第3章:高校生編

第7話:新たな仲間と

 高校に入学した篝と葉月は、4年連続の同じクラスだ。クラスは1年B組。高校でも茶道部に入ることを考え、部活見学に行こうとしていた時のことだった。部室前である女子がうろうろしていた。


「あの、部員の方ですか?」


葉月が尋ねると、その女子は体を震わせながら答えた。


「あっいえ私のような初心者を迎えてくれるのかなと…。」


「私達もそうだったから、大丈夫。一緒に行きましょう。」


篝が彼女の背中を押しつつ、葉月と共に部室に入った。


 彼女の名は江本愛里加えのもとえりか。1年A組の人だ。中学生の頃は帰宅部で、高校こそ何かやりたいと思って咄嗟に思いついたのが、茶道部だったのだそうだ。


「――ありがとうございました、色々助けていただいて。お2人が経験者との事なので非常に心強いです。新入部員が自分1人だったらどうしようかと思ってました…。」


愛里加はそう言うと、その場を去ってしまった。


「あの方コミュ障なのかな? でも、入部届出しますって言ってたから、私達も続こう。」


「そうだね。」


☆☆☆


 3人揃って入部届を出し、初めての部活の日。部室に来たものの、まだ先輩達は来ていない。


「あ、こんにちは。えっと…篝さん、葉月さん。」


不意に後ろを向いた愛里加が声をかける。


「やっほ、江本さん。愛里ちゃんって呼んでもいい?」


篝が提案すると、愛里加が驚いた顔をして反応する。


「え、そんなっ!? まだ日が浅いのに…でも! お2人とこれからの付き合いになりますし、好きに呼んでください!」


そして、先輩達が続々やって来た。高校生活初の部活が始まる。


 部活は自己紹介から始まった。その後、愛里加向けの初心者教育が始まる。愛里加は熱心に先輩からの説明を聞いていた。自分たちもそうだったなと、愛里加の様子を見ながら思った篝と葉月。顔を合わせながら頷いた。


 部活が終わり、愛里加は急いで帰る様子なく2人を待っていた。


「お2人の出会いは、中学の時ですか?」


「うん。他所から引越してきた私に声をかけてくれたのが、葉月だった。葉月に連れられて茶道始めたんだけど、意外と楽しくて。こうして高校でも続けられるって嬉しいね。」


愛里加の質問に答えた篝が話を続ける。


「私は今、叔母と2人暮らしなんだ。小6の時、修学旅行中に交通事故で両親を亡くしたんだ。もうすぐ4年。小学校の時の友達と葉月がいてくれたから、今の私がある。」


「事故の話はニュースで見ました。お辛かったでしょうに…。」


 横で黙って話を聞いていた葉月が、


「愛里ちゃん、同学年なんだから敬語やめよっか。さんもなしで。ゆっくりでいいから。」


「は、はい…うん。」


その後愛里加と別れ、2人だけになる。


「輪さん、今日は職場行き?」


「ううん、家にいるよ。」


「ならちょっとだけ顔出してこよっかな。」


☆☆☆


 愛里加は茶筅ちゃせんで点てる際にお茶をこぼしたり、茶席ちゃせき用のお菓子を踏んでしまったりの失敗続きがある中、根性だけはあった。


「よく助けて貰ってるから。篝ちゃんにお礼を込めた誕生日プレゼント。」


愛里加が用意したのは、5月の誕生花である鈴蘭が模様のハンカチだった。


「ありがとう。探すの大変だったでしょ? 大事に使うね。」


「なんもなんも。」


 数日後、前期中間テスト前最後の部活にて学校祭の話が出た。中学と同じ7月だが、高校の方が1週間早いのが通年みたいだ。だが、部活としてやることは変わらない。


 そして、テストが終わった。葉月が総合トップを取ったことに、だろうなと思う篝と、驚きを隠せない愛里加。


「葉月ちゃんってこんなに頭がいいとは…。」


「でしょ? 才色兼備、羨ましい限りだべさ。」


クラスの掃除当番中の葉月が遅れて合流する。


「お待たせ。さあ、行こうー。」


学校祭に向け、部活が始まる。


☆☆☆


 学校祭が近づくにつれ、愛里加が妙に忙しくしていた。


「お2人の仲良さが眩しいので一旦私は…としか言わないんだけど、葉月は何か聞いてる? 流石に隣のクラスの人に聞くわけにもいかないし…。」


「ううん、何も。部活の時もいつも通りだし。愛里ちゃんクラスで何か頼まれ事でもされてるのかな?」


 篝も葉月も、愛里加の事情は分からず謎のままだ。週末、クラスで学校祭の準備のため半分ぐらい集まって作業に当たっていた。篝が自販機で飲み物を買いに行って教室へ戻るところ、愛里加の姿を見つけた。隣にはA組の人だろうか、男子生徒と親しげに話していた。


(愛里ちゃん、偶然だと思うけど、まさかねぇ…。)


篝はそう思ったが、この後偶然ではないということを、篝と葉月は知ることになるのだ。


☆☆☆


 2人は愛里加と満足に話せないまま、学校祭初日がやってきてしまった。この日はあいにくの雨模様だ。グラウンドで花火が打ち上がる時、篝は愛里加が例の男子生徒と相合傘しているのを見てしまった。


 初日の日程が全て終わると、今度は愛里加の姿を見失ってしまった。葉月が何故か愛里加の携帯を見つけ、篝と手分けして愛里加を探す。


「愛里ちゃーん! 携帯忘れてるよー! はぁ…全く、おっちょこちょいなんだから…ん? 何か鳴ってる…? なになに…え?」


篝が愛里加を捕まえて葉月の元へ戻る頃、葉月は携帯に届いたメールを見てしまった。


『江本さんのことが好きです。』


(これってまさか、告白…!? いやいや、まじかよ愛里ちゃんよ――)


 いわゆるってやつだ。でもこれは問い詰めるしかない。そう思った葉月は、やっと来た愛里加に聞いたのだった。


 愛里加自身は何とも思ってなかったのだが、男の方は彼女に対して憎み口を叩きながらも、1人の女として尊敬していたみたいだ。しかし、やっぱりいいと男が言い出して最初の学校祭を終えたのだった。


 愛里加はこの件を反省したのか、篝と葉月に合わせる顔がなかった。


(あの2人はどうしてケンカなく仲良くできるんだろう。)


それでも、新たな一歩を踏み出すきっかけを作ってくれた2人に感謝しかない。


「愛里ちゃん? 部活行こっか。」


そこにはいつも通りに接してくれる篝と葉月がいた。その後夏休みを挟み、愛里加は葉月への誕生日プレゼントに向日葵が描かれた巾着袋を手渡した。

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