第3話 本当にちょろいのは俺だった


「にゃあ」


異世界で猫に転生したときはどうなることかと思ったが、いやぁ~、まさかドラゴンを一撃で倒せるなんてな~。うん、これはモテる(確信)。


最高のヒモになる筋道がはっきりと見えるぜ。作戦はこうだ。


まずは普通の猫を装う。プリティビューティな猫である俺が床にゴロンしたり、体にすりすりしたら誰もがキュンキュンして俺の世話をするための争奪戦が始まることだろう。これは間違いない。


だが俺はこれだけで終わる男ではない。どうやらこの世界にはモンスターという人類共通の脅威が存在しているようだ。不謹慎かもしれないがそれを上手く利用する。


誰かがモンスターに襲われそうになっているピンチに颯爽と駆けつけ、今日ドラゴンを倒したように一撃でモンスターを倒す。そうすることで、普段可愛かった猫がかっこいいヒーローに見えること間違いなし。


可愛いのに強くてかっこいいという最強のギャップ萌えで誰もが俺を世話したがるだろう。そして俺は最高のヒモとなる―――。ふっ、我ながら完璧な作戦だ。


よし、作戦は出来たから早速遠くに見える街に行ってヒモ界の天下を取るぞ!!えい、えい、おー!!


「にゃあー!!」





というわけで街の近くまで来てみたわけだが、ここで単純な感想。すげぇ~。


これは城塞都市ってやつなのかな。遠くから見たら分かりづらかったが、街を囲うように城壁が立っていた。城壁の上には騎士のような恰好をした人たちが外を見渡したり巡回したりしている。警備をしているのだろう。


とりあえず入口を見つけるために壁に沿って歩いてみるか、と常人ならば考えるのだろう。だが、俺はスーパーな身体能力を持ったチート猫だ。こんな城壁なんてものは飛び越えてしまおう。


そう決めた俺は巡回している騎士たちにバレないように城壁を高速で飛び越えた。なんてことだ。こんなことを簡単に行えるなんて、俺の体がどれほどの可能性を秘めているのか。もはや恐ろしい。


街の中に入れた俺はまず街の中心に向かって歩いてみることにした。人がたくさんいればいるほど俺を世話してくれる人も増えるわけだからな。





そして数十分後、俺は街の中心部に来ていた。


中心部は噴水を中心に大きな広場となっているようだった。人通りも多い。そこで俺は早速ヒモになるためにそこら辺を歩いている女の子に向かって自身の可愛さをアピールし始めた。


前でゴロンと転がってみたり、足元にすり寄ってみたり、「にゃあ」と鳴いてみたり。そんなアピールを続けること数分、俺はあることを思うようになった。



―――いやぁ~、人間ってちょれ~。



「あらぁ、この子人懐っこいわね~」

「そうなんですよ~。ほら、こんなに撫でさせてくれるんです」


俺の周りには既に童顔系の可愛い女の子や美人人妻風の女の子が数人集まっていた。中には日本における空想の存在であるエルフや獣人も混じっており、おやつをくれたり撫でたりして俺を甘やかしてくれる。


あっ、そこ。そこもっと撫でて。き、気持ちええ~。って違う違う。俺が気持ちよくなってどうする。俺がこの子たちを誑かすのであって、俺が誑かされるわけにはいかない。俺はこの子たちのヒモになるんだ!!決してペットにはならない!!


「私も撫でていいかしら。きゃっ、体にすりすりって・・・」


ふっ、俺のすりすり攻撃をくらえ。さらに追い打ちをかけるためここで一言。


「にゃあ」


甘えた感じの鳴き声を出せば!!


「「「・・・かわいい~」」」


ほら見ろ!!まったく俺は罪な男だぜ。わずか数分で何人もの女の子を誑かしてしまった。いつしか世話をさせてくださいと俺に跪くことになるだろう。俺の異世界生活の未来は明るい。思わずそう確信してしまったよ。ふははははは。


「なでなで~。ここが気持ちいい?」


俺が悦に浸っていると獣人の女の子が俺の喉辺りを撫でてきた。


あっ、ちょっ、だめだめ。そこ気持ちよすぎる。ちょっ、撫ですぎ。そこやばいって。あっ、あ~~~。俺のこと飼って~~~。・・・ってちがう!!!ちがうだろ!!!!このままじゃペット一直線だぞ!!!気をしっかり持つんだ!!!あ、もうちょっと下。そうそうそこそこ。あっ、気持ちいい。あぁ、もうペットでいいや・・・。


「この子名前あるのかな」

「う~ん、首輪がないから飼い猫って感じもしないし、名前はないんじゃない?」

「じゃあ、私達がつけてあげよう!!」


名前なんてなんでもいいからもっと撫でてくれ~。俺の体を思う存分まさぐって~。


「どんな名前がいいかな?」

「黒猫だから・・・クロとか?」

「それじゃ安直過ぎない?もうちょっと捻った方がいいかもね。漆黒の英雄にちなんで、ルノアとか?」

「いいね!!じゃあこの子の名前はルノアだ!!」


ルノアか。まぁ名前がないのも不便だったし、これからはルノアと名乗るとしよう。なかなかいいネーミングセンスではないか。そこのエルフのお姉さん、褒美をやろう。くらえ、いきなり飛びつき攻撃!!


「きゃっ。・・・もう、お転婆さんね」


そう言いながらも優しく受け止めてくれるお姉さん。しかも背中なでなでオプション付きで。素晴らしいサービス精神だ。俺も見習わなければ。


「これから冒険者ギルドに行かなきゃいけないんだけど、ルノアもついてくる?」


冒険者ギルド!!異世界転生の定番じゃないか!!俺も行ってみたいぞ!!可愛い受付嬢とかいるんだろ!?


「にゃあ!!」


俺が元気よく返事をするとエルフのお姉さんは上手く俺の意志をくみ取ってくれた。


「行きたいのね?じゃあ、一緒に行きましょ。皆さんごめんなさいね。ルノアはもらっていきます」

「え~、いいな~」


俺との別れを惜しむ女の子たち。たくっ、モテる男はこれが辛いんだ。俺は可愛い女の子たちとの別れを悲しみながらエルフのお姉さんと共に冒険者ギルドへ向かったのであった。

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