千の文字で示す解

はぐれいるか

第1話 光の中で

「おい、ちゃんと聞いてるのか?」


 その一言でふと我に帰る。オレンジ色のが差す午後の教室、重く漂う静寂の中、僕は教卓の前に立っていた。


「はい。それはもちろん。」


 慌てて返事をして教卓の方に視線を下ろす。規則正しく並んだからっぽの四角形が再生紙の上で踊り、さらにその上を大きなバツが横断している。…3点。見間違いではない。──課題確認テスト〈物理〉 白川しらかわ 千文ちぶみ 3点──理系科目の点はいつもひどいものだが、ここまでのものは初めてだ。


「お前、勉強したんか?」


 いいえ。しておりません。どうせできるようにならないので。


 などとは言えないので沈黙を返す。


 たった1ヶ所、正解して3点を得点したのは仕事率の公式。一般形を答える問題だし、勉強せずとも授業を聞いていれば解ける。ここだけが解けているという事実が僕の怠惰を表しているようだった。


「次は頑張らないと…」


 そう思いつつもどうせ次も物理の勉強などしないだろうという変な安心感がある。


 反省とはいえない反省をしているうちに、休み時間は終わり次のテストが返ってくる時間だ。


「今回の国語の平均点は54点、最高点は89点です。」


 物理の時とはまた違った緊張に、自然と体がこわばる。僕の番。受け取った紙には確かに89という真っ赤な数字が自信ありげに佇んでいた。


 素晴らしい。やはり私は最強のようだ。すまないな諸君。今回も最高点はこの白川がいただいた!


 見せびらかす友人でもいればよかったが、生憎そんなものはいない。少し残念に思いつつ、自分の席に戻る。グラグラと揺れるアンバランスな机の上にテストを置き、解説を待つ。その時突然隣から声が響く。


「え!?すげー!」


 ちらりとそちらに目をやる。どうも僕の点を見たようだ。


「89点!?高っ!」


 と口々に叫ぶ彼らに、


「もっと褒めて!!」


 と子供じみたことを言いたいのを抑えながら照れ笑いを返した。


 これでいい。物理がダメでも国語があるのさ!


 スポットライトのように窓から照らす夕日を受けながら、しばらく喧騒の中心にいた。

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