金肉少女(ゴールデンマッスルガール)
里芋の悲劇
第1話人が生きた土地
大体の存在は裏切るのだ。努力も、人間も、世界も、自分自身だって。
なら、絶対に裏切らないものはないのだろうか。そう、それは筋肉である。
筋肉はどんなことがあっても裏切らない。自分の技術や感情は時に慢心を生み出す。
だが、筋肉だけは脳から伝達される電気信号に忠実なのだ。
しかし、人間は劣化する。いや、人間だけではない、すべての存在は時間とともに劣化する。なら、その劣化を遅くするためにはどうすればいいのか。簡単な話だ。
鍛え続ける。鍛えて、鍛えて、鍛える。答えはそれだけだ。
なぜそんな話をしたのか。私はただ、筋トレは素晴らしいということを伝えたいだけではない。先日、新たな人類の敵が生まれた。
これまで人類を脅かしてきたものはたくさんある。疫病、気候、ウイルス、AI、地球外生命体、外なる神、etc...だが、我々は一致団結しそれらを打ち滅ぼしてきた。時には憎しみ合い、時には投げ出したくなったこともあっただろう。しかし、我々は立ち向かってきた。そして、勝ち続けた!
しかし、今回はこれまでの敵とは違う。人間同士は争い、そして成長を続けここまでやってきた。人類は、いや。ホモ・サピエンスは集団で進化し、そして今全世界がここ、太平洋上の種族存続プラント「ノア」にて世界は一つになった。そして老いを克服した我らはついに核で汚染されて1億年経つこの星を再調査した。そして、発見した。「新たな人類」を。
「彼ら」と対話を試みた。が、失敗した。彼らの言語形態はこれまで飛来してきた地球外生命体のものと近く、翻訳は可能だった。しかし、彼らは何と言ったと思う?我々のことを「旧人類」と。そして彼らはこう続けた。これからのこの星は「彼ら」が守ってゆくと!
我々はここに宣言する! 我々こそがこの星の神聖なる「人類」であるということを。 そして、彼らが「
この星に思い出させてやれ! 我々こそがこの星の真の理解者であるということを! 筋肉はすべてを解決するということを!
この文章はこの最終戦争の始まりの文であり、この星の終わりの言葉である。
『ナンバーⅠ 起動』
『ナンバーⅤ 起動』
無機質な機械音とともに目が覚める。少女二人は目の前のモニターを操作し指令内容を確認する。
『ナンバー…認証。 おはようございますホムンクルス第9世代ナンバーⅠ、Ⅴ、今回あなたたちに与えられた任務は、現在確認されている新人類最大の国である「フェルドラーティカ」に隠された新兵器の破壊工作となります。フェルドラーティカ南部の巨大軍事倉庫に隠蔽されているという情報が潜入調査により確定的になりました。 そのためその新兵器の情報の回収と新兵器の破壊が今回の作戦になります。以上。
すべては人類のために』
戦争が始まって400年が経つ。この戦争は2度終わるきっかけを失った。
1度目は戦争が始まって4年が経った頃。新人類は疲弊していた。新人類にとって初めての種族間の戦争であり、すべての人種を統率することは困難を極めた。だが、我々人類は「対地球外知的生命体防衛作戦」によって旧アメリカ軍を主軸とした「地球軍」を組織していたため、新人類の脆弱な統率では手も足も出なくて当然なのだ。しかも1000年単位の戦争を経験している人類にとって4年そこらの戦闘続行は何事もなく行われる。しかし。すべては「新兵器」によって覆される。その新兵器とは生物兵器であった。人類には耐性のなく、新人類だけに耐性のある毒素を散布するものである。それにより人類の攻勢が停滞し、そこから300年ほど動きがなくなる。
2度目は戦争開始から300年経った頃。初めて新人類との対話が行われることとなった。会議は地球衛星軌道上のステーション内にて行われることとなった。が、新人類の代表10人の乗ったスペースシャトルを地球軍が大気圏外で撃墜。それにより対話の機会はなくなってしまった。この撃墜は地球軍の暴走であり、この事件ののち地球軍は解体。「人類防衛軍」が再編成された。
そして、人類は人間を武器として使用するのをやめた。
現在、人類は南半球の奪還に成功している。そして、人類は老いを克服した。人類にとって時間は些細な問題になり、死は時間ではなく外的要因でしかなくなった。その影響で人類の増加は緩やかなものになった。そのため、人的資源は無駄にできなくなった。そこで人類は作り出した、戦闘用の人間を。遺伝子を操作し、人格を操作し、肉体を金属で作り上げた。それは人類であり、人間ではない。人類はデザインベイビーと義体技術の結晶、
説明した通り戦闘用の人類である金肉少女は全員女性である。理由は女性でなければ定着しない遺伝子を配列の中に組み込んでいるためである。そしてそのすべての少女は相手の戦意を削ぐために15歳程度の見た目で肉体的な成長が止まる。そして、部分的に義体技術を使用することによって、圧倒的な筋肉量を得ることができている。しかし、見た目にはそれを確認することはできない。そして、戦闘用の人間であるため、戦闘に特化した肉体に遺伝子操作されている。生殖能力はなく、神経系は通常の人間の4倍以上の強度を持ち、驚異の反応速度と強化された五感により、より素早く、より強く、より殺せる。そして、人類に対して絶対的な服従を遺伝子に書き込んだ、そのため人類に仇をなすことはない。そして、すべての毒性に対しての完全耐性を有した内臓器官を獲得しており、生物兵器の事実的な無効化が達成されている。
「何ボーっとしてんの?」
隣に眠っていたⅠが話しかけてくる。
「いやちょっと考え事」
「そっかぁ、一回私に話してみ?」
「そんな大層なことじゃないし、これから作戦だからそんな時間無い」
「あーあサボれると思ったのに」
休息ポッド内にある作戦用の戦闘服に着替える。
兵装の準備をし、ポッドの外へ出る。
「さぁ ここから160㎞走るけど。大丈夫?」
「うん! 大丈夫! このとーり! 足のユニット換装しといたから!」
この前まで旧世代型だった脚部ユニットが最新鋭のエネルギー循環システムを採用した次世代型のユニットへ換装されていた。
「それどうしたの?」
「マスターが変えてくれたんだー」
「そうなんだ。私のスキャナユニットは変えてくれないのに」
「変えたいの? 私が言っておいてあげようか?」
「いいよ、マスターに無理は言えないし」
「なんだかんだ言ってマスターに甘いよねーごばんちゃんって」
「そういうのじゃないから」とつぶやいて走り出す
少女たちは時速100㎞で走り出す。
向かうはフェルドラーティカ南部巨大倉庫、通称「亀の巣」
10㎞程度離れた高台にて偵察を開始する。
眼球に搭載されたスキャナーユニットを起動する。
「やっぱり警戒態勢が敷かれてる。正面からお邪魔するのは難しそうだけど」
「えー?やだー! みんなぶっ殺せば目撃者なし! それでいーじゃん!」
「よくない、発見された時点で敵さんの感覚共有で全員にバレる。多分本拠地にも情報が行く」
「いいじゃん! そのほんきょ? まぁなんでもいいけどそれもつぶせば!」
「出来たらこんなところでコソコソしてないから」
「ちぇー」と悪態をつきながら兵装の手入れをしている。
正面入り口は……さすがに無理か、裏口は……まぁ警戒してるよね。
ならほかに入れそうな……! あそこは、いや高電圧フェンスか。じゃ無理か。
ドローンで陽動? それは警戒されるだけ。
故障してる箇所とかないのか? 何で徹底されてるんだ! やっぱ光学迷彩で潜入して電気系統ダウンさせてからそれに乗じて潜入させる。それか、私は長距離から援護。前者だと警戒される。後者だと内部に潜入したときにカバーできない……
「ねぇ、一人か二人かならどっちがいい?」
「ひとりはヤダ」
「じゃぁ決めた」
「お~」
「まず、私がステルス迷彩で先行して電源を落とす。そしたら私のところまで来て」
「了解! 暗くなったら入ればいいってことね」
お互いに頷き、作戦を開始する。
まず、光学迷彩を起動し、全速力で入口まで駆け寄る。そして、兵士の出入りの瞬間を見計らってすれ違う。
すれ違った先数百メートル、ブレーカーを発見する。ブレーカーを破壊し、念のため発電機を破壊する。
発電機を破壊したと同時に、電灯が消える。それを見計らったⅠが高く飛び上がる。空中で光学迷彩を起動し、音もなく倉庫内へ着地する。地下への入口を捜索する。
その入り口で二人は合流する。
足元には大型の昇降ハッチの隣に小さなマンホール程度のハッチがある。
ハッチを上げ、音を立てずに侵入する。梯子を下りて地下の様子を偵察する。ここから先はツーマンセルで行動する。
地下倉庫には記録にない戦車や装甲車両、機関砲など陸上兵器が保管されていた。その数は尋常ではなく、記録の数倍はあるだろう。写真に収めて一応中央本部に秘匿回線にて報告を行う。様々な兵器を確認しながら先へ進む。
「これじゃない?」
画像データと照らし合わせ、確認作業を開始した瞬間。悪寒が走る。
「待って、変じゃない?」
「なに~?」
「人がいなさすぎじゃない?」
「みんな上にいるんじゃない?」
「いやでも、さすがにこっちに防衛装置もないのはおかしくない?」
「いわれてみれば……」
確認作業を中断し、周囲を警戒する。
しかし、遅かった。周囲には多数の兵士が集まってきており、その全員がサーモグラフィカメラ越しにこちらを睨んでいる。
「そこで何をしている?旧人類」
迷彩を解除し、戦闘に備える。
「ここで投降すれば殺さないでおいてやる」
「あ゛? テメェらなめてんの?」
そう言い放ったⅠが貧乏ゆすりを始める。
「まあまあ、そうカッカしないで。もしかしてこれって交渉すれば逃がしてくれるの?」
周りの敵はこちらに明らかな嘲笑を向ける。
「フフッ。面白い冗談を言うな君は。これは脅迫なんだぞ?」
そう言った明らかに階級の高い兵士の頭をこぶしで吹き飛ばす。周りの兵士たちはそれをまだ理解できていないようで、立ちすくんでいる。
「ごめん、ごばんちゃん。こいつ舐めすぎだから殺しちゃった」
「あんたが暴走しないことなんてないし。想定の範囲内だからいいよ、もう」
そう話していると、ようやく兵士たちは状況を把握したらしく、口を開く
「う、うてぇ!」
囲んでいた兵士たちの銃撃が始まる。だが、通常の弾薬では少女たちには傷一つもつかない。
「はぁ、アタシらはそこらの
二人は次々に彼らの頭を潰し、腕を千切り、体を二つに分ける。それはまるで戦闘とは言えないものだった。
最後の一人を絶命させた時、違和感に気が付く。
「何でこいつら私たちがここにいるって分かったんだ?」
「あ~確かに?」
この作戦を立案したのは人類防衛軍だ、しかも極秘の作戦だったはず。そして、上にいた奴らが私たちに気が付いていたらそこで騒ぎになったはず。つまり、発見されていたわけじゃない。しかも地下には一つも防衛装置がなかった……
「ね~これこわせばいーんでしょ?」
「あれ? ちょっと待って」
その兵器のエンブレムを確認する。確かに、敵のエンブレムだ。しかし1か所、画像と違う点を確認する。
「少ない……?」
エンブレムの数が、画像と違う。いや、画像が絶対に正確かと言われればそうではない。しかし、目の前には明らかに消された跡がある。
「あ、このサイズって」
「分かるの?」
「いや、多分だけど……ぼうえいぐんのヤツじゃなかったっけ」
「そうなの?」
「ほら見て、ぼうえいぐんはたてなが、アイツらはよこなが。でしょ?」
「ホントだ。意外とアンタって見てるんだ」
フフンとドヤ顔を決めるⅠを横目に写真を撮る。マスターには送っておいた方が良いか。
まぁここから先はマスターとのデブリーフィングで話し合うとして……
「じゃぁ壊していいよ」
「いいの!?」
と目を輝かせてこちらを向く。
私がコクリとうなずくと、Ⅰは脚を振り上げ、機関部に向け踵を落とす。
その踵は装甲を割り、エンジンを破壊する。そして爆発。
「作戦終了、帰投します」
二人は作戦領域を離脱する。
マスターはこの件をどう捉えているのだろうか。
思えば、初めからよくわからない人だった。いきなり防衛軍で訓練を受けていた私たちの前に現れて「私と来ないか」なんて言ってきて。それで私たちはホイホイ付いて行ってしまったのだ。それで私たちは防衛軍の極秘作戦を担当する特殊部隊として活動し始めた。
私はこの部隊でよかったと心から思っている。他人に合わせるのは苦手だし、自由にやるほうが自分に合っている。それと何よりも。マスターに出会えた。こんな世界でもそれが私の、ただ一つの救いだ。
種族存続プラント「ノア」第1甲板 人類保全機関 会議室
ツカツカと革靴の音が廊下へ響く。黒いスーツと人工革のアタッシュケースを携えた男が会議室の前で立ち止まる。二度ノックをし、扉を開ける
「会議中失礼します。局長に急を要するご連絡が」
「君! 会議中だ! 少しは考えたらどうなんだね!」
強い口調で扉の前の男を非難する中年の男性に
「申し訳ありません。ですが緊急のご連絡が」
と頭を下げる。
「すまない、会議はいったん中断だ。続きは明日にしよう」
局長と言われた男が立ち上がり、退出すると。次々に退出を始める。
二人は「局長室」と書かれた扉の中へ入ってゆく
「それで、急ぎの連絡とは何かね」
「先ほど、005部隊から連絡が」
とタブレット端末を手渡す
「これは?」
「こちらは亀の巣で見つかったRS409型重戦車です」
「なるほど。では、005部隊は健在なんだな?」
予想外の質問に目を丸くする
「え? ええ」
「ふむ。この件に関しては私が持とう。君はこれに関与しなくていい」
「しかし、私が動いたほうが迅速に対処できるのでは?」
「これはデリケートな問題だ。分かるかね?」
鋭く睨む。
「了解いたしました」
男は部屋を後にする。
「ふむ、しかしあちらの技術者はガサツだな、この程度の偽装もできないとは。ふむ……この戦争は、終わらせてはならない。か」
「マスター、例の情報お読みいただけましたか」
老紳士のネクタイを直しながら訪ねる
「ああ、読んだ。きな臭いのは確かだ。ただ、君たちが無事で何よりだ」
「その心配はしなくて大丈夫です。マスターこそご無事で何よりです」
老紳士はタブレット端末を手に取り、資料を確認する
「そろそろ潮時かもしれないな」
「潮時……ですか」
「どう思うⅤ。あちら側へ行くか、第三陣営へ加担するか」
第三陣営……地球保全委員会か。地球を神と称えるカルト的思想を持つ集団
「保全なんたらってカルトでしょ。いやだカルトなんて」
ソファーに寝転ぶⅠが舌を出していやな顔をする
「ふむ。まぁこのことはまた後で。私は一度会議へ行かなければならない。私が戻るまで待機だ」
「「了解」」
定例会議へ向かうマスターを見送る。
もし旧人類側を離反するとしたら傭兵として活動することになるだろう。企業に所属するのか、独立した組織として活動するのか。個人としてはこの時代独立するのは得策じゃない。装備の新調や装備も自分たちでやらなければならない。チームにエンジニアがいれば問題ないのだろうが、私たちにはいない。ボットでできる範囲も限られてくる。それに防衛軍を離反するとなれば私たちが潰されるのは間違いはない。
?……何か変だ。なぜホムンクルスである私たちが防衛軍を離反することに疑問を持たない?遺伝子レベルの書き換えをが行われているはず。
「ねぇⅠ、防衛軍を離れることに違和感ない?」
ヘッドフォンをずらして答える
「いや、ますたーとⅤがきめたんならべつにいいんじゃない?」
やはり、だがこれは好都合かもしれない。これでマスターの意思を尊重できる。これについては今後のことが決定してからでいい。
一度地球保全委員会のことを調べるか。
とりあえず基本情報。データベースから何か……あった。
地球保全委員会。地球の環境保全を掲げた団体。戦闘によって荒らされた土地を「浄化」と称して×字に木を組み生きた人間を
地球保全委員会における洗礼とは核によって高度汚染(10~30㏜程度)されているバイカル湖に1時間にわたる祈りの言葉を唱えながら装備なしで祈りを唱え終わるまで浸かり続けることらしい。
最近確認された活動としては新人類重要拠点大規模侵攻の作戦中に「神の怒り」と称して軍事行動が確認された。結果、侵攻作戦は中止。新人類側も監視拠点を放棄。現在は、地球保全委員会の居住区となっている。
「ホントにカルトじゃない。人間の命をなんだと……」
とにかく、ここには絶対に半端な気持ちでかかわらないほうがいいわね。
マスターからの通信が入る。
「すまない。緊急の連絡だ。今から我々は防衛軍から離脱する。最低限の荷物をもって今から送る座標で合流。その後ブリーフィングを行う。行動を開始しろ」
「了解。Ⅰ!荷物まとめて」
「はーい」
最低限の装備と食料を持ち作戦会議室を後にする。けたたましく洋上プラント上を鳴り響くサイレンから逃げるように。元々ドイツと言われていた土地。特別指定経済特区「ジェリコ」まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます