないの?」

「俺が撫でようとするとルノアが怖い顔をするんだが……」

「何言ってるのよ。そんなわけないじゃない。こんなに人懐っこいのに」

「いや、絶対に俺だけ嫌っているんだが。確実に俺が撫でようとすると怖い顔をするんだが」

「まったく、おかしな人。ルノアはこんな可愛いのに。ね~?」

「にゃあ」


 俺は満面の笑みでミリーに返事をする。その様子を見て俺を訝しむスキンヘッド。


「なんでこれで俺がおかしな人判定されているんだ。納得いかない」

「もう、だから勘違いだって。ルノアは人懐っこいんだから、あなただけを嫌うわけないでしょ」


 ミリーは抱っこしていた俺をスキンヘッドに渡そうとする。はぁ、仕方ないか。男だけを嫌うすけべ猫だと思われるとミリーの好感度が下がる可能性がある。これ以上リスクを冒すことはできない。大人しく抱っこされてやるか。


 俺は無情にもスキンヘッドに明け渡された。


「ほら、大人しくあなたに抱っこされてるじゃない」

「……ルノアの顔、めちゃくちゃ無表情なんだが」


 あっ、やべ。顔にでてたかも。笑顔笑顔。まったく、どんな相手にも笑顔でなければならないのか。アイドルみたいな気分だぜ。


「あら、本当?……笑顔じゃない。満面の笑みだわ」

「あれ、本当だ。これ以上ないほど満面の笑みだな」

「今日は色々あったからきっと疲れてるのよ」

「……う~む。まぁ、それもそうか。きっと疲れが出たんだな。ちょっと休むよ」

「えぇ、そうするべきだわ」

「にゃ」


 そうだ。スキンヘッド、お前は休め。俺は女の子にしか興味ないんだ。


「受付に行けば今回のドラゴンの件についての詳細と対策を聞けるから、気が向いたら受付に顔を出してくれ。俺は今から休憩室で休んでくるよ」

「了解」

「にゃにゃ」


 そうしてスキンヘッドは去っていった。一件落着ってわけだな。正義は勝つっ!!

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