第5話 人生が一変する日 レベルupの味
ダンジョンオブアルカディアは無限の成長を謳い文句にしていたゲームだ。実際にその通りでゲームキャラのレベルは制限なく上がっていきレベル999までいってもレベルが上がったらしい。
この世界のレベルの理屈としては、魔物を倒した際に溢れる魔力を吸収して、ある一定の量を超えると魂の格が上がり身体能力も上昇するということらしい。ちなみに自分の体内にある魔力とこの魔物を倒した際に獲得出来る魔力は違うようで、自分の魔力として使うことはできない。
ゲームキャラ達は血筋だったり、肉体が他の人より特別だったりするために、一般人よりも高いステータスだったりする。
つまり、レベルを上げるにはどうやってもただ生きているだけではレベルは上がらない。魔物という敵を倒さなければいけないということだ。しかもただ魔物を倒せばいいだけではなく、しっかりとその魔力を自分のモノとしなければ、だんだんと体から魔力が抜け落ちていくことになってしまう。そのため、この世界の人達にはレベル1やレベル2の人が大半を占める。
武技を使えるようになってから5年の月日が流れた。最近では兄と一緒に狩りに連れて行って貰い、罠の置き方や動物に気付かれずに近づくための練習や足跡を見つけ追跡するなどいろいろなことを教えてもらっている。
父さんも5年前と比べ多少衰えはしたが、高いステータスのおかげでまだまだ屈強な肉体を誇っている。
兄は母親譲りの赤茶色の髪をした長身青年に成長した。なかなかに顔もよく、更に父さんの子供ということで村ではかなりモテている。昔からの幼なじみと付き合っているためそろそろ結婚すると思われる。兄さんは僕よりも早く狩りを教わっているから、レベルは上がっていて4になっている。
「おい、カイ、ナル見てみろ。魔兎がいたぞ」
先行して偵察していた父さんがそういい、一緒にいた兄と僕を呼ぶ。そこにいたのは普通の兎よりも一回りほど大きく、頭から角が生えた黒い兎、魔兎。魔物としては低級でレベル1でも倒すことが出来ることから脅威度は低い。
「よし、じゃあ事前に言っていた通りに今回はナルが仕留めてみろ」
「やってみます」
そういい僕は背中に背負っていた弓を構え、矢筒から矢を取り出し引き絞る。そしてしっかりと狙い武技を発動させる。
矢に水色の魔力が纏わりつき、命中精度に補正がかかった矢を発動させ、矢を射る。飛んで行った矢はそのまま魔兎の額に命中し魔兎は悲鳴をあげそのまま死亡した。
「やるな、額を一撃とは」
「凄いじゃないかナル 」
「スキルの補正のおかげですよ。 今の僕じゃあスキルなしでは無理ですよ」
「そんなに謙遜するな、ナルが毎日しっかりと練習してる成果なんだから」
「そうだね。ありがとう兄さん」
「話は終わったか? それじゃあナル、魔兎のところに行って魔力を吸収してこい」
「はーい」
ちなみにこれで魔物を倒すのは5体目である。倒した魔物は全部魔兎という訳ではないが、経験値はどれも同じぐらいだろう。恐らくそろそろレベルが上がる筈だこの世界で初めてのレベルupが。
魔力は近くにいないと吸収出ないため、僕は急いで魔兎の死体に近づき魔力を吸収する。
その瞬間体に流れ込んできた異物を明確に認識し、意識して体に馴染ませるように集中する。既に何回か行った感覚でもまだ慣れていないので、気を抜くと吸収した魔力が抜けていきそうになるのを必死で押しとどめる。
そして数分程してようやく魔力が全身に行き渡ったと思った瞬間。
「――っなんだこの感覚は」
体が突然高熱の時のように暑くなるが不快感はなく、ただ高揚感と明確に自分という存在の格が大きくなり、ようやく世界に自分という存在が生きているかのような、そんな錯覚すら覚える。
「素晴らしいなこれは、この世界に来てから1番気分がいい」
ゲームの時とは違う地に足が着いた感覚。まだどこかゲームのような感覚を受けていた世界が、現実だと認識できるようになったような感じがする。
しかし、その気持ちは長くは続かなかった。段々と体から熱が無くなっていき平静に戻っていく。終わった後またあの感覚を味わいたいという考えが脳内を駆け巡る。
「ナル大丈夫か?レベルは上がったのか?」
そんな風に考えていると、魔力の吸収が終わったと思ったのだろう2人が近づいてくる。
「父さん、兄さん、2人はレベルupするといつもあんなにも高揚感や、言葉にするのは難しいけど最高の感覚を味わうことが出来るのですか?」
僕はあの高揚感を隠せず少しニヤけている顔を何とか抑えながら、あれはもう一度味わうことができるのかと聞く。
「――っああ、ナルが言っているのはあの体が暑くなるような感覚のことを言っているのかい? しかしあれが最高の感覚? 僕はあまり好きではないな。昔病気になった時のことを思い出すからね」
「レベルup時の感じ方は人それぞれだと言うからな、ナルにはいい感覚だったのだろう。 それにレベルup時には、あの感覚は何度も訪れるし感じ方も少しづつ強くなっていくぞ」
「な、あれが更に強くなるんですか?」
それを聞いた僕は笑いが出そうになるのを何とか抑えて考え込む。つまりレベルが上がるごとに自分も強くなるしあの感覚も味わえるといことだ。しかも自分に害はなくただ己のためになるという。
「これなら、俺でもできるんじゃないか」
そう父さんにも兄さんにも聞こえないレベルの声量で独りごちる。これは僕の生き方が変わる、それほどのものだ。
「よし、ナルは魔兎を持って今日のところは家に帰れ。初めてのレベルupで少し興奮してるいるようだし、俺とカイは罠を見てから帰るから。この場所だったら村からも近いし1人で帰れるだろう?」
「わかりました。 今日は大人しく家に帰ります」
そういって俺は来た道を引き返して行った。頭のなかではどのようにして今後レベルを上げるかを考えながら。
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