友情と約束

はづき

第1章:小学生編

第1話:突然の別れ

 待ちに待った修学旅行だ。秋川篝あきがわかがりは着替えを終え、朝ご飯を食べにリビングに出てきた。


「お父さん、お母さんおはよう!」


「おはよう、篝。」


篝が弾んだ声で挨拶すると、父、母の順に返してくれた。


 修学旅行から帰ってきたら、篝の12歳の誕生日だ。修学旅行も楽しみだけど、両親からの誕生日のお祝いも楽しみだ。


「仕事行く前に、篝を学校まで送っていくわ。今日は早く帰ってこれそうだから、たまには外食でも行こうか。篝の誕生日プレゼント買いに行くのを兼ねて。」


「そうね、お願いします。待っているわ。」


 篝が朝ご飯を食べている間、両親がそう話していた。父から外食へ行こうと提案したのは、なかなかないことだ。朝ご飯を食べ終え、家を出発する。


「お母さん、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。修学旅行、楽しんできてね。」


篝は母の言葉に笑顔で頷き、父が運転する車に乗り家を後にした。


 小学校に到着。


「お父さん、ありがとう。行ってきます。」


「おう! 楽しんでこいよ!」


父がそう言うと仕事へ行った。


同じクラスで仲のいい、大島由奈おおしまゆなが近くに駆け寄ってくる。修学旅行の2日間が今から楽しみだ。


☆☆☆


 篝たち6年生を乗せたバスは、学校を出発して目的地へと向かった。1日目は貝塚2ヶ所と歴史村を回るスケジュールになっている。使い捨てカメラに次々と写真を収める篝を見て、由奈が


「そんなに撮ってたら明日の分なくなっちゃうよ?」


「これで最後にするから~。」


と2人で笑い合っていた。去年から同じクラスになった由奈とは、宿泊研修がきっかけで仲良くなった。篝にとって初めての友達だ。仲間外れにされやすかった篝に手を差し伸べてくれた、思いやりのある女の子である。


 3ヶ所目の歴史村を出発し、宿泊するホテルへ向かう。ワクワクな1日で、あっという間だった。その頃篝の父が仕事を終え、帰宅していた。


 クラス毎に入浴の後、夕食の時間だ。1組から先で、篝は由奈と一緒に向かった。2組が入浴時間中、お土産屋さんへ寄っていた。2組が入浴を終え、夕食会場へ2クラス揃って移動した。


「「「いただきます!」」」


と皆が揃って掛け声を出して、夕食タイムだ。


 篝が夕食時間中のことだった。篝の両親は外食をするため行きつけのレストランへ車で向かっているところ、後ろから猛スピードで来た車に跳ねられ、橋から落下してしまった。現場近くのアパートで1人暮らしをしていた、篝の母の妹で、篝の叔母でもある水野輪みずのりんが物音に気づき、作業の手を止め外に出た。


「ガッシャーンってすげー音したけど…パトカーがあっち行ってるな、あそこだなー。」


輪が現場に到着した時点で警察は既に来ていた。近くにいた人がすぐ通報したのだろう。橋の柵が壊れてしまっている。輪が橋の下を覗くと、姉の旦那が運転する車が大破して落ちているのが見えた。


(え、嘘でしょ…。姉ちゃん、義兄さん…!?)


 輪が体を振るえながらその場から動けないでいると、警察官の1人が声をかけてきた。


「ご家族の方ですか?」


「はい。姉夫婦があの車に…。」


輪がそう答えていると、救急車が到着した。姉と輪の両親[母方の祖父母]は隣町に住んでいるため、輪は電話で事情を話し、搬送先への病院へ来てもらうようお願いした。


 担架に乗せられた姉の方の救急車に乗り込んだ輪。変わり果てた姉の姿を目の前で見て、何よりも辛かった。同じ頃修学旅行で楽しんでいる姪の篝にどんな顔して会えばいいのか、分からなかった。


 搬送先の病院で祖父母と合流した輪。父方の祖父母も駆けつけた。病院の先生から告げられたのは、即死状態だということだった。輪も祖父母も何も言葉が出なかった。


(姉ちゃん、姉ちゃんがいないと、私は…。)


輪にとって姉は尊敬する存在であり、目標でもあった。姉の見様見真似で覚えた料理は、いつの間にか特技になっていた。器用で何でもできる姉が羨ましかった。だが、もういない。姉の遺伝を受け継ぐ篝を、誰が面倒を見るのか。


 今は夜7時だ。小学校に電話をかけても繋がらないだろう。涙を拭いつつ思いながら、輪はダメ元で電話をかけると教頭先生が出てくれた。輪はこれまでの経緯を教頭先生に説明し、可能であれば篝の担任の先生と電話で話できないかと伝えた。最後に自分の携帯の電話番号を伝え、電話を終えた。祖父母は父方と共にお葬式の打ち合わせに追われている。


 10分ぐらいたった後警察署から電話があり、犯人は無事逮捕されたとのことだった。あの後逃走し途中で走行不可になった車を乗り捨てたものの、その場に居合わせた交番の人が取り押さえたのだ。その後篝の担任の先生から電話がかかってきた。


「もしもしはじめまして、篝さんの担任の森本もりもとです。篝さんのお母様の妹さんでお間違いないでしょうか?事情は教頭先生から伺っております。」


「はい、そうです。はじめまして、秋川篝の叔母の水野輪です。」


「篝さんが修学旅行中にこんなことがあるとは…、担任としてもかなりショックを受けております…。」


 電話に出たのは、森本と名乗った女性の担任だ。両親がお葬式の打ち合わせを終え、輪の元へ戻ってきている。


「篝さんを呼んでお電話お代わりしましょうか?」


「いえ、帰ってきた時に私から直接お話するので、明日もいつも通り篝ちゃんに接してあげてください。学校まで私が迎えに行きます。」


そうでもしないと、せっかくの修学旅行が台無しになってしまう。そう思い、輪はお願いした。


☆☆☆


 森本先生との電話を終え、息を引き取った姉夫婦の姿を呆然と見ていた輪の背後から、祖母が声をかけた。


「輪、仕事は大丈夫なの?」


「1週間休みもらったから大丈夫。葬式終わったら姉ちゃん家の片付けもしなきゃならないでしょ…。」


「分かったわ。明日、篝ちゃんの事お願いね。」


祖父も、父方の方も異論はない。明後日の夜にお通夜が執り行われることになったそうだ。祖父母が病院を後にしてから、輪はタクシーを呼びアパートへ帰宅した。


(篝ちゃん、ごめんね――)


今頃友達と楽しく過ごしている篝の笑顔を自分が奪ってしまうようで、輪は心苦しかった。

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