第2話 出会い

 午前中の授業が終わり、長い昼休みが訪れる。

授業終わりにすぐに手洗い場に行けば、長蛇の列に巻き込まれることとなるだろう。トイレの手洗い場を使えばいいだけの話だが、列があるのは廊下なので通り道は詰まっている。そのありさまはひどいもので、僕はちょうど歴史の時間に見たオイルショックの時の写真を思い出していた。歴史……。嫌なことを思い出してしまった。


 並ぶ人を待たせて怒られるなんてことがないよう、素早く用を済ませて教室に戻れば、先ほどまでとはうってかわってがらんとした教室が出迎えてくれる。そういえば今日は食堂が開いている日、静かに昼食が取れそうだ。


 箱を開けて、中身を口に運ぶ。考え事をしていると、生活のあらゆる動作が作業のようになる。


「どうしよ…」


 昨日の物理と国語に引き続き今日もテスト返却。これで全てが出揃ったのだが、あまりの惨状に目を覆いたくなる。てか覆ってる。国語以外は平均以下でいつも通り。この現状が常態化していることが問題だ。平均以下の科目でも点をあげなければ……いや、今更考えても仕方ない。次の時になんとかしよう。そう思い外の世界に意識を向けると、教室の中の小さな声も気になりはじめる。ちらりと目をやると、どうも女子3人組が会話しているようだ。上手く聞き取れないが、どうせ悪口でも言っているのだろう。年頃の女子高生は、人を悪く言わないと生きていけないと聞いたことがある。無理やり押さえ込んでいるような笑い声が聞こえる。


 ふと、その中の1人と目が合ってしまった。高いところで結ばれたポニーテールと大きな丸い目。それを見れば、誰もが陽気な印象を受けるだろう。


 まずい。気付かれたか…!


 何か思いついたような表情をしたその少女は、友人2人に前のめりで話しかける。


 終わった。告げ口をされたに違いない。


 こっちをちらちら見ながら何かをまくし立てている。


『ねぇちょっと聞いて、さっきあの陰気臭いやつがこっち見てたの!』


 とか言われているのだ!そうに違いない。いつまでも見ているわけにもいかず、取り敢えず目を背けて食事の続きとする。飲み込んだ食べ物が次々と腹の中に積もっていき、堆積岩たいせきがんのようになって重くのしかかる感覚を覚える。これから僕は女子だけのグループチャットで晒されて、一生け者にされるのだろうか…。


「ねぇ白川くん!」


「んぇ!?はいぃ…」


不意に名前を呼ばれて情けない声が出てしまった。

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