第2話新天地

この街には3種類の人間がいる。

 一つ目は搾取する方。企業とか国とか。金を好きなように使って好きなようにもらえる奴ら。特権階級ってやつ。

 二つ目は搾取される方。何もできないけど生きてはいける。

 三つ目は搾取される金さえないヤツ。この街のゴミみたいなやつらのこと。

 ちなみに私は三つ目。この街のゴミから生まれたゴミ。仕事もないから金もない。かといって雇ってくれるわけでもない。

 多分。ゴミはゴミらしく死んでいく。

 ドカン!と目の前で爆発音がした後、二人の少女が向かいのビルまで吹き飛ぶ。

「痛った! あれ条約違反でしょ! ビル二つ貫通したけど!」

短髪の少女が右わきを押さえながら喚く

「そんなのお構いなしに決まってるでしょ。あいつらは軍人じゃないんだから」

それをポニーテールの少女がいさめながら立ち上がるために手を貸す。

「はぁ!? じゃぁ何であいつら戦いなれてんだよ!」

「仕方ないでしょ! そうとしか言えないの!」

すると目の前にでっかい銃を持った大男とフルフェイスヘルメットをかぶった男2人が現れる

「嬢ちゃん! 金出せば済む話なのによぉここまでやらせやがって」

すると短髪の少女が飛び掛かり、ヘルメットごと頭をつぶす

「テメェ、やりやがったな!」

「知らねぇよ! アタシらが払う必要ない金払う必要ねぇだろ!」

「ああ!?」

「気にしないで、あいつたまに会話できなくなるから。あと、アンタ逃げた方がいいかも」

素手で、フルフェイスヘルメットごと……

 私は必死に逃げた。だからそこから先のことは知らない。でも、あれは人間じゃない。それだけは理解できた。こんなゴミにも生きる気力があったなんて。


「はぁ……だからと言って被害を出しすぎだ」

「だって! あいつらC6 の10倍ぐらいの爆薬仕掛けてたんだよ!」

医者に傷の手当てをしてもらいながらマスターに怒鳴る

「しかし初めからあまり目立つなと言っておいたはず」

「だけd……」

言い返そうとするⅠに割って入る

「しかし、相手は我々が何をしても攻撃してきたはずです。なのでこれは避けられない戦闘でした」

「しかしだな……」

むぅと唸るマスターを横目に何があったのか説明すると

 この街でマスターと合流し、生活基盤を整えてさっそく仕事を取り付けた。この街に来てわずか2、3日のことだ。さすがマスターと言える。その仕事というのが、とあるトラックの強奪だった。その仕事は滞りなく終了し、依頼人の指定した場所へ届け、連絡をした時だった。確認に来たあのフルフェイスのクソどもがそこに乗っていた貨物にダメージがあったとして報酬は無し。それに加え慰謝料まで請求してきた。それに、それを拒否したとたん銃を乱射。その時身を隠したビルごと吹き飛ばしてきた。まぁそいつらもぶっ殺して財布を抜いてきたんだけどね。

「む? これは……」

「どうかされましたか?」

「今、依頼主から報酬を送ったと連絡がきた。それと。次の依頼も」

「え? アタシらそいつの子分殺したのに?」

「いや、おそらく彼らもこの依頼主から依頼を受けていたのだろう。二人の仕事にケチをつけて殺して来いと」

「え? ナンデ?」

「試されたのですね」

マスターが首を縦にゆっくり振る。

「何を試されたの?」

「簡潔に言うと、お前たちが戦ったあいつらに仕事を頼むか、私たちに頼むか決めるために、殺し合わせたってことだ」

手をポンとたたき、目を見開くⅠ

「強い方に仕事をさせたかったってこと?」

「そういうことだ」

「とはいえ、次の仕事というのは?」

ジリリリとチャイムが鳴る

「ああ、来たか。仕事の説明の前に紹介しなければいけない」

マスターが扉を開き、こちらへ案内する。

「彼はあたらしいエンジニアだ、昔から交流のある私の友人だ。安心してくれていい」

長髪でセーラー服を着た女性のような見た目の「彼」は、いそいそと大きな荷物を広げ自分のブースを作っていく。

「はぁ、ネイ挨拶ぐらいしたらどうだ?」

きれいに工具を並べているエンジニアがビクッと体を震わせた後、こちらへ振り向き口を開く

「あ、すみません。あ、えっと、エンジニアのネイって言います。よ、ヨロシク~」

と弱弱しく手を振る

「よろしくお願いします、ネイさん」

「よろ~」

Ⅰは見向きもせずに手をひらひらさせる

「二人とも。先の戦闘で損傷した機械性ユニットはないか? ドクターだけでは

不完全だろう」

「あ! 左手がちょっとカリカリいうんだよね!」

みてみて~と子供のようにパタパタ走ってゆく

「あ、あえ~はい」

と力なく返事をするエンジニアだったが、その腕は確からしい。

 腕を出し、私には理解できない感覚的なⅠの説明を的確に対処していく。そして、ほかの箇所もスラスラと確認していくと急にⅠがこっちへ走ってくる

「すごいよ! このひと! 新品みたいに動く!」

「あ、え~っと。ちょっと掃除して調節しただけだから……あ、動きにくいとか変な感覚があったら言って……ください」

自身がなさそうに下を向く

「おいおいおい! じしんもてよ!」

バシンと背中を叩く。

「いだい!」

そんな会話をにこにこしながら見ているマスターを見てにこにこする私……

「仲良くやっていけそうだな。彼にはここに常駐してもらう。心配しないように」

とひと段落したところで。ネイが

「あ、ああ、そういえば。 向こうの部屋の準備をしますね」

と言い、今は何もないブリーフィングルームの中へ消えていく。

「彼とはどんなつながりで?」

「ああ、君たちが着けているすべての身体強化ユニットは彼が作ったオーダーメイドだ。そして、まぁ、私と同期なんだ」

「同期……ああ、彼は早くに老化停止手術を受けたのですね」

「というより、彼はもはや人間ではない」

「? それはどういう意味でしょうか?」

「彼は脳も含めすべてを機械化している。年齢的には私より上だよ」

 脳も含めた機械化?そんなことは可能なの?

 確かに、人格のデータ化や記憶のデータ化は可能だ。だが、それはバックアップとしての活用であり、脳という生体部品がなければ上書き、またはファイルの追加はできない。金持ちは、永遠の時間を得るために自分のコピー、つまりクローンを作り、データのコピーを繰り返して機械化を全くしない、そして老化の停止もしない。という物好きもいると聞いた。しかし、機械へのデータ移行はいまだ成功していない。人間の脳は機械で再現できていない……いや、再現はできているはずなのだ。形や機能としては人間のそれと全く同じ。生物に移植して人間と同じ知能をつけたという実験はあった。だから人間の脳と同じはずなのだが、データ化した記憶をその機械へ移植しようとするとエラーが発生し、一部、またはそのすべてを欠損、または他の全く違う情報に置換されてしまう。と聞いたのだが……

「そうなんですね……」

「信じられないという表情だな」

「ええ、だって……」

「そんな技術があれば彼を知らないわけがない。かな?」

ニヤリと笑いかけてくださるマスターが可愛い。じゃなくてマスターの通りだ。

「潰されたのだよ。革新的過ぎてな」

「革新的?どんなふうに?」

「それは、自分で聞いてみなさい」

といったマスターは自室へ戻っていった。


 その日の夜、たまたま起きていた私に話しかけてくる

「あ、えっと。 あなたのマスターは今どこに?」

「ますたーなら自室でお休みしています」

「あ、じ、じゃあ明日でもいい……か」

「どうかなさったんですか? 私でも対応できることであれば」

「え!? あ、いや、その。ブリーフィングルームの準備が終わったので、その報告をって」

「そうですか。何をしていらしたのですか?」

「ああ、えっと。3D ホログラフィックの修理をしてたんだけど。思ったより時間かかってしまって」

「なるほど。おそらく。マスターは1000頃から仕事を始めますのでそれ以降で報告をお願いします。本人が話した方が要点がわかるでしょうから」

「そうだね、ありがとう」

「それと……」

脳の機械化について聞いてもいいのだろうか。よくない記憶だったらきっと彼の気分が悪くなるかも……夜も遅いし、そこまで重要なことではない。また今度でいいか。

「ど、どうしたんですか?」

「なぜ、セーラー服なんですか? 確か女性の学生が着るものだと私は理解しているのですが」

「それは……趣味みたいなものだと思ってください」

そう言った彼は少し暗い表情をしながら部屋へ戻っていく。

地雷だったか?

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